「アフター6ジャンクション」で紹介したオススメ漫画(2023年3月21日)
2023年3月21日(火)放送
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」
当番組に「マンガが好き過ぎる芸人」として出演した際に「新しいことに挑戦している、最新おすすめマンガ」と題して漫画を4作品紹介してきました。しかし、限られた時間内で魅力を話すというのは難しいですね。ということで今回は話し足りなかったことも含めていろいろ書いていこうと思います。
放送を聴く場合は、radiko(放送一週間後まで)かSpotifyにて聴いてみてください。
アフター6ジャンクション(1) | TBSラジオ | 2023/03/21/火 18:00-19:00https://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20230321183000
「新しいことに挑戦している、最新おすすめマンガ」
毎回選書にめちゃくちゃ悩むんですけど、いま自分が何を紹介すべきか、何を読んでほしいのか、「アフター6ジャンクション」という番組の聴取層にどういった内容が響きそうか、さらに発売のタイミング等を踏まえつつ、最終的に自分がアツく語れそうな10作品ほど書き出した候補の中から、今回はこれかなーという4作品にしました。
基本的にいつもは聴いた後すぐ手に入れやすいことも考えて、すでに単行本が発売している作品を選ぶんですけど、今回はまだ単行本になってないもので面白いのもあるからぜひ話したいとお伝えしたら快く了解してくれました。いつもありがとうございます。
1. 『これ描いて死ね』 とよ田みのる
小学館「ゲッサン」で月刊連載中。既刊2巻で、第3巻が4月12日発売!
『これ描いて死ね』は、宝島社「このマンガがすごい!2023」オトコ編6位、そしてちょうど本日!「マンガ大賞2023」大賞を受賞されました!!
おめでとうございます!!!!!嬉しすぎる!!!!!愛!!!!!!!
とよ田みのる先生は、前作『金剛寺さんは面倒臭い』も、「このマンガがすごい! 2019」オトコ編 第2位を始め「マンガ大賞2019」など様々なランキングにランクインを果たしていて、漫画好きの間でも必ず話題に上がる作家さんです!!!!熱!!!!!
すべての漫画関係者、漫画読者、漫画家、漫画家を目指すひとたち!そして、全人類がいま読むべき漫画です!
『これ描いて死ね』の魅力はなんといっても、漫画を描くこと、読むこと、漫画に関わるすべてを好きだという気持ち、その熱量と愛をダイレクトに伝えてくれているところじゃないでしょうか。とよ田先生の溢れるほどの漫画愛とおそらくご本人の体験・感動・絶望がぎゅうぎゅうに詰め込まれてます!
読者側からしたら、スッと染み込むように分かりやすく、青春と郷愁と希望と友情と師弟愛で優しく包み込んで感情を揺さぶられ続け泣けてくる作品です。
漫画を読んだことがある人は誰しも漫画に心動かされ、行動に影響したり、勇気づけられ背中を押されたり、落ち込んだときは寄り添い、物事の真理や人間関係を教えてくれたり様々な経験があるかと思います。この漫画は、その時々で漫画から受けたあらゆる感情を殴られるような解像度で描かれているのがめちゃくちゃいいんですよね。
漫画の絵も隅々まで美意識が行き渡っていて、それもそのはず、アシタント入れずに基本的に一人で描いていらっしゃるんだとか。たまに別の絵柄の部分は奥さんのトミイアサコさんに手伝ってもらってるそうです。とよ田先生はこれまでの作品でもそうなんですが、画面構成も挑戦的で遊び心に溢れてて、読者を驚かせよう、楽しませようという心意気に溢れてるのが本作でもよくわかります。
昭和の『まんが道』、平成の『バクマン』に連なる本格的な「漫画家マンガ」というジャンルではあるんですが、令和の『これ描いて死ね』はそもそも漫画を描くとはどういうことか、というところからやってくれています。というのも、ここが新しいと思うんですが、主人公たちは明確に漫画家を目指しているところから始まってないんです。つまり「漫画マンガ」なんですね。
漫画が好きで好きで大好きで漫画のおかげで思い切った行動にも移せた、そんな女の子が「コミティア」という同人誌即売会へ行ってそこにいる人がみんな漫画を描いている、という気づきをきっかけに「自分でも漫画を描いていいんだ」と思い至るんですね。そして学校の先生こそが、これまで愛読してきた憧れの漫画家であったという出会いから始まっていく。
先生もこれまで命を懸けて漫画を描いてボロボロになった経験も踏まえて、かつての自分を重ね主人公たちの漫画を描くことの楽しさの芽を潰さないようにしている愛もまたグッとくるんです。
愛とか感情、熱などと書いてますが「漫画が大好きな高校生の女の子が自分で描き始める」という設定がシンプルだからこそ、読者側も感情面の描写をよりダイレクトに受け取って読めるんですよね!読者としてはすっごく読みやすいけど、描いてる側にとってはかなり高度で難しい描写なんじゃないのかなと思ってしまいます。
そして『これ描いて死ね』を読むと、気持ち一つあれば漫画を描けるようになりそうな教科書でもあるのがまた最高なんですよねー!創作のハードルを低くしてくれている気がします!次世代の漫画を生む漫画家たちを育てようとする気概を感じます。そして、とよ田先生自身も読者を漫画の面白さで殺す気で描いているんだろうなという圧がひしひしと伝わってきます。
試し読み
『金剛寺さんは面倒臭い』連載時に、ありがたいことにかなりたっぷりとインタビューさせていただいたので、気になった方はぜひ読んでみてください!
