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早く帰りたいのにあざとい後輩がつきまとってくるんですけど…


"帰り道"

これは人によって捉え方が違うものだろう。


ある人にとっては友達や彼女と過ごす時間。
ある人にとっては授業終わりの開放感に満たされる時間。
ある人にとっては寄り道してどこかで遊ぶ時間。


そしてこの男〇〇にとっては…


〇〇:授業伸びた…古〇任〇郎まだ間に合うか?


ただの無駄な時間である。
とにかく、早く帰りたい。どこでも〇アさえあれば今すぐに家に帰る。
この時間を、もっと有意義に使いたい。

けど最近、その時間がある女に侵食されかけているのだ。


??:せんぱーい!ちょっと待ってくださーい!

〇〇:あ、やべ…。追いつかれた…。

??:はぁはぁ…。ちょっと先輩!なんで美空を置いて帰るんですか?

〇〇:俺は早く帰って古〇任〇郎を見たいんだよ。

美空:…え、もう始まってません?

〇〇:今から帰ったら謎解明するとこは見れるだろ。

美空:それ、何が面白いんですか?

〇〇:?、一番あそこが面白いだろ。

美空:…先輩の感性、よくわかんないです。


この一ノ瀬美空という後輩。今年うちの学校に入ってきた新入生なのだが、最近帰り道につきまとってくるのだ。



〇〇:…しっかし、なんで俺につきまとってくるんだよ。

美空:それはもちろん、先輩のことが好きだからに決まってますっ!

〇〇:俺、あんま話したことなかったはずなんだけど…。なんか、きっかけあったっけ?

美空:それはもちろん…ひ・と・め・ぼ・れ♡!

先輩も、美空に一目惚れしませんか♡?


あざとく両手を♡にして目をきゅるきゅるさせながら言ってくる。

〇〇:いやもう何回か会ってるから一目惚れじゃないだろ。

美空:そこは乗ってくれるところじゃないですか!


こんな感じであしらうのも大変なのだ。対応に体力を消費させられて、結果的に帰るのがどんどん遅くなってしまう。

〇〇:第一お前、高一だろ。なんか部活とか入って友達作った方がいいんじゃないのか?

美空:あー!ひどい! 今、美空のことお前って呼びましたね?
きちんと美空って呼んでください!

ほらいきますよ、せーの!

「みーきゅーん〜!」

〇〇:美空ですらねぇじゃねぇか。

美空:むぅ…つれないなぁ。



はぁ…疲れる。もうダッシュで逃げてやろうかな。そんな元気ないけど。


美空:えいっ!

〇〇:ちょ、おいっ…

美空:えへへ、先輩捕まえましたっ!


考えていたら、無理矢理腕を組んで逃げられないようにしてきた。
もう逃げ帰れねぇや…。諦めよ。


美空:へへ…美空たちカップルに見えますかね?

〇〇:側から"見たら"そうかもな

美空:美空はカップルの気持ちですけどねっ♡

〇〇:はいはい…。で?部活入んないの?

美空:またあしらわれちゃった…。しゅん…。
部活は…いい部活があったら入りたいんですけど、希望通りの部活がなくて。

〇〇:どういうのに入りたいとかあるの?



指もじもじさせながらしゅんとか本当にやるやついるんだと思いながらも、真面目に後輩に疑問を投げかける。

こいつが部活入ったら、解放されるかもしれないしな。ここは人肌脱いで相談に乗ってやろう。


美空:それはもちろん!〇〇先輩が入ってる部活です!

〇〇:真面目にお悩み相談してやろうと思った俺が馬鹿だったわ。

美空:先輩が部活に入れば悩みは解決するんですけど…部活入らないんですか?

〇〇:俺は放課後再放送を見る古〇部っていう部活入ってるから。

美空:じゃあ…、美空古〇部入部希望です!

〇〇:…言うてもただの帰宅部だからな?

