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your story -夜空 yoa- 2

第一章 sideA -秋空の事情-

✉︎次の休みに話がしたい。
いつもの場所で、こちらの時間で24時に。

 東雲秋空《しののめあきら》は、街の中央図書館に向かっていた。今日の勤務は午後1時から。秋空はここで司書として働いている。今年で12年目になる。本好きの父と兄の影響を受けて、彼も幼い頃から本に触れる機会が多かった。そのため、図書館司書の仕事に決めたのも自然な選択であった。ただ、2人と異なる点として彼は(読書も好きではあったがそれ以上に)図書館の空間が好きであった。壁一面に設置された本棚にきっちりと収まっている本たち、静かな空間に時折聴こえてくるページを繰る音や自習机で勉強をしたりノートにメモを取る音…それらの音を聴き、自分以外の誰かの存在を感じながらこの空間に身を置くことが、彼にとって癒しの時間であった。
 時計を見ると針は12時をさしていた。まだ少し時間がある。中央図書館内にあるカフェでメールのチェックをするか…と考えながら扉に手をかざそうとした時スマホの着信音がなった。その音から、相手が誰であるか、そして大まかな内容まで充分想像ができた。秋空はカフェに行く予定を変更し、司書控室の自身のデスクに向かうことにした。
 秋空が勤める中央図書館は、創立50年を超える老舗図書館である。地下1階から地上3階まである建物は、街の中でも大きな施設の一つであり、その外観も一際目をひくものとなっている。平日の午前中は涼を求めた年配の利用者が、夕方には宿題を伴って小中学生がやって来る。休日には大学の教授や学生が論文等々の資料を探しに足を運ぶ。秋空は今、主に配架・書架の整理を担当しているため、以前と比べ利用者と接する機会は減っていたが、出退勤の際や昼休みに1階の受付の側を通ると貸出・返却待ちの行列を目にすることがよくある。秋空が出勤したこの日も、受付のカウンターには数名の利用者が並んでいた。受付の様子を横目で確認しながら、司書控室へ続く階段へと向かった。「あの人数なら応援は大丈夫か」スマホの時計を確認し一段飛ばしで階段を上りながら、先程届いたメールの差出人を確認する。「やっぱり…」3階の司書控室の扉の前に着く頃には、本文にも目を通し終わっていた。細かい返信は難しそうだが、追って連絡する旨を打ち込む。今日の仕事は午後9時まで。場合によっては、電話の方が良いのかもしれない。そんなことを考えながら、彼は控室の扉を開けた。
 控室では数名の司書が休憩中であった。持参の昼食をとる者、机に突っ伏して昼寝をする者、スマホをチェックする者など、皆思い思いに過ごしていた。秋空は声のボリュームを落としつつ「おはようございます」と会釈をしながら中へと入って行く。休憩中のメンバーも軽く会釈をする。いつもと変わらない風景である。仕事の話や連絡事項等、報連相はきちんと行うがそれ以上の関わり合いや干渉をし合うことはない。プライベートについては、お互い追求したり深掘ることはしない。ドライに感じる人もいるかもしれないが、秋空にとってはそれが居心地良く感じられた。
 なぜかーーーそれは、秋空にも他人には話しにくい事情があるからだ。実は彼は、図書館司書の仕事以外にもう一つ別の仕事を抱えている。図書館司書の仕事が“表の仕事”であるなら、それは“裏の仕事”と言えるのかもしれない。このことについては、図書館の関係者もごく限られた者しか知らない。そして、彼にとってこの仕事は悩みの種の一つになっていた。

東雲 秋空
  • 東雲 秋空

  • 35歳

  • O型

  • あまり表情に出さない。寡黙。でも意外と人のことは見ている。

  • 図書館司書

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