一番上の画像の「アフター6ジャンクション」収録時に僕が着ていったTシャツが何かすぐ分かった方は握手しましょう!
そして、とよ田みのる先生がゲストだったのにコロナで延期になっていたトークイベント「行け!よしもと漫画研究部!」を復活させたいです。コロナ禍での会場の人数、スケジュールもろもろで難しくなっていて、当たり前ですが現在は連載中でお忙しそうなので、やれるとしたら完結したタイミングでしょうか。もし難しければ、他の形でもこのイベントのために作ってくれた特別な同人誌をきちんとファンの手へ届けられればよいのですが…。
2. 『ダイヤモンドの功罪』 平井大橋
今年2月9日発売の集英社「週刊ヤングジャンプ」11号から連載スタート。
ということでまだ1巻も出ていません!
ただ、現在7話の時点で読者は誰かと話したくてうずうずしています。
単行本になる前に面白い漫画を拡散するのが雑誌読みである自分の使命の一つだと思っているので、これは確実に読んでいただきたいです。
才能を持つ苦悩と残酷さ、その周囲への影響力を天才側の視点から克明に描き出した、新しいタイプの野球漫画です。
題材としては野球ではあるんですが、スポーツ漫画らしい爽快な話では全くなく、天才ゆえの静かに絡みつく孤独とどこに向けたらいいか分からないどす黒い気持ちが心にざわざわ立ち込めてきてそういうの好きな人にとっては心掻き乱されてもう最高です!
要は、スポットライトが当たっているのがスポーツとしての側面ではなく、あくまで人物と才能や周囲の人間関係などの内面なんですね。だから野球が分からなくても、そこで巻き起こるドラマを誰でも冷や汗かきながらが楽しめるんです。
こういった、スポーツ漫画だけど競技性よりも心理描写や人間関係に重きを置いた他の漫画だと、魚豊先生の陸上漫画『ひゃくえむ。』も新鮮で面白いです。
本来、才能を活かすも活かさないも本人次第ですが、本人の人格や意志なんてどうでもいいと思わせてしまう強烈な才能を見つけてしまった大人たちはどうにか担ぎ上げたくなってしまう。平井大橋先生は、そういう見たくない大人の一面とそれを見ている子供の目線を描くのが上手すぎるんですよね…。子供たちは特別扱いを敏感に感じ取るし、才能の前ではきれいごとなんて無意味だという残酷さを目の当たりにする。子供の未成熟なメンタルでは処理しきれず言語化できない暗い感情がズズズっと溢れてくる。これはたまりません…。
試し読み
『ダイヤモンドの功罪』に連なる読切4作品『可視光線』『サインミス』『ゴーストバッター』『ゴーストライト』については、以下の記事の中でも軽く触れています。いまは読切も全て無料で読めるのでぜひ!
