太陽望遠鏡ブロッキングフィルターの交換
Coronado社のPST、SolarMaxなどの太陽望遠鏡や、Lunt社の太陽望遠鏡は経年変化でブロッキングフィルターが劣化していきます。
詳しくは天文ガイド 2024年2月号の山崎明宏氏の連載記事に書かれていますが、ブロッキングフィルターは基本的に消耗品だと考えるしかなさそうです。
交換用ブロッキングフィルターの入手
Lunt社の場合にはユーザーが交換することを前提に下記のLunt社公式サイトから入手可能ですが、Coronado社の場合にはメーカー修理または代理店での修理を前提としているようです。
しかし、Cloudy Nights掲示板からの情報によると、Coronado社の交換用ブロッキングフィルターはMaier社かBelOptik社から入手可能なようです。(さすが世界最大の天文関係掲示板、いろんな猛者が集まっていますね)
今回入手したのは MAIER photonics社の ITF H-Aplha 656nm filterでした。
サイトにはお値段$80 (約1万2千円)と書かれていますが、2024年1月現在は Out of stock とのこと。
そのほかにも Bel Optik 社の ITF Replacement Filter for Coronado BF も同性能で使用可能だと思われますが、こちらは169ユーロ (約2万7千円)で、こちらも stock 0 pcs とのこと。
MeadeUKのサイトにもフィルターがあります。(天文ガイド2024年2月号の記事で知りました)
こちらの値段は不明ですが、こちらも Availability: Out of stock とのことです。
上記のとおり2024年1月現在、いずれも現在在庫切れで入手できませんが、今回は運よくMAIER photonics社製の比較的新しいもの(と、かなり劣化が進んだ古いもの)を入手することができました。
ブロッキングフィルターの交換
ITFフィルターはブロッキングフィルターユニットの鏡筒側方向についており、一般的なカニ目レンチで取り外すことが可能です。
この部分のリングをカニ目レンチを使って緩めるとその下にあるフィルターを取り外すことができます。
このフィルターは湿度で劣化していくそうですので、息を吹きかけたり無水アルコール以外での清掃は出来ません。ITFフィルターには極力触らないように注意します。
取り外したものを並べて比べてみました。
(一番左)今回入手した比較的新しいもの(2023年製)
(真ん中)今回入手したかなり劣化が進んだ古いもの(2012年製)
(一番右)今回取り外した初期からついていた純正品(2012年製)
今回入手した2012年製のものはかなり保存コンディションが悪かったようで中央部分にムラが見られます。(多分これはゴミ箱行きかなぁ)
私が以前から持っていた個体(アメリカから個人輸入)のほうは同じく2012年購入品で透過率こそ低下していますが、表面は均一でコンディションはとても良いように感じました。(多少撮像時にゲインを上げる必要がありましたが、撮像した画像は均一で処理しやすいものでした)
また、よく見ると初期からついている純正品にはフィルターの周囲をカバーしている様子がわかります。(後述しますが、これが今回のキーでした)
青色のコーティングがある面を上(表)にして、また抑えリングをカニ目レンチを使って締め付ければ交換は完了です。
31.7mmスリーブの内側での作業だし、フィルターの表面にはできるだけ触りたくないので、かなり気を遣う作業でした。(フィットする道具を用意して慣れてくれば簡単な作業ですが)
漏れ光
交換後、アイピースをセットしてみると、確かに新しいITFフィルターは良く見えます(透過光量が多く明るいため、プロミネンスがよく見える)
よしよし、と思ってカメラをつけて撮像してみると、あれ?
盛大に変な光が差し込んできます。あちゃー!交換失敗か!!
(ちょっとテンパってたのでこの時の画像は撮ってませんでした)
交換時にカニ目レンチの先端で傷でもつけちゃったかな…と思いながら、天文ガイド 2024年2月号の山崎明宏氏の記事を改めてよく読んでみると
との記述を発見。心を落ち着けて抑えリングを緩めて、少しフィルターを動かして再度固定してみると、フィルターの位置によってはかなり改善されることがわかりました。
しかし、プロミネンスをあぶり出すくらい露出を上げていくとやはり一方向に変な光が。
何度か緩めては動かして再度固定を繰り返すと、そのたびに少しずつ漏れ光の状況は変わるものの、全面にわたってOKの位置がなかなかありません。
カメラの向きを変えてみたり、いろいろやってみてもなかなか満足いく結果が得られません。
この日は時間が無くなってきたので仕方なく、とりあえず可能な限り漏れ光の少ない位置で我慢して撮影をしてみました。
左が新しいフィルターで、右が以前から使っていたオリジナルのフィルターです。(Autostakkert!処理後)
彩層面にレベル調整した程度だと差はあまりなく、気にならないですね。
しかし、プロミネンスをしっかりと出そうとレベル調整するとこんな感じ。
以前のフィルターは全体的にぼんやりしてくるものの極端なムラはなく、気にならない処理ができますが、新しいフィルターのほうが漏れ光の影響が残ります。(右の旧フィルターはゴミが多いなぁ…orz)
imPPGやPhotoshopを使っていつも通り処理してみましたが、やはり左下の明るさが気になります。(これではプロミネンス部分をうまく表現できません)
漏れ光対策
何とか漏れ光を対策したい。そう考えながら改めて純正のフィルターを見るとフィルターの周辺は黒く縁取りされていることに気が付きました。(前述)
ユニットとしては「ブロッキングフィルター10mm」というスペックですが、このフィルター直径17.7mm(BeloptikのHPより)です。オリジナル品のようにもう少し絞っても問題ないのであれば、同じようにマスクを作ればよいのでは?、と考えてカッティングシート(艶消し黒)を用意して円形のマスクを作ってみました。
とりあえず、綺麗に剥がせなくなったら嫌なので、貼り付けは行わず置くだけでテストしてみます。
この状態で撮影してみると…、
ばっちり改善しました!(ふぅ、よかった)
フィルターに対してマスクをぴっちりと張り付けなくても適当に置いただけでも効果はありそうです。
動画撮像して処理した結果がこちら。
良いじゃないか!
確認できていませんが、眼視の場合でもコントラストの向上などいい効果があると予想されます。
さて、遮光リングの効果は確認できたので、もう少し円カットをきれいにしたり、固定方法を検討することにしましょう。
マスクリングの固定
まずはとりあえず置いただけでテストしてみましたが、このままでは鏡筒の向きを変えたりしたときに移動して最悪鏡筒の中に落ちて行ってしまいます。
かといって糊残りの影響が気になるのでカッティングシート裏面のシールを使ってペッタリと固定するのも気になります。
そこで、ハサミでチョキチョキ工作してこんな形のマスクにしてみました。
爪の部分はスリーブの内径より少し大きくして、スリーブ内部の溝に当たるようにしています。
いい感じにスリーブ内部のネジ溝に入って、振ってみても全然動かなくなりました。(バンザーイ)
メモ
購入したカッティングシート(艶消し)はこちら。380円でした。
ある程度硬さもあり、コンパスカッターでカットする際にも中心の針がブレずにカットすることができました。また、固定方法のところで書いた「爪」の役割もしっかりしてくれました。
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