山の紅衣がひらひら哀しく 焚き火の音を踏み締めて 芋の匂ひをほのかに味わい 時折鋭利な風を思う 骨髄の蒸発に悲しみを覚え 朽ちた大木の隙間には ギロギロした目玉が詰まる 屍鬼の迫った水面の杭に わずかな希望のシルクを見届け ぬかるみに片足突っ込むと ミミズ千匹絡みつく カラスは静かにエサを待ち 夕日の目眩し利用して 異界の住人そばにいる
常世のうねりを知りたくて 森の意識が溌剌な刻 ひそひそ盗み聞き 森と肉体有機的結合で 意識をダウンロードできるだろうか 時間次元を超越可能と嗤う 苦痛を信じひたすらじっと寝ていろと 隣でぬるりとミミズが囁く 千夜一夜夜は更けて 髄から逃げたリンは陽炎に 意識は悪霊と化す手前で 落ち葉の隙間にドロリと滴り 暗闇の根が骨の髄まで吸い取り 本質は木々に感染していく 幹枝葉隅々まで溶け広がり 枯葉と新芽のエネルギーが応え 脳髄の奥から響きわたる狂想曲
手招きに黄昏そよぐ 意識の流れを 森のネットワークに絡ませてみる 時の冷んやりした障りが うなじに覚える 静かな暴力が松果体をえぐり 爪の隙間から気が揺らぎ 森のあやかし靄と融合する 地面から這い出た舌は ぬらりと足に絡みつき 細胞核にツルッと侵蝕する やがて身体は溶融し森の部品と化す 守っているだと? 消化しているだけさ きっと支配されてるのだろう もうずっと昔から こうしてきたはずなのに 新参者が御託を並べるばかりと 呟く いつしか吸
弾丸の雨に口づけを ただ、そっと口づけをすれば ただれた肉を燃された煙が どんよりと空を垂れても 裸でルージュを握りしめ 毛穴という毛穴から 気を撒き散らす でも結局 絶対的な悪とか善とかは紙一重 宿敵は宿敵であって宿敵でない 意識はほんの少し先の 物質世界の外にある 繋がった海原に ルージュに投げキッスした後は 己に投下せよ ホツマの宿る言霊に 軌跡は奇跡であったと望むのみ
蝉の鳴かない岩の奥 針の先が集まった朝モヤに 時を丸めて池に投げる 波紋は静かに語りだす こっちへおいでと彼らは手招き 寺は夜通しお経を唱える ナマズのヒゲがピンと張り 時空の歪みを指し示す 過去と未来と現在が同時にあって 喜びと悲しみと怒りが交錯するあたりに チューニングしてみる それは朝しかないと 水から上がったカエルが呟く
ギラギラお天道様を睨みすぎて 肌も大地もヒリヒリ赤黒く 蝉も疑心暗鬼にくたびれて 死にそびれ そこに僅かな枯葉のにおい 温い間に鋭利な刃が走る 天を仰げば背はもう高く 気づけば火はもう居ない 急かされた大気は泣きっ面 たくさん泣きすぎて 涙がだばだば集まって いつしか建物も壊す始末 銀の詩は姿を変え 天は蒼く滴をたれ 燃え盛りのやかましい親父は 山へ行き ゴールデンハーベストの似合う 飛行機を追いかける童は バタバタ倒れだす
宇宙の宇宙の底へ ずっとずっとずぅっと 深ぁく潜っていくと きっと 一つの不安定な 粒と波が見えてくる 粒になったり波になったりと 行ったり来たり その間で起こる ゆらぎが 新しい反応を起こし また新しい反応と衝突し 新たな反応へ続いていく こうやって気づくと とてつもなく 息苦しいほどの反応が グラスの淵から こぼれ落ちる水の如きに 世の中の原型を生む もし原型が実態のないとしたら 粒と波が引き起こす愉快な幻影である
色彩を弾かれた大地 時化も彩りを吸い取り 灯籠の水垢と万年苔の湿りに 手放した青春が懐かしい 瓶に浮かぶ枯葉船の 臨界点を越えた旅人は 雷様と北へと旅立ち 燃えだかる気は冷却へと向かう 死への執着は生への執着 死の恐怖は生の喜び ここは極東 行き場のないやるせなさは 休みなく果てし無く
分子レベルで解体された死屍が 冷たい体で佇み 蝉もここでは沈黙し 水たまりも青い空も いつもの雲も黙り込む でも気を許してはいけない 目が合った時 一瞬の閃光が 悲しみを抱えた死屍が 心を割いて潜り込む 分子レベルの悲しみが 巨大なハンマーのように 全てを打ち砕くに違いない あとに残るのは やるせない無念
淡く白い弓矢が 鋭利に肌を切り 路面に暴れる時化は 人の心を寂しく揺らす 迎えの列車はもう来ない 迎えの人影も見えない 信号だけがいやに暖かい 目玉の奥に映すのは 故郷の夕焼け小焼け ここは 電波も凍る 最果ての地
花咲の糸 湿原に浮かぶ先に 希望の国あるといふ 東の外れにあるといふ 大人になれる国 老若男女等しく 尊重とプライドのある国 だから 花咲の糸が切れてしまわぬ前に 伝承者が居らぬなら この目で見てきて 皆に伝えたい
影に潜む生き物たちや いてつく風にガラスを覚え 迎えに来るは黄昏や 足音出すたび戸に目あり そそりそそりと足急ぐ 喉の音すら大いに響かん
振り向けば いつ首飛ぶか 怖々に せめてもの光 引き寄せて 信号灯の暖かさ 不毛の大地を踏みしめる
懐かしい緑 風化の石は個人をしのぶ 蝉の子は滝を昇り わずかに陰に引っ張られ 陽は降りしきる 陰が活きずく夕刻に 異界の門が開かれる 黄泉の者との交信に 温かさ想うしれど 他所のナニカを引き寄せる すれ違うのは誰そ彼や
振り向けば いつ首飛ぶか 怖々に せめてもの心 引き寄せて 信号灯の暖かさ 不毛の大地を踏みしめる
カーン カーン 鹿の角音だけが原野をきしまし ススキ波打つ遠くに 冷たい月が浮いている 全てが寂しいこのへき地 思い出と想像を楽しみに 温かみが懐かしく 原色光ぽつり