3. 『コワい話は≠くだけで。』 漫画:景山五月/原作:梨
KADOKAWA、大人女性向けのwebマンガ誌「ComicBridge」で月刊連載中。「女性が読む青年誌」がテーマの雑誌。有名な作品だと実写映画化もした『マイ・ブロークン・マリコ』などを輩出しています。
『コワい話は≠くだけで。』は、2022年に発売した怪談系ホラー漫画で一番好きです。というか、正直読んだ中では一番怖かったです。個人的に第3話は怖くてちょっと涙出てました…。
あらすじは、上に書いてあるように超シンプルなんですが少し補足すると、「これまでほのぼのした漫画しか描いたことがなかった漫画家が、出版社に依頼されて怪談の取材をして漫画にしていくが…。」というお話です。…ほぼ変わらないですね。ここから自分なりの解説を試みるんですが、ホラーっていうジャンルだと要素を分解してから読むと一発目に読んだときの純粋に本能に訴えかける怖さが少し薄れてしまうかもしれません。ホラーの読み味を大事にしている人は読み飛ばしてください。
漫画家が怪談を取材して漫画にするホラー漫画なので、一話完結の怪談オムニバスという形式よりもう二段階、設定に奥行きが感じられるんです。
ただの怪談のオムニバスにしたとしても怪談だけの内容だけで十分怖いんですが、そうしないのにはいくつか理由がありそうです。
まず、怪談の怖さはもちろん上質なのですが、この漫画の肝は話の重層的な構造なんじゃないかと。話の深度といってもいいかもしれませんが、ざっくりと3つの層に分かれています。
まず、①単行本表紙の絵のリアルなタッチで漫画家を描いているパート。これがこの漫画の世界の現実ですね。
次に、②この漫画の主人公である漫画家が、デフォルメした二頭身のエッセイ漫画風タッチで描く漫画内漫画のパート。
そして、③取材した怪談をもとにリアルなタッチの漫画で再現するパートです。
①→②→③と話が進むと、描き分けが上手くて段階的に没入していく仕組みになっているので、③の怪談パートに達したときの没入感が高いんですね。ホラーは没入度が高ければ高いほど怖いのでこの時点でめちゃくちゃ効果的。
さらに、この3つの層を行き来しているうちにそれぞれの境界が曖昧になっていく感覚に陥る。するとどうなるか。この漫画自体と我々の現実の境界も曖昧になってきて、絶対に安全だと思っていた読者であるこちら側に何かが滲み出てくるような気がしてきて恐怖が増すような仕掛けが施されているんじゃないかなと。
②のエッセイ漫画風の二頭身の絵というのも良くて、こうされると描いてる漫画家がいる段階①って現実じゃんって感覚になるんです。ここでいう現実って、漫画の現実と我々の現実が地続きな感覚になるってことですね。そうなるともう狙い通りに、①の漫画家自身に何かが起きてしまうことは、漫画を飛び越えてこっちに来ちゃったってことなんです。スマホで読んでいたとき「こっち来んな!」と怖くて投げたくなりました。
さらに怪談自体がそれぞれ全く無関係な話だと思って読んでいると、もしかしてこれって…とうっすら関連性を感じるようになって、より話が立体的に浮き上がってくるんです。バラバラだったはずの話が手元・脳内で繋がる嫌な感覚…。
取材方法にもリモート、チャット、対面などの違いで怪談に意味が出てきているし、話の中で使っているwebサービスだったりガジェットが現代の怪談のリアルさを出しています。位置情報アプリや、ワイヤレスイヤホン、配信、リモート会議など、フェイクドキュメンタリー的にそれらしい説得力を出すための材料・証拠を出すのが上手いんですよねー!
細かいところですが、紙の書籍で買った場合の裏表紙のあらすじの部分、帯で隠れているところをめくると味な仕掛けが…。
原作者の梨(@pear0001sub)先生ですが、人が怖いと感じるとはどういうことかを考えて、枠組みから怪談を再構成してこういう形にしているんじゃないでしょうか。怪談もいくつか読んでみるとそういう意識を感じました。
梨先生は、オモコロなどネットの創作怪談でたびたび話題になっている方で、昨年末に放送されネットをざわつかせたフェイクドキュメンタリー番組『このテープもってないですか?』でも構成に入っていたのでやっぱりそうだよなーと一人でめちゃくちゃ頷きました。
試し読み
4. 『神田ごくら町職人ばなし』 坂上暁仁
リイド社「トーチweb」で不定期連載中。そして、全話無料公開中。
もともとは「コミック乱」で連載していたものが、「トーチweb」に移籍した形ですね。
しかしちょっともう凄まじいですね、この漫画は。
一目見ればすぐ分かる良さ。
画力が高い!!
江戸の職人たちの表情、眼、手付きの演技、職人の道具へのリスペクト、江戸の風土と文化も感じられて素晴らしいし、背景の細部まで描き込みが多いのにすっきりスルスル読めるのは尋常じゃないと思います。場合によっては描き込みの密度が高いと見づらくなってしまうこともあるけど、画面にメリハリがきいていて整理されていて見やすい。綿密な取材もあると思いますし、歴史が好きで江戸の暮らしを美しいと思える感性とこだわりが感じられますね!
いいのは絵だけじゃなくて、時代劇としてのドラマが立っていて良いんですね。あらすじの通り、きちんとそこに息づいている人間と意地と心意気を感じ取れて粋なんです。
そして、あくまで江戸の暮らしの解説漫画ではなく、この町で生きる職人たちの日常を描くので、あまり説明っぽくならず多くを語らず絵で魅せる良さがある。やっぱり絵がいい!
もうなくなってしまったけど今年もあれば「文化庁メディア芸術祭」で受賞してそうだし、フランスを始め海外でも高く評価されるべき作品だと思います。絶対に評価されてほしい!
2017年第71回ちばてつや賞入選作の『死に神』( モーニング2017年30号)もぜひ読んでほしいです。おそらく落語の死神をもとに描いたお話なんですが、これもすごく良いです。
『神田ごくら町職人ばなし』 ぜひ一度だけでも目をお通しください。
現在、トーチwebで全話無料公開中!
こちらもよかったら。
以上です!それぞれ間違いなく面白いのでぜひ読んでください!
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