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24時間で曲を書く in New York

私は、半年前に時間つぶしのため訪問したニューヨークの大学院の教室で、今は、自分のオーディションが始まるのを待っていた。

2020年3月、私は迷門芸術大学院のMusical Theatre Writing Programに作詞脚本家志望として入学するため、はるばる日本からオーディションを受けにきているのだ。

オーディションでは、大学側がランダムに組んだ他受験者の作曲家とペアになり、24時間で一曲作り発表することは事前に知らされていた。

私はひたすら願っていた。

どうか、ゆっくり英語を喋ってくれて、英語が苦手な私にも優しく接してくれる人とペアになれますように。

時間が来ると、全員がブラックボックスと呼ばれる劇場兼教室に入り、順番にペアが発表されていく。

私とペアになったのは、Andrew。

彼は天使でしかなかった。
彼は、24時間で私に曲の書き方を教えてくれたのだ。

この時、Andrewから私は初めてRhymeと言う言葉を知り、この先何年も私の右腕となるRhyme Zoneという便利なWebsiteを教えてくれた。
Rhyme Zoneは単語を検索すると、その単語と同じ韻を踏んでいる単語のリストを出してくれる。
これら全ては、作詞家になりたいなら知っていて当たり前中の当たり前だけれど、Andrewは嫌な顔ひとつせず、私に教えてくれた。

そして、大学院の一室にあるピアノの前に一緒に座り、ゴシップ雑誌に不倫を暴露された女優が酔っ払って開き直る時に歌う歌を書いた。(ちょうど、この時東出くんの不倫が世の中の話題だったため。←)

そして24時間後、オーディション参加者が全員集まり1組ずつ書いた曲を発表していく。それぞれみんな面白いし、楽しい曲ばかりで、Andrewと私は緊張が最高潮になっていく。

そして、私たちの番がきた。
Andrewがピアノを弾きながら歌い、私は曲の前にあるセリフを読むと言う役割分担。

全員の前に立ち、挨拶をした瞬間緊張が消え、なぜかものすごい自信が湧いてきた。

そして、気づくと、教室にいる全員の爆笑と拍手が聞こえた。

これは、合格できたと実感した。

発表が終わった瞬間時差ボケによる眠気が襲ってきて、どうやってホテルまで帰ったかなど全く記憶がない。

そして、日本に戻った2日後、大学院の合格届けをもらった。

合格を知った時は、喜びよりも恐怖だった。

1曲書くだけであれだけ緊張とエネルギーを使ったのにこれを2年間なんてできるわけない。もう合格できたし、留学は考え直したほうが・・・

その時、私は思い出すのである。

前述の通り、すでに100万円以上をこの受験に費やしている私が、ここで怖いからやめるなんてことはできない。

もう、進むしかないのである。

発表があった次の日、会社の上司にミュージカルの作詞脚本家を目指しニューヨークへ行くため会社を辞めます、と報告した。

上司はポカン、として一言
「作詞とか今までやってたんだっけ?」


「いえ、これから学びに行くんです。」

この日家に帰ってから私は原因不明の高熱が出て、ちょうどその時ニューヨークがコロナでロックダウンしたタイミングと重なり、2週間の自宅待機。ようやく会社へ行けると思ったら、次は会社が全てオンラインに切り替えとなり、上司や同僚にちゃんと直接挨拶もできないまま退社してニューヨークへと飛び立つことになった。

留学期間を休職扱いにすることも上司は検討してくれたけれど、退路を絶った方が振り切って挑戦できる気がして、退職の道を選んだ。

両親と夫には、休職は認められなかったと残念そうに説明した。

つづく

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