見出し画像

2024.08.15 UEFAスーパーカップ決勝 レアル・マドリーvsアタランタ

・はじめに

おはようございます。こんにちは。こんばんは。
エンバペが来たので何となく書き残しておきます。

以下、スタメン。

両チームのスターティングメンバー

エンバペ加入、クロース引退、カマヴィンガの負傷、様々な変化や不測の事態を受けつつ、今季最初の大一番でマドリーが採用したのは4-3-3。
PSMでは代表活動のなかったスペイン組やカンテラーノをCBやSBで使い回したが、この試合のバックラインは昨季からのレギュラー格の面々が並ぶ順当なラインナップに。
中盤はマドリー2シーズン目のベリンガム、EUROでもフランス代表のコアメンバーとなっていたチュアメニ、今季からチームの第4キャプテンを務めるバルベルデといった自慢の現代型MF陣で構成
前線はこの試合の最大注目株となっていたエンバペを、バロンドール候補筆頭ヴィニシウスと昨季のチーム内3番目のプレータイムで支えたロドリゴで挟む強力3トップ

前十字靭帯断裂を負ったスカマッカや、ユヴェントス移籍濃厚なコープマイネルスが招集外となったアタランタは3-4-1-2でセットする。
広大なスペースを駆け回ることができるブラジル代表MFエデルソン、EL決勝でハットトリックを成し遂げてレヴァークーゼンを沈めたナイジェリア代表FWルックマンあたりが要注意選手。

・試合内容

・マンツーマンプレスに対する試行錯誤

アタランタは人基準に各々担当するマークを設定して着いていく、“オールコートマンツーマン”とも称される独特で強気なプレス戦術を採用するチーム。

オールコートマンツーマンとは言ったものの、その実態は全体のポジション及び配置バランスも考慮に入れ、適宜マーカーを受け渡しながらそれぞれの管轄エリアに入ってきた相手選手をリアクティブに捕まえていく局所的なマンツーマン守備のイメージの方が近い。

盤上に並べてみるとマドリーがこの日最序盤に用いた4-3-3(2-3-5)に対して、アタランタの3-4-1-2は比較的噛み合わせ易い形でもあるため、単純なマーカー設定はすんなりと決まったはず。

アタランタのマンツーマンプレス概略図

CBコンビや中盤の構成が昨季から変容しているマドリーにとってこの試合は、ややトリッキーなやり方で後方ビルドアップの自由を阻害しに来るチームを今季1発目で引き当てる早速の試練のようなものとなった。

被マンツーマンプレス下でもマドリー側が息継ぎできる場所は存在し、その1つがクルトワ。
アタランタの2トップも無理してGKの位置まではプレスに出てこない傾向にあった。
更に、「縦方向に長い距離を前進する可変コスト+前進しすぎると裏が空くというジレンマ」を抱えるアタランタ両WBと対面する、マドリー両SBの位置も比較的空きやすいと言える。

前半6分のクルトワからエンバペへロングボールが送られたシーンは、この試合の様相が捉えやすい。

前半6分のシーン

クルトワは放置されているものの、周囲の選手はそれぞれ距離感を保って監視されており、パスの出しどころはそう簡単に見つけられない。
【エンバペが裏へ抜け出す素振りを見せたタイミング+自軍FWと数的同数になる相手DFライン】という蹴っ飛ばしてみるにはお誂え向きなシチュエーションでも、DFの頭上を越えないボールでは屈強なCBによって簡単に跳ね返されてしまう

どうも上手くはいかなそうな組み立てに試行錯誤するマドリーは、前半13分頃から対アタランタ用とも言うべきか、付け焼き刃的に用意した雰囲気も否めない新ビルドアップ大作戦をお披露目。
(これを今後も登用していくのかは疑問であるが、ピンポイントメタ的な策を講じる仕草があったことは記憶しておきたい。)

