昼下がりの鼠たち(シナリオ)
「昼下がりの鼠たち」
人物
倉田健一(40)無職
倉田雪子(36)パート
倉田雄輝(5)園児
◯アパート・外観
バラック調の傾きかけた2階建て。
鉄骨部分は錆びついてメンテナンスされ
ていない。
通路には洗濯機と洗濯物が干されてい
る。
◯同・茶の間
整理整頓はされておらず雑多な様子。
隅には埃が溜まっていて、
テーブルの下の畳には食べこぼしたもの
が落ちている。
寝そべってテレビを観ている倉田健一
(40)。
手許にオモチャが転がっている。
テレビの音量は大きめ。
倉田雪子(36)が目をこすりながら、
襖からゆっくり顔を出して
雪子「すみません。もう少し音を下げてくださ
い」
倉田、テレビを観ながら
倉田「チッ、るせー」
と指で畳を小突く。
雪子「もう少ししたら仕事なので、寝かせてく
ださい」
倉田「なんとか上手いことして寝ろや」
拳で畳をドつく。
雪子「せめて雄輝は寝かせてあげてください」
と振り返る。
◯同・寝室
押し入れは半開きで、中のものがはみ出
している。
衣装ケースが積み上げられていて、
ハンガーラックには掛かり切れない服が
かぶさっている。
布団が二人分敷かれていて、一方に倉田
雄輝(5)が寝ている。
傍らには保冷剤や処方箋がある。
◯同・茶の間
倉田、ギッとテレビを睨んでから、
起き上がり際に足元のオモチャを掴む。
テレビにオモチャが飛んできて当たって
砕ける。
雪子「ヒィッ」
倉田、立ち上がり
雪子に背を向けたまま
倉田の声「ちょっと出てくるわ」
雪子「え?、ちょ、この子どうすんのよ?」
倉田の声「ガチャガチャうるせーなー。
テメーが見てりゃいいだろうが」
雪子「これ以上休めないです。
やっと見つけた職場なのに」
雪子、泣き始める。
倉田「テメーが悪いだけだろうが。
自業自得だ」
雪子、泣き叫び出す。
倉田「うるさい!ぶっ殺されてーのか!」
叫びながら周りの物に八当たりし、
泣き叫ぶ雪子の胸ぐらを掴む倉田。
と雪子の背後からか細い雄輝の声。
雪子、胸ぐらを摘まれたまま
雪子「え?雄君、どうしたの?苦しい?」
倉田も視線をそちらへ向ける。
雄輝の声「お父ちゃんごめんね。
僕、熱出ちゃって。
お散歩行ってきていいよ。
行ってらっしゃい」
倉田、雪子を掴んだ手を振り解く。
◯同・寝室
雄輝を見つめている雪子、下を向く。
雪子の眼から涙が落ちる。
奥からガサガサと靴を履く音。
◯同・玄関
下駄箱もなく簡素な作り。
薄汚れた小さい靴と
ボロボロな大きめの女性っぽい靴が
隅に無造作にある。
音をたて扉が閉まる。
「完」