「死神」 実話ショート怪談
はじめに
これは私(Kitsune-Kaidan)が体験した実話ショート怪談です。数年前、死神を見ました。
死神とはいったいどんな存在なのでしょうか。
私がその死神らしきものを目撃したのは、日本国内ではなく海外でした。西洋と日本における死神はいったいどのように違うのでしょうか…。日本で見たことのある似たような存在とは違った見た目をしていたのがとても印象的でした。今回はその時の状況を詳しく書き表してみることにしました。
それでは、不気味な世界へとつながる扉をお開けください。どうぞお気をつけて、行ってらっしゃいませ。
向かいの家のおじさん
数年前、私は海外のとある田舎町のアパートに住んでた。その町は1890年代に町として編入されたようだが、その地域一帯の歴史は1750年代頃までさかのぼるそうだ。日本の歴史に比べると、その町の歴史はそこまで古くないように思いがちだが、古い教会・墓地・歴史的な建物を見るとやはりそれなりの時代を感じる。その証拠に、映画に出てくる開拓時代のような服装をした幽霊をときどき見かけることがある。
私が住んでいたアパートのすぐ近くにも墓地があり、優に100年以上経つ古い建物や民家がところどころ残っていた。私のアパートの向かいの家もかなり古い様子だった。そこには病気で足が不自由なおじさんと介護をしているおばさんが住んでいた。おじさんは日に日に弱っていく様子だったが、少しでも体を動かすべく家の周りをゆっくり歩いて散歩する姿をときおり見かけた。私は犬の散歩がてら、よくおじさんの家の横を通った。
「やぁ!」
おじさんは弱々しい声でよく挨拶してくれた。
うちのアパートの前にある小さな庭に犬といっしょに出たときも、お互いに手をあげて挨拶し合った。当時、私の犬も病気で弱っていたので、命の尊さをかみしめ1日1日を大切に過ごしていた。
柳の木
おじさんの家の横には大きな古い柳の木があった。私はその木が好きだった。おそらく樹齢120年は超えているだろう。
ある日の夜、犬を外に連れ出し小さな庭に出たときだった。用を済ませた犬は何をするでもなくボーッと立って通りを眺めていた。空の星を眺めていた私は、犬につられて何気なくおじさんの家の方に目をやった。
すると、5人ほどの真っ黒な人影がおじさんの家に向かって歩いてくるのが見えた。彼らはなんとも言えない不気味なスピードでゾロゾロと歩いてくる。
思わず息をのんだ。私の犬はピクリとも動かず、ただその人影をジッーと眺めている。柳の木の枝もまったく動かない。
真っ黒な5人はどんどん前進していく。
死神たち
「見つかってはいけない」
私は思わずそう思った。しばらく立ち尽くしていたが、動けなかったと言った方が正しいかもしれない。
普段、夜間でも通りには車が行き交うが、その夜は車がまったく通らず辺りは静まり返っていた。だからこそ、こちらの気配に気づかれないようにと恐れる気持ちが高まった。
5人の人影はみるみるうちに鮮明になっていった。
「死神?」
その言葉が頭に浮かんだ。
死神たちは頭の先から足元まですっぽり包む真っ黒なローブを身にまとい、相変わらずゾロゾロとおじさんの家に向かって歩いている。黒いローブに白い模様のようなものが描かれているような気がしたが、通りの向こうなので細部までは残念ながら見えなかった。手に何かを持っているような気がしたが、はっきりと手元が見えなかった。
「まずい…」
おじさんの家にどんどん近づいていく死神たちを見ながらそう思った。犬は相変わらず動かずに様子を見ている。私はすばやく犬を抱え上げて今すぐにでも家の中に逃げ込みたかった。一方で、動いて見つかってはいけないとも思った。前述したように私の犬も病気だったので、愛犬も連れていかれるのかもしれないという恐怖に襲われたのだ。
どのくらい時間が過ぎただろう…。
私はどうすることもできずに、死神たちが次々とおじさんの家に入っていくのを黙って見ているしかなかった。
しばらくして、おじさんの家の前に「売り家」の看板が立てられた…。
おわりに:推察
死が近づくと黒い影が現れるという話をよく耳にすることがありますよね。私は以前、悪魔を見たことがあったので、わりとあっさり死神の存在を受け入れることができました。映画や本などのイメージでよく目にする、まるでハロウィンの仮装のような死神の姿が実際に目の前を歩いていたことについて、そこまでの驚きを感じなかったのが素直な気持ちです。
とは言っても、あんなにリアルな死神の集団を目撃したのは初めでしたし、かなりインパクトが強く、怖くて動けなかったのは事実です。私のアパートの庭先から、そのおじさんの家までの距離は、数10メートルほどで、大通りを挟んでいました。
「どうかこちらに気づきませんように」
そう思う気持ちと裏腹に「私と犬が死神たちを見ていることに彼らは絶対気がついている…」そんな感覚がしていました。
ただ単に今は私たちに用がないからこちらに来ないだけ…
そういう認識でした。
みなさんも死神を見かけた時は、くれぐれもお気をつけください。
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Kitsune-Kaidan
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