美空:分かってます!先輩と帰ってお家で一緒にドラマ見る部活ですよね?

〇〇:違う。そんな部活は今すぐ廃部だ。


適当にあしらおうとしても、めちゃくちゃ粘ってくる。

そんなしょうもない話をしていたら、すぐ家に着いた。


〇〇:家ここだから。じゃあな。

美空:美空のこと、家まで送ってくれないんですか♡?

これまた効果音できゅるるんって付いてそうなあざとい声で言ってくる。


〇〇:嫌だ。

美空:えー…美空寂しいですぅ…

〇〇:美空は寂しかったら死ぬウサギなのか?

美空:あっ!今美空って呼んでくれましたね? みくぴょん嬉しいぴょん!

〇〇:あー、うるさいうるさい。


結局、家まで送らされた。


その後も美空による帰り道のつきまといは続いた。

ある日は帰り道に遠回りして道に迷い、

”美空:先輩と長く一緒にいられて嬉しいです!”

”〇〇:美空のせいで迷ったんだけど?”


ある日はコンビニでジュースを奢らされ、


”美空:先輩、このジュース美味しいです!一口いります?

”〇〇:間接キスになっちゃうだろ!”


ある日は無理矢理家に乗り込まれ部活動を行い、


”美空:ぐすん…こんな泣くとは思ってませんでした…。 ずずっ゛”

”〇〇:おい!俺の服で鼻をかむな!”



もはや〇〇も無理に美空を剥がすことはしなくなった。

この帰り道は〇〇にとっての日常と化していったのだ。



そんな日常の中でのある日の帰り道、

〇〇:美空遅いな。

今日はいつもと違って美空が絡みに来ない。


〇〇:まぁ、帰ってたら追いついてくるだろ。


しかし、10分経っても美空は来ない。
最初は、今日は美空から解放されると少し安心した。
けれど…

〇〇:家遠いな…。暇だし。

いつもはあんなに近かった家が、今日は遠く感じる。

原因は分かってる。美空がいないからだ。

美空と帰るようになるまではあんな無駄な時間と思っていた帰り道が、いつの間にか大切な時間になっていたんだ。


〇〇:はぁ…。とんでもないこと気づいちゃったな…。


美空のおかげで帰り道の捉え方が変わった。
そのことに気づいた瞬間、学校の方向へ駆け出していた。



〇〇:はぁはぁ…。確か美空の教室は…。

美空:あれ、先輩?


昇降口に着くとですぐに美空は見つかった。


美空:どうしたんですか?

勢いで来てしまったので返事が出来ない。

美空:もしかして…。美空を迎えにきたとか!

って、先輩に限ってそんなことないですよね…。もう仕事終わったので、一緒に帰りましょ!

〇〇:…そうだけど?

美空:…ふぇっ?

〇〇…美空がいないと帰り道がつまんないから迎えにきた。


もう、正直に伝えることにした。
美空は呆気にとられた顔をしている。


美空:…ほんとですか?

〇〇:ほんとだけど。

美空:…これ、夢ですかね?

〇〇:じゃあ証明するか?


〇〇が美空のほっぺを引っ張る。


美空:ふぃたいでふぅ…。

〇〇:ほら、夢じゃないだろ。

美空:だって…、先輩が美空と帰りたいって言うと思ってなくて…。


美空が泣きそうな顔をしながら言ってくる。

〇〇:泣くなよ。美空は笑ってる顔が一番可愛いんだから。

美空:先輩…。


一度正直になると、本心がすらすら口から出てくる。
もう、歯止めが効かない。

〇〇:俺、美空が好きだ。

美空:私も…先輩のこと、大好きです!



美空の顔に笑顔が咲いた。
うん、やっぱり笑顔が一番だ。


〇〇:…よし、じゃあ帰るか?

美空:はい!

"先輩、今日も明日もずーっと一緒に帰りましょ!"


帰り道だけじゃなく、ずっと美空と一緒に過ごすよ。

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