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クモの巣を網戸のかわりにしてみました

 

九月に入ってもまだやたらと暑い。八月の気温はまたまた記録を更新したというし、近年の夏の暑さはほとんど拷問である。田舎暮らしの古家住まいでエアコン嫌いなものだから、対処法も限られていて、そう、窓を開けるしかない。そういうわけで、あっちもこっちも全方位的に窓を開け放つ。耐えられる程度には涼しくなるのだが。

この窓を開けるという、地球環境を考えたらケナゲであるはずの行為が、もうひとつの自然の脅威を招き寄せてしまう。ヤブ蚊の襲来、蜂の襲撃、あげくのはてはカメムシやゴキブリどもののダンス天国。田舎暮らしの古家住まいだから、これが都会暮らしの清潔なマンション住まいの比ではない。家の中がほとんど南米奥地化してしまうのである。

それならば網戸を閉めればいいだろう、と常識人は眉をひそめるかもしれないが、実はわたくし、自慢じゃないけど網戸というものも嫌いなのである。ヒステリックにいうなら、エアコンとか網戸とかそういうややこしいものは生理的に受け付けない。それをわたくし的に翻訳していうと、エアコンは複雑すぎて頭がついていかないし電力を浪費する。網戸はなによりも視界が曇って鬱陶しい。というか汚らしい(網戸屋さん、すみません)。

のであるからして、昆虫どもとは共存共栄するしかない。と、それで諦めてしまったら、この話は続かない。そこで…別にこの話を続けるためにというわけではないのだが、何年も前から八本脚のクモさんを担ぎ出して、古家の窓という窓の周辺で虫除け警備保障をしてもらうことにしたのである。クモさんにはそのお礼に昆虫食べ放題のフリーパスを提供しているのでウィンウィンのもちつもたれつ。SDGsの観点からいっても、これぞまさしく地球環境を正しく維持するための究極のプロジェクト。

だったはずなのだが…いえいえ、挫折してしまったわけではないのです(気弱なのでここだけ丁寧語になってしまう)。

そうではないのだが、いろいろと障害が出てきてしまったのである。何か新しい試みをしようかという人間にとって前途にいくつも障害が立ちふさがるのは歴史においても小説においてもありがちのことなので、これは想定内のことだったと思っていただきたい。実にビミョーなのではあるが。

いや、その、障害というのは、たとえばボロ家の窓という窓をクモの巣だらけにしちまったら、これはもう古家というより幽霊屋敷か魔女の宅急便(なんのこっちゃ)みたいなもので、肝心の宅急便も郵便配達も友人だって知人だって弟だって寄りつかなくなってしまう。

というようなことで、実際にそういう傾向が見られるようになったのである。一例を挙げていうと、月に三回は晩飯を目当てにやってきていた大食らいの弟の家族の足が次第に遠のくようになって、今では年に数回程度になってしまっている。コロナ騒ぎがあるとはいえども、弟よ、少しは反省しろ。

そこでわたくし、はたまた一計を案じたのである。窓の外を、つまり家の外観をクモの巣だらけにしてしまうのはほどほどにして、家の中に八本脚のクモさんを招待して一宿一飯といわず優遇し、そこで流れ者のヤクザな昆虫どもを退治してもらったらどうだろうか、と。

いってしまえば内と外の両面作戦である。これなら郵便屋さんとか宅急便とか友人知人も少しは安堵するかと思うが、さて家の中に入り込んで晩飯を食う弟の家族は家の中に張りめぐらされたクモの巣を見てどういう反応を見せたかといった問題はひとまずおいといて、先を急ぎたい。

内外両面クモの巣作戦の成果はというと、わたくしとしては六割がた成功したのではないかと思っている。赤点ぎりぎりのあたりである。この作戦で想定外だったのは、幽霊屋敷か魔女の宅急便(再び、なんのこっちゃ)かという古家の窓まわりの不気味さを別にしても、クモの巣を蹴散らしながら舞い込んでくる命知らずのゴキブリがいたり(田舎のゴキブリはセミのように羽根を拡げて我が物顔で飛ぶのである)、肝心のクモさんが満腹してしまってヤブ蚊を見てももう食欲が湧かなくなったり(室内のクモは網で捕虫するのでなく飛び掛かって虫を襲う)、それに、ここまでは触れてこなかったがわたくしめの家族が、というよりはっきりいうとカエルとゴキブリの嫌いなカミサンが実はクモさんに対してもあまり好意的ではなかった等々…いろいろあった。

そうした問題解決のために、クモさんが食傷してみて見ぬふりしてしまっているヤブ蚊に対してはせめて就寝時だけでも静かにしていてもらおうとアースノーマットを使い、ゴキブリも台所にだけはゴキブリホイホイをひとつだけ仕掛け、それからカミサンにはこれが地球環境を守るための究極のプロジェクトであることをウダウダ説明しながら現状を認めてもらうなどして、次々に問題をクリアしていったのである。

幸いにしてカミサンはおおらかにしておおまかな性格なので、この究極のプロジェクトにはその後ほとんど口をはさまなくなった、というか目くじらを立てなくなった。この場を借りて深く感謝しておきたい。

結論
クモの巣を網戸がわりにするのは無駄ではないがけっこう骨が折れる。家族の理解がカギになる。なお、わが家には今もほとんど網戸がない。

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