CBを上げるビルドアップ策

リュディガーが対面のマーカーと共に位置を上げつつクルトワにスペースを与える。(俗な表現を使えば偽CBっぽいムーブ)
上がっていくCBに逆流するようにSBは下りてきて安全弁としての役割を担う
これは上述の、アタランタWBの前進タスクに生じるジレンマにつけ込んだ動きでもある。

しかしこの策によって相手の1st・2ndプレスラインを越えていけるような成果を得られているとは言えず、定期的にクルトワにボールが戻ってきては雑なロングボールに帰結→そして跳ね返される、といったパターンが再放送されていた。
やはり長身FWが不在の今季のマドリーにおいて、蹴り飛ばす択にはディティールを詰める価値と再考の大きな余地があるように感じられる。

しかし、チーム全体で試合の流れを読み取りつつ柔軟に振る舞えるのはマドリーの強み
ここまで述べてきたSBチェックのために前進する必要があるアタランタのWB裏を攻略の糸口として狙っていく意識が、試合を通してチームでも醸成されていく。
前半14分にはバルベルデとカルバハルの二人称で右サイドを攻略し、クロスからエンバペにシュートを撃たせた。

前半14分の右サイド裏スペース攻略シーン

前半15分に左サイドで相手を引き出したスペース目掛けてヴィニシウスから見事なパスが送られ、飛び出したベリンガムがサイド深部を攻略するシーンも。

前半15分の左サイド裏スペース攻略シーン

マンツーマン守備への対抗策の1つとして「長い距離のフリーランでマーカーに着いてくるかor受け渡すかを迷わせる」アプローチがある。
後方から長距離を駆け上がり、上述のWB裏スペースや、ロングボールに競り合う味方の衛星チックに周囲のエリアへ飛び出すという縦や斜めの長距離移動を繰り返し実行できるベリンガムとバルベルデ。
運動量・強度・単騎プレス耐性を兼ね備えたIHコンビを有していたことはこの試合に大きな優位性を齎していた
2列目以降から飛び出していく動きは、単純にFW陣が裏を狙う動きよりもアタランタ視点でオフサイドにかけづらいこともメリット。
そして、このエネルギーは後半に向けてますます効力を発揮していくことに。

まだ未熟なビルドアップ陣形や、WB裏攻略等、試行錯誤を重ねたマドリー。
IHの推進力で無理矢理陣地を進める、困ったら取り敢えず大きく蹴り飛ばしてみて何かが起こるのを待つ、時にはヴィニシウスなんかも降りてきてボール循環と展開に関わる。
“個の力”と言ってしまっては味気ないが、そう言われても仕方ないほど破茶滅茶な打開策もピッチ上至る所に散りばめつつ、アタランタ相手にそれなりに上手く立ち回っていた。
しかし、肝心のゴールには迫ることができない時間が続く中、終了間際に訪れた決定機をロドリゴが逸して0-0で前半を折り返す。


・ギアチェンジに係る流動性とプレス圧力調整、ロドリゴとベリンガムの躍動

両チームメンバー変更は無くHTを跨ぐ。
後半は開始早々エンバペが左サイドを突破して会場を沸かせ、その1分後に訪れた大ピンチをクルトワが“らしい”ビッグセーブで救うドタバタスタートに。

ピンチを乗り越えたマドリーは、0-0という状況を打破するためにまずは重心を上げることを選択。
非保持でも3トップやベリンガムの所から相手のボールホルダーに対して積極的に圧力をかけていくハイプレス気味のやり方にギアチェンジ

後半開始直後のハイプレス概略図

そして、前半時点で一定の効力を得た前線の流動性も高めてみる
前半では観られなかった後半初手のエンバペの左サイドへの移動からの仕掛けも同じ文脈。
ヴィニシウスが彼に合わせて自然にレーンを交換できるのは昨季からの上積み要素である。

