掌編小説 3人組


誰もいない。大型スーパーのフードコートに入る。開店したばかりで、店員さん達は忙しそう。

「今日は何読んでいるの?」
年金仲間のヤンさんが声を掛けてきた。
ここで2人の年金暮らしの人と知り合いになった。ヤンさんは、高校で国語を教えていた。
「刑事物」
「古文とか読んでみれば。時間あるでしょ」
「テレビ見るよりは本読んだ方がボケないと思って。難しい物は、途中で嫌になっちゃって」
「辞書で言葉を調べながら読むと、新しい発見があって、面白いんだけどね」
ヤンさんは、小さなリュックの中に、辞書と本を持ち歩いている。

私の生活費は、国民年金と企業年金を合わせて、月8万円くらい。食べて行くのがやっとだ。警備員のアルバイトをしてみた。一年頑張ったけど、人間関係で辞めてしまった。独り身だから、何とか生きて行ける。

「おそろいで」
タケさんは、今日も明るいワンピース姿。今でも社交ダンスを教えているらしい。一度老人会でワルツを教えてもらったが、なんか違う踊りのように思った。恥ずかしくて直ぐやめてしまった。後で、あれはマンボだと知った。

タケさんは、手作りのバッグに、画集を入れている。風景画が好きで、週に一回、公園などでスケッチをしている。私も、時々スケッチに付き合う。中学の時、美術部に入って、一枚だけ油絵を描いたが、水彩画の方が好きだった。

3人で月に一回、近くの日帰り温泉に行く。弁当とか持ち込み自由で、私はおにぎり5個、やんさんはコーヒーセット、タケさんは、煮物を持ち寄る。ヤンさんのコーヒーセットは、コーヒー豆とコーヒーミルとろ紙と小型のコーヒーメーカー。温泉に浸かった後のコーヒーは格別だ。

実は、3人で会社を立ち上げようとしている。ホームページを作り始めた。何をするかは、これから考える。元国語の先生と、現役のダンスの先生。それに、わたしはプログラマーだ。退職直前に不安を感じて、ノーコードのBubbleを少しお金を出して学んだ。これを使って、何か面白いものを作りたい。

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