ダイヤモンドの功罪の感想 ~超天才は良き理解者を求める~
2024年1月現在、現在4巻まで発売中、この漫画がスゴイ1位を獲得した本作についての感想を語りたいと思います。あらすじとかには一切触れずに、ネタバレ?というか作品の本質に触れながら、ガンガン書いていこうと思います。要は、知っている人はついてきてね♪の内容なのでご注意下さい。
絶対すぎる存在と、その理解者
この漫画を読み解く上で、重要な視点は見出しの通りだと思います。スポーツの才能と体格に恵まれた主人公、綾瀬川。野球歴3か月ながら日本代表入りして、そのままU12の世界大会優勝までしてしまいます。野球を始める前の他のスポーツでもバンバンと結果を出して、それまで練習に明け暮れていた周りの嫉妬と羨望とヤジをくらいまくまります。笑 野球でも行き違いがありながらも、チームを優勝にまで導きました。
主人公の綾瀬川の本質は、作中でもちょこちょこ触れられていますが、それはたんにみんなが楽しめたらいいじゃん!というお気楽な姿勢とは、実は本質的に違います。人に優しいとも気にしすぎとも競争が嫌いとも違います。
自分なりにそれなりなふつーの努力で1000点を出せちゃう綾瀬川と、周りも頑張っているみたいだけど80,90点の側との勝負。綾瀬川を取り巻く環境はずっとこれです。例えるならば、大人と保育園児との勝負みたいなものです。
これのどこが勝負で、どこに楽しみがあるのでしょうか。絶対に勝てる、勝ててしまう状況に綾瀬川は何を見いだせば良いのでしょうか。80点90点のやつに、努力すれば(努力が足りないから)1000点だせよ!といえるわけもありません。かといって、手加減してもみんな喜んでくれるわけでもありません。こんな状況で勝つことにこだわる姿勢が生まれるはずもありません。
残された唯一の楽しみが、仲間や理解者として認めた人と、一緒に楽しむこと(皆が喜んでくれたら自分の存在を肯定できる)になるわけです。もしできれば、かかわり合う人全員が楽しめるようにという姿勢なわけです。絶対で圧倒的すぎるがゆえの結論です。
そして、みんなが喜ぶには、勝利が大事とわかっているからこそ、実は他の誰よりもチームのために勝利に拘り周りをよく観察しています。自身の記録には興味なく、誰よりも勝つことに意義を見いだしていないのに、一番勝利に近づくモチベーションをもつ姿勢と能力を持ち合わせてしまうというなんとも奇妙なちぐはぐの存在のできあがりです。
良き理解者
イガとヤス
必ず勝てるから勝つことに意義がなく、皆が楽しくやれればいいじゃんになる。その辺の葛藤を理解してくれた上で、その上でチームを勝たせる方法論について真剣に考えるという綾瀬川のスタンスや考え方を理解してくれる人に、綾瀬川は心を開いていきます。最初は、そもそも誰かと楽しくスポーツを出来たことがなかったので、バンビーズのイガとヤスと楽しく過ごせたことに理解者を見いだします。結果や成果を気にしないライト勢なら、結果に拘らずに楽しく!を共有できたわけです。しかし、周りの この人たち(綾瀬川の結果を無理に引き出そうとする人たち) の勢力によって、かきみだされて、その楽園は崩壊します。
円やなつおや監督や椿
最初の楽園から追放された綾瀬川は、スポーツをやる以上、結果にも今よりもこだわらないといけない、そうしないと皆が楽しめないと徐々に気づきます。ライト勢のままだといずれまた楽園が壊れることを悟ります。そして、やはり勝てば皆が喜ぶことに満足と居場所を見いだしていきます。
特に、純粋に勝利を良いものと教えて背中を押してくれた円。相部屋で色々話をしたりして、情緒的に繋がりそして綾瀬川の心を汲んで理解してアドバイスまでくれたなつお。最後までメダルをかけ続ける姿は綾瀬川にとって優しかったことでしょう。キャプテンとして綾瀬川に正面から公平に向き合う椿。悩みを真剣に聞いてくれて、冷静に的確に答えてくれた監督。
こういう自分の考えを伝えて理解をしてくれる理解者に恵まれて、また優勝もできてちゃんと仕事をしたぜ!と満足げな綾瀬川。しかし、これが、即席チームだったことが災いします。また、監督の息子と同じ野球塾には入れられないという(綾瀬川が眩しすぎるからという)私情によって、チームの解散後、巡り会えた理解者とも疎遠になります。また、楽園は壊れました。
イガの復活と大和