後半開始直後の前線の流動化概略図

プレスの出力調整、前線の流動性の増幅。
そんな後半からの修正で鍵となった選手を挙げるとすればロドリゴ
最序盤こそお行儀良く4-3-3のRWG然とした立ち位置を取っていたが、時計の針が進むにつれてポジションレスな移動を増やして左右サイドを問わずボール循環のハブに
前線における横移動のポジションチェンジと左サイドでの密集作りを通して、相手にマーカーの受け渡しを迷わせる役割を担ったロドリゴは間違いなくアタランタ視点で煩わしい存在であったに違いない。
マンツーマン守備に対する横の長距離移動によるマーク撹乱作戦である。
ちなみに守備に目を移した時、実際に後半の2得点がロドリゴのプレスから生まれているのが面白い。

左右の対称性を保ちたい守備側の深層心理に、オーバーロードの風味を加えた非対称な差配を取る攻撃側の狙いは突き刺さる。
ロドリゴが流れてきてライン間を繋ごうとするエリア(主に左ハーフレーン)が、この日ずっと対面優位を取ることができていた「ベリンガムvsデ・ローン」付近になるのも良い設計。
ロドリゴが左サイドでボールを受けることは即ちベリンガムの前線への飛び出しを助長する副次的な効果も生み出した。

しかし、上記のギアチェンジによって非保持のブロック形成が杜撰になってしまうというデメリットも顕在化。
特に守備でサイドを埋めることが多いロドリゴとベリンガムがポジションチェンジを繰り返すため、ベースとなる4-4-2守備ブロックの中盤ライン4の数が維持できないシーンが散見された。

守備ブロック2列目が甘くなる分、サイドに展開されたところからクロスを放り込まれるシーンが増える。
しかし、この試合のクロス対応自体は後半初手のピンチ以外は上手く対応できていた印象。
DFラインで安定した対応ができており、バルベルデやチュアメニの守備サポートも相まって粘り強く弾き返し続けることができていたのは素晴らしかった点。
スカマッカ不在の影響も大きいのか、アタランタの2トップを務めた選手は自身の前に基準となる選手がいないことに戸惑いながらプレーしていた印象を受けたが、このようなクロス爆撃のようなシーンで迫力を欠いてくれるのもマドリー視点ではありがたい。(よりストライカーらしいレテギの投入後も然程好転してはいなかったが)

クロス等で相手が前がかりになったタイミングでのトランジション勝負が増える後半となり、マドリーの中盤〜前線の選手は輝きを放つ。
流動性を増した前線の動きと、オープンスペースを長距離キャリーできる中盤の噛み合わせも相まって、徐々に試合の流れを掴んでチャンスを増やしていった。
もっと言うと、非保持の耐久性を一手に担っていたCBコンビ、とりわけ対人完封と言っても過言ではなかったミリトンのこの日のパフォーマンスが別格であったことも見逃せない。
後半60分に見せたエンバペの動き出しで作ったギャップをヴィニシウスとベリンガムで突いたシーンはその際たる例。

後半60分のシーン

ピッチ上の選手にスペース認知と「作る/使うの共通理解」が植え付いているが故に自由な攻撃の威力は増す。
誰かがサイドへ開けば真ん中が空く、誰かが降りれば裏を狙う、その繰り返してアタランタの陣形に歪みを生み出していった。
特にこの試合MVPに選ばれたベリンガムは圧巻で、アシストシーンのようなDFライン裏/ボックス内への飛び出しを繰り返し行う献身性は、選手達の疲労が蓄積していく後半につれて真価を発揮し、相手を苦しめていた。

2得点を奪ったマドリーは終盤にロドリゴに変えてモドリッチを投入。
再度4-4-2ブロックの構築と整備に重きを置きつつ、ボールを握って試合のテンポを沈静化する方向に舵を切る
ここにはアンチェロッティの抜かりの無さが表れており、改めてチームの意思統一を行う上では完璧なメッセージであった。
クロースがいなくなった今季、この日最後の締め要員となったモドリッチが担っていく役割にも注目が集まる。


