掌編小説 今川焼き

「今川焼き、あんこのを一つと、ホットコーヒー」
「砂糖、ミルクはどうしますか?」
「砂糖だけ一本ください」

平日の午後1時は空いている。ここのコーヒーが美味しい。豆とコーヒーメーカーが良いのだろうな。15分の休息。

高校生の時の話。
近くの駅前に映画館があり、そのすぐ近くに食堂があった。その片隅で大判焼きを焼いて売っていた。僕は友達とよく大判焼きを食べながら、将来のことを話した。

「大学行くのか?」
「そのつもりだけど」
「学部は?」
「さあ」

僕は将来なりたい職業がなかった。

「俺は法学部かな。安定しそうじゃない」
「公務員になるの?」
「それもいいかなって。お前、理科が得意じゃない。研究職なんか向いているんじゃない」
「そうかな。化学はつまらないよ」
「あの先生じゃな。教科書を読んでいるだけじゃない」
「兄貴は化学は実験があって面白いと言っていたんだけど」
「先生次第だよな。俺なんか、倫社の授業で法律の基盤の話があったじゃない。あれから法律に関心が向いているんだ」
「倫社の先生変わっているよね。自殺者の日記をテキストにしたりしてさ」
「俺、いっぱい本を読みたくなったんだ。知らない世界がいっぱいあるよ」
「僕はどうしたらいいいのかな」
「親が大学に行かせてくれるんだから、大学行って、そこで考えれば良いんじゃんない」

友達は法学部に進んだ。僕は経済学部。互いにサラリーマンになってから、僕は落ちこぼれ、友達は大学を入り直して医者になった。

今川焼きを食べると、大判焼きを食べながら、友達と話したことを思いだす。

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