結局、綾瀬川の根っこはずっと、大人と保育園児との戦いの構図のなかにいます。そして、幾度と理解者に裏切られて、誰かに理解されなくてもいい、自分で決める!自分のことは自分で!と孤独の道にふみだしかけます。でも、野球で得たあの喜びも、どこか胸の中に留まり続けています。
結局、新しい楽園(居場所)の道標は見つからないままでいたところに、楽しくを共有してくれたイガと仲直りして、また野球生活に綾瀬川は戻っていけました。第一線に出るから、結果に関わる舞台に立つから楽しくなくなるいざこざが生まれるのならば、はなから裏方や舞台裏で野球に関わろう的な姿勢が今回の綾瀬川の作戦だと思います。とはいえ、勝つことについては人一倍考え抜く姿勢は備えていることでしょう。舞台に立たないだけですから。
そして、次に大和が関わってきてますね。大和は体格で圧倒的に不利だから、上手くなるために人一倍頭を使って野球をする必要がある存在です。だからこそ、出発点は違えど、人一倍野球の勝利について考え抜くという姿勢は綾瀬川と一緒で、野球をうまくやるには勝つにはという話で盛り上がりました。
ここから先は今後の展開次第ですね。多分、綾瀬川は試合に出たい気持ちもあるけれども、日本代表の仲間たちと戦って負かすことはできないのであと一年はとりあえずは裏方でやっていこうと、成長痛をうそぶいていると思います。そして、大和との関係は悲しいかな。ライバルや敵としてわかりあえなそうなんですよね。大和は戦いましょう!と言うだけあって、体格や技術は追い付いていないですが、内に秘めたる闘志はピカ一です。頑なに綾瀬川のことを尊敬していることも隠しますしね。なので、勝利への闘志や知識で二人は理解しあえますが、最後は大和のしかしライバルであるというスタンスで綾瀬川の一番望む関係(仲間)にはならないでしょう。
綾瀬川の存在に圧倒された投手たち
円
綾瀬川の勝利への執念(申告敬遠)に、心を打たれてしまいます。しかし、それは邪道というか卑怯というか王道ではありません。王道で爽快で前向きな野球少年らしい野球少年の円だからこそ、チームの士気が高まり、チームが強くなるという王道路線からの逸脱に、とうごはもっと言葉上手に指摘してあげれば良かったのに。円は蛇の闇の道に、おちるのかどうかですね。
瀬谷
完全に別世界の人として、綾瀬川を扱っています。敵わないすら飛び越えて、遠い世界の貧困をなげくように、かわいそうと綾瀬川を評価します。究極の現実逃避ですね。心を守るためにそこまでするかってぐらいです。
花房?(左投手の人)
プライドがズタズタですね。兄貴の言う、ちゃんと仕上げていけばいずれ花開くよ。将来を見据えて徐々に仕上げていけ!というアドバイスは空しく響きます。綾瀬川が故障や怪我をしないかぎり、絶対に勝てないというイメージをつきつけられたからです。何年後かには追い付けるかもしれないとか、追い越すとかの次元じゃない勝てない存在と出会ってしまい、兄貴の言ういずれとかそのうちとか、そういう次元の話ではないことに打ちのめされました。
おわりに
というわけで、超天才が凡人とともに歩もうとする話。あるいは、超天才ゆえの考え方の理解されなさや孤独についての話の本作でした。超天才側に視点をあわせて葛藤に心を重ねた本記事のみかたもありでしょうし。そこそこ天才側に視点をあわせて、うちひしがれたり、現実逃避したり。打算で誤魔化したりする側に心を揺さぶられることもできます。
さて、この綾瀬川の理解者探しの旅の終点はどこになるんでしょうかね。綾瀬川の求める、自分の心や考えを言葉通りに素直に聞いて受け止めてくれる友人枠。そして、勝利に執着しながらも楽しませる姿勢を理解して、それを喜んでくれるチームメイト仲間枠。そして、勝利に執着する姿勢をおしすすめて研鑽に付き合ってくれる指導者やコーチ枠。
超天才ゆえに、取り巻く環境や葛藤の出発点は全然異なりますが、実は、いわゆるふつーの人たちの誰かに理解されたい、分かり合いたいという気持ちと本質は同様なんですよね。ふつーの人同士でも分かり合えないのに、能力差もありすぎる超天才とふつーの人同士はなおわかりあえないことでしょう。
3,4巻や現在は出来事の展開的には落ち着いてしまって、漫画としてはやや失速したように見えるかもしれませんが、この漫画の本質の理解者云々の部分ではばちばちにやりあって、浮き沈みがあり、楽しいので是非、綾瀬川の葛藤を一緒に楽しみましょう。