・拗らせ実った固執の船出

後半68分に追加点を記録し、上々のデビューを飾ったエンバペについても触れておきたい。

得点を生んだ一連の流れで見せた細かい動き直しや、トレードマークのシュート性能はお見事。
あれだけ目立つ存在ながら、相手の視野から上手く外れているセンスも素敵。
一旦マイナス方向でボールを受けようとリポジショニングしたと思いきや、ゴール正面へ一気に加速。
ベリンガムからのパスを引き出しつつ、流れる身体とボールを上手くコントロールして右サイドへ突き刺したゴールに映った強さは、昨季時折ボックス内から人がいなくなることがあったチームにおいて、新たな得点シーンの発展への可能性を見せた

この日、背番号通りCFの位置をベースポジションとしながら、序盤はリンクプレーをこなしつつ、ロドリゴが動いたスペースも適宜埋め、ヴィニシウスや中盤の選手に使われながら脚力を活かして奥行きを担保するプレーを見せるなど、利他的な新入りらしい(?)働きを見せていた姿が印象的
後半にはヴィニシウスと一時的なポジション交換から、得意の左サイドでの仕掛けから相手を置き去りにするチェンジオブペースを数回見せるなど、徐々に本領を発揮しようとする様も痛快であった。

物足りなかったのは、相手のCCBヒエンに背中側から圧力をかけられ続けていたように、ボールの受け方の工夫だろうか。
ここはエンバペ個人の技術的なアプローチではなく、チーム構造に着手して工夫することで解決していくはず。
別にエンバペが一生背中で相手を背負い続ける必要はない。

守備も1stプレス要員としてはお世辞にも上手いと言えない部類の雰囲気であったが、絶妙なチーム内ヒエラルキーのせいか謎にサイドの深い位置で守備に動員されるシーンも散見。
当代屈指のアタッカーの彼に今後どのぐらいの守備負担をかけるのか、アンチェロッティお得意の“調整”は見ものである。

そんな今後の楽しみも残しつつ、この試合は2-0で勝利。
昨季のEL王者相手に堂々の勝利を収めてUEFAスーパーカップを制した。


・まとめ

独自の特徴的な型を見せる相手との試合はいつにも増して見応えがあり、それは24-25シーズンの開幕を告げる試合だっただとか、待ち焦がれていたフランス人が来たことだとか、新たな黄金期への期待だとか、様々な要素を引っくるめた愉悦だったことに違いはない。

EL王者の守備戦術を前に、動き出したばかりのチームには局所的に上手くいかない部分もあった。
しかし、この日見せた相手の出方を伺いながらのらりくらりと試合の中で隙と絶妙なバランス感覚を見つけて流れを引き込んでいく様は、ベテラン達が去ったチームでも“マドリーらしさ”が受け継がれていることを確かに感じさせてくれた。

この試合のような、個々人が対面の相手に極力負けないという前提の元でも、己の能力を遺憾なく発揮する選手、そのためにチームバランスを整えて土台を担う選手、それぞれが上手く噛み合って成り立つということも改めて考えさせられる良い試合。

展望に視点を移すと、「ボールを好きに握らせてもらえないなら蹴っ飛ばしてみよう」というリアリストな対応策が生まれたのも興味深く、快足アタッカーとトランジション性能・球際に優れた中盤を揃える現在の陣容であれば、ゲーゲンプレスナイズなやり方に本格的に着手していくのも面白い。
一瞬でもボールを捨てるという択を取ることをファンがどう思うかは知らない。
勿論あくまでも手札の1つとして置いておくのが理想的であろう、目指すのは究極の全方位・全対応型チームである。

7冠へ向けた1歩目。
成長と成熟の余白を残しつつ、期待の選手達が躍動する申し分のない勝利で着実に歩みを進めた一戦となった。

・おわりに

今シーズンも楽しくなりそうですね。高揚感はここ最近でも段違いかもしれない。

稚拙な文章、お読みいただき誠にありがとうございます。
多分、今回はいつにも増して読みづらいはず。
今季も何か色々書いたり書かなかったりするのでどうか何卒。

※画像はTACTICALista様、レアル・マドリー公式様を使用しております。

この記事が参加している募集