ネアリカとウイチョル族
「ネアリカ」は、メキシコ北部のシエラ山脈に住む先住民ウイチョル族のつくる毛糸絵画のことです。
「ネアリカ」は、「あの世とこの世を結ぶトンネル」という意味なんです。
一年に一度、ウイチョル族はグループを編成して、聖地ウィリクタへ、片道400キロの山を越えて歩き、ヒクリ(幻覚サボテン)を採集する巡礼に出ます。その中には女性や子どもも含まれます。
最初のヒクリ(幻覚サボテン)を見つけたとき、シャーマンはヒクリに矢(ムビエリ)を放ちます。鹿の精霊「カウユマリ」のを狩るという儀式です。
巡礼の間は完全断食で、ヒクリしか食べてはいけません。水分も含まれていますが、これがとてつもなく苦いのです。
1個食べるのにも苦労しますが、3個以上食べないとビジョン(幻覚)を見ることはできません。ビジョンを見ることは、神と対話することです。
ウイチョル族は、幼い子どもにもヒクリを食べさせる伝統があります。それが彼らの文化であり、色彩豊かなビーズアートを作る源なのです。
シャーマンはヒクリを食べて見たヴィジョンを、蜜蝋を塗った板に極彩色の毛糸を貼って描きます。それがネアリカです。
ネアリカを描くのは、シャーマンだけです。ウイチョル族にとってネアリカは、インスピレーションと熟練した技術が必要であり、ウイチョル族の宗教的世界観を知り尽くしたシャーマンだけが作ることができると考えています。
先住民族は、文字をもたず、「口伝」や絵で何万年もの記憶を伝えてきました。
文字が発明されたとたん、人間の記憶力は右脳から左脳に移り、10000分の1に低下したという説もあります。
ウイチョル族は、シャーマンの描いたネアリカによって、何万年にもおよぶ神話や、各個人の問題を解決する未来のビジョンまでも、知ることができます。
ネアリカは、教科書であり、預言書でもあるのです。