義兄のはなし
私の姉は結婚しており、娘がひとりいる。
今日は姉の旦那さん、つまり私の義兄について書こうと思う。
私が義兄と初めて会ったのは、いつの年だったかは忘れたが、たしか秋だった。
私と姉が雑貨屋で買った凧を上げて遊んでいたら、凧糸が絡まってしまったのだ。
姉が誰かに電話をかけていた。
10分かそこら経った頃、公園にひとりの男性が来た。
黒いコーチジャケットに黒いスキニー、そしてなんだか派手なスニーカーを履いていた。
のちに義兄となるひとの、絡まった糸を直す後ろ姿を覚えている。
彼女の凧糸をほどくために10分で駆けつけてくれる人ってのがこの世にいるんだな、とぼんやり思った。
姉と義兄がまだカップルだった頃、私は無職だった。
当然お金もない。
姉と義兄はそんな私を時折ラーメン屋や焼肉屋に連れて行ってくれて、義兄はその度に「俺はお兄ちゃんだから」と言って会計をしてくれるのだった。
お兄ちゃん。
その響きは、私が小さい頃から憧れていたそのものであった。
とても有難かったけれども、なんだか照れくさくて「ありがとうございます、ご馳走様でした」くらいしか言えていなかったように思う。
姉と義兄の結婚式のこともよく覚えている。
私は姉のウェディングドレス姿に、そしてその一挙一動にいちいち涙してしまって、親戚から「泣きすぎだよ」と笑われた。
義兄は姉よりも緊張していたように思うが、披露宴終盤の新郎からのスピーチのときに、堂々とした張りのある声で「〇〇ちゃんは僕の宝物です」と言ったのだ。
ああ良かったと、姉は幸せになるんだと、これから訪れるであろうあたたかい日々が目に浮かび、そこで私はまた涙を拭くのだった。
義兄とのエピソードは他にもあるが、今日はこれくらいにしようと思う。
私の最愛の姉を人生の伴侶に選んでくれた義兄に、とても感謝している。
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