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アイドル

私の娘は、その日「アイドル」になった。

『私、〇〇○坂46オーディションに応募する』


まさかの発言だった。自分の娘が「アイドルになりたい」なんて言うと思わなかったから。


誰だって自分の子は可愛いと思うだろう、ただアイドルになると話は違う。

自分自身オタクとしてアイドルを追っかけてきたからだ。

華のある世界かもしれないが、それには闇も付き纏う。


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俺は学生時代、生粋のアイドルオタクだった


俺:なあなあ、昨日のMステみた?

友:また〇〇ちゃんの話?それ以外無いんかよ

俺:このダンスと魅せ方、そして歌唱力!どれ 
 をとっても最高やんか〜
 急に同級生なったりせんかな〜

俺:あああああ
 メッセージ送られてきたああああ..グフゥ

友:はぁ..笑

友は「俺にはわからん」と言わんばかりにため息をつく

だがアイドルオタクしてる〇〇の目は宝石のように輝いている
何処かで聞いたことがある、これがガチ恋というものなのだろうか。

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そんな中衝撃の報道が走る



『大人気アイドル〇、イケメン俳優とおうちデート』

友:これって〇〇が好きな子やんか
 急いで〇〇にLINEする

ただ返信はない、相当落ち込んでいるのだろう。

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俺:あーよー寝たわ

いつものように朝眠い目を擦りながらTwitterを見る

俺:さてと、、、、え、、、、

トレンド

『大人気アイドル〇文春砲』

「まさかの〇が、これはグループに大打撃か!」

俺:嘘だ〜笑 寝ぼけてるだけだろ俺

嘘だと言ってくれと言わんばかりに頬をつねる

俺:痛い....マジかよ....


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そこから〇には、厳しい目が送られ、Twitterで〇〇を調べると、擁護コメントより遥かな数のアンチからの誹謗中傷

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友:おーい○○〜昼食い行こうぜ〜

友:おい!○○ってば!

俺:あっ....ごめん

友:やっぱ気になるよな..○のこと

俺は真っ白で、どこか真っ暗な世界に放り込まれたようだった


そして数ヶ月経ち


『大切なお知らせ』


遂にその時が訪れてしまった。

活動休止を経て、復帰予定だったが、ほとぼりが冷めることはなく
○は芸能界を引退した。

それからは、アイドルを応援する自分すら怖くなった

『また、同じことが』

どうしても、追いかける事を躊躇う、そして○の時の様に自分自身、熱くなれない


月日は経ち、俺はオタ卒をしていた

俺:もうアイドルはなぁ〜みんな同じ顔に見え 
 る

友:あの頃は、あんなに熱狂的だったお前が
 まさかの発言だわ、明日雪降りそう笑

俺:んなことねぇわ笑
 まぁ家庭もあるしな

友:そうだよなお互い、いい歳したおっさんだ
 しな〜

俺たちは、程なくして付き合っていた彼女と結婚した。
そして子宝にも恵まれた。

友:お前のとこ、娘ちゃん
 アイドル目指してるらしいやん
 ウチの子から聞いたんやけど
 どうなん?○○的には

俺:正直心配8割

友:いや、たっか!

俺:まあどうしても、アレがよぎるとな

友:でも「○○いつまでそれ引きずるつもり?」

 アイドルを応援してたお前だからこそ分か 
 ることもあるやろうし
 アイドルになりたい!って言ってる 
 子供の夢応援してあげれるの
 オタクやったからこその強み、活かせると 
 思うけどな
 
思わず「ハッ」としてしまったが、その言葉に何も反論できなかった。

娘は「元気を与えたい」と
アイドルオーディションに応募した。

夫婦共々、娘には「やれることは、やってきなさい」
ただ、それだけ伝えた。
一次、二次、順調に合格していく娘に、応援の気持ちと離れて過ごす寂しさ、脳裏にこびりついて剥がれないあの記憶
おかしくなりそうな自分、娘には見せないように、必死で笑顔をつくる
そんな日々が続いた。

そして、最終オーディションを迎えた

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娘:「〇〇ちゃんみたいに、私も元気与えたい」

ただその一心で、無我夢中でオーディションを受けた。
小さい頃からやりたい事は何でも、させてくれたパパとママだったけど、流石に「アイドルになりたい」と言ったときは複雑そうな顔をしていた。
二人は隠しているつもりだったけど、私にはわかる。


    『合格しても、辞退しよう』


     
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最終オーディション結果に娘の名前があった

晴れて、娘はアイドルになった

娘:....わたし、、アイドルになれたよ!

俺:おめでとう。色々と準備しないとな

娘:.........うん...ありがとう!
 精一杯我慢する。『辞退』この言葉が出ない
 
しかし俺には、電話越しで涙を堪えているのが分かった。 

俺:最後に『辞退なんて』考えてないよな
 これから
 娘として、いや〇〇ちゃんとして推させて
 もらうからな。
 元気を与える、アイドルになってください

その後嗚咽するように、涙する声が聴こえる

娘:うん、がんばるね!
 私、みんなに元気与えたい

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合格後、お披露目会に招待された僕たち

俺:何年振り?ってくらい懐かしいなぁ〜現場

マ:あなたってば笑
 あれだけ緊張してたのに、やっぱりオタク
 やん

俺:そらなぁ〜このペンライト、推しタオルみ
 たらテンション上がってくるよ

友:ほんま、変わらんなぁ

俺:ってかお前も来とんかい!

マ:そりゃ、あなたの心を動かした彼にも観に
 来てもらわないと〜

友:ありがとうございます〜笑


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ここで○期生のみんなを紹介したいと思いまーす!

   ウォォォォォォォォォォォォ

順番に挨拶をしていき、遂に娘の番を迎えた


娘:〇〇県出身、〇〇歳の〇〇〇○です。
 私の夢は、みーーんなに笑顔を配達するこ
 とです。皆さん私の笑顔受け取ってくれま 
 すかー??


    ウォォォォォォォォォォォォ



娘:ありがとうございます。
 ここで少し、私の事について話させて
 ください。
 私は、オーディションを受けると伝えたと
 き、父は首を縦にふりませんでした。
 それは、父がアイドルオタクだったからで 
 す。
 応援の声もあればアンチもある世界に飛び 
 込ませる、厳しい世界です。
 それを思っての行動であり、決して間違っ 
 た判断ではないと思います。
 実際私も、オーディションを受ける度に
 辞退しようと何度も何度も考えました。
 
でも、自分が辛かった時、嬉しかった時、そのすべての時に『アイドル』が私には居ました。


今日は、家族も観に来てくれています。

これからも〇〇〇坂46のメンバーとして、皆さんに笑顔を届け、勇気を与えられるよう活動していきますので、よろしくお願いします。
ありがとうございました。


静寂に包まれた世界にわれんばかりの拍手


そして、涙が溢れた

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俺:やっぱり娘が一番可愛い!
 なんでヨリだけ集まらんねん.....
  でらなん行こ

マ:これぞ親バカというか....これが
 アイドルオタクか....
 家族特権使ってサイン書いてもらったら?

俺:いや、それは他のオタクに失礼。自引きし
 てこそ!
 次のミーグリで積むか〜


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正直、不安が拭えたわけではない



でも俺は、娘としてではなく、1人のアイドルとして応援していく。


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