【キリン】中学生の私を震えさせた、今も忘れられない物語
山田悠介著『キリン』は、私の中でずっと記憶に残っている小説です。その理由を探るために、要約と感想を書き、なぜ忘れられないのかを考察したいと思います。
ネタバレ等を気にせず書こうと思いますが、随分前に読んだ本なので、内容が多少異なってしまっても、ご了承ください。
要約
物語は、天才の子を産めば人生が変わると思っている1人の女性から始まります。結婚には興味がない彼女は、違法に行われている精子バンクへ足を運びます。そこで、最高級の遺伝子情報が書かれた精子を全財産を懸けて競り落とします。
そうして産まれた男の子は、数学の天才として育ち、女性は望み通り、生活を変えることができました。
そして、もう1人天才を産みたくなった女性は、また精子バンクへ行き、最高級の遺伝子情報が遺された精子を競り落とします。
そうして次男ができました。彼も成績は優秀でしたし、兄に比べ母親のことが大好きでした。小学校6年生まで成績はトップで、兄弟揃って天才であることに、女性はとても満足していました。
しかし次男が中学生になってから、次男の成績はどんどん悪くなっていきました。これを受けて、女性は次男を叱り、勉強時間を増やしたり、塾に行かせるなどして成績を上げるように努めますが、その努力も実らず、成績は下がり続ける一方でした。
長男の方はこうしたことはなく、相変わらず天才のままです。そんな次男に失望した母は、長男を溺愛し、次男は家庭で居場所をなくします。やがて女性は、次男を施設に預けて、長男と二人暮らしをするようになってしまいました。
施設に預けられた次男ですが、美術の授業で絵を描くと、それを見た教師陣や施設長に衝撃を与えます。そこから絵のコンクールにも出展し、表彰されることで、次男自身も自分の新たな可能性に気付きます。今まで、家庭の中では、受験に必要な5教科以外のことは価値がないとされていたため、次男自身も自分に絵の才能があることに気付いていなかったのです。
そうして美術の道に進み始めた次男ですが、母親とばったり会い、彼女と長男の関係が悪化したこと、家庭が崩壊したことを知ります。一方で長男の様子も悪くなっており、家族関係は初めの頃と大きく変わっていました。
しかし、家庭の崩壊や次男の活躍があり、女性が母として2人の息子を心から愛するようになりました。また、長男も家族のことを思う兄となるのでした。
感想
この物語から「理想の家族」とは、才能があるとかお金持ちとかではなく、家族皆が互いを思いやれる家族だということです。どんなに優秀な子どもや豊かな生活があっても、家族が支え合えなければ心は満たされません。
また相手を思いやることは、その人自身を認めることに繋がり、自己肯定感が高まることでしょう。物語の中で成績でしか子どもを評価していなかった母親が、次男と再開した時には『ごめんね』と彼をありのまま受け入れており、そこから次男の孤独感が溶けていくのと比例し、主体的になっていきます。このシーンはとても感動的でした。
相手のことを認めずにいると、労りの気持ちがなくなり、家族の欠点ばかりが目に見えてしまい、喧嘩やいざこざが絶えないのではないかと感じました。
一方で、互いを思いやれる家族であれば、お互いを支え合い、絆を深めながら生活できます。こうした経験は、人を思いやる心を育み、優しい人になれると思います。また他人を信頼する力も養われ、誠実で安心感を与える人へと成長していくことでしょう。
忘れなれない理由
『キリン』を忘れられない理由は、衝撃的なストーリーだけでなく、人と共存する姿勢や思いやりの大切さが描かれているからだと思います。
相手を思いやることができるからこそ、周囲を巻き込み、共に成長していけるのではないでしょうか。また認められた人は、自己肯定感を持つことができ、より行動的になって成果をあげるようになると思います。
皆さんも、自分の価値を見失いそうになった時、誰かに認められることで救われた経験はないでしょうか?
次男が家族に無条件で認められることで感じた安堵や喜びは、私にも感動を与え、まさに震えさせました。中学時代の思春期もあり、人に認められていないと感じていた自分だからこそ、物語の本質に敏感に気づけたと思います。