カレーライスのはなし

父方の祖母は、とても真面目なひとだった。
若い頃は銀行員として働き、建築士の祖父と結婚し、ふたりの男の子を出産した。
その長男が私の父である。
祖母の趣味は書道であった。
父方の親戚には書を趣味としているひとが多かったこともあり、きっと祖母は小さい頃から筆と墨に慣れ親しんでいたのだろう。

私が小学校1年の時に祖父と父が家を建て、祖父母、両親、姉、私で6人暮らしをすることになるのだが、それまで祖父母はふたりでマンション暮らしをしていた。
祖父母の部屋はマンションの最上階にあり、当時父の勤める会社の、お世辞にも大きいとは言えない社宅に住んでいた私は、階数ボタンの多いエレベーターに乗るたびにドキドキしていた。

私と姉が遊びに行くと、祖母はよくカレーライスを作ってくれた。
辛いと感じたことはなかったから、きっと甘口のカレールーを使ってくれていたのだろう。
そしてテーブルに並んだ4皿のカレーライスに、うすしお味のポテトチップスを手で砕き、ふりかけてくれたのだ。
「こうするとね、美味しいんだよ」
ニコニコしながら言うわけでもなく、いつも通りの話し方だった。
食べ慣れたカレーライスの食感のなかに、さくさくという音、甘じょっぱい味わい、そういったものが混ざってとても美味しかったのを覚えている。
私と姉は祖母のカレーライスが好きだった。

祖母は真面目ゆえに不器用だったし、愛想がいいかと聞かれると少し困る。
けれども、孫が遊びに来たときにカレーライスにポテトチップスをふりかけてくれる人だったのだ。
祖父とふたりのときにはきっと、いや絶対にしていなかっただろう。
孫を喜ばせたいと、そう思っていたであろうことに今になって思いを馳せる。
私と姉は、祖母の愛情を受け取っていた。
今度カレーライスを作るときには、スーパーのお菓子売り場にも立ち寄ろうと思う。

#カレーライス #家族 #愛情

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