役者になるには③
役者には大きく分けて「映像」と「舞台」の2つの仕事があるとお伝えし、前回「映像俳優になるには」についてお話したので今回は「舞台俳優になるには」について書いていこうと思う。
「舞台俳優」とは、お客様を前にして生で演じるお仕事。
稽古があり、その期間は座組によりまちまちだし、稽古期間にギャラが出るのはプロ、それ以外の場合はノーギャラの場合が多い。中には事務所に所属していて、稽古のギャラという形ではないがギャラや交通費が出ることもある。
でも、基本的に役者の場合、稽古への交通費は出ないことが多い。
役者という仕事で交通費が出るのは地方や海外に行く場合くらいだと思った方が良い。
そして、出演料については、プロであれば1公演いくらとか全公演でいくらという感じでギャラが発生するが。
小劇場系とかであればチケットバック制が多い。劇団員の場合は、その劇団による。
では、ここからは「舞台俳優になるには」を、「商業演劇」「小劇場系」「その他」に分けて書いていくことにする。
▼商業演劇
基本的に中劇場や大劇場で上演する新劇や、歌舞伎、宝塚、東宝や劇団四季等のミュージカル、2.5次元ミュージカル等というくくりでここではお話していく。
商業演劇の場合は、出演すれば出演料がもらえると思って良いだろう。
エキストラ的な役名の無い端役でも、多少のギャラは出る。ただ、それで生活できるかはまた別の話だが。
ではさらに細かく「なるには」を話していく。
◎一般的な商業演劇(中劇場や大劇場で上演する新劇や2.5次元ミュージカルなど)
舞台俳優になりたいと思っている方の多くが、ここを目指しているのではないかと思う。
これらの舞台に出演するには、演出家から指名されるとかじゃない限り、オーディションとなる。
そのオーディション情報が、一般公募(オープン)の場合は少ないだろう。
規模や企画によっては一般公募もあるにはあるが、基本的にはプロダクションや劇団にオーディション情報を流して、書類審査し合格者のみオーディションという流れ。
つまり出演者募集自体が一般には公表されないクローズとなっている。
商業演劇に出演出来る役者になるには、プロダクションや劇団に入ってまずはオーディション情報がもらえる環境にいることが必須となる。これはエキストラ的な端役もギャラ有であれば同様。
但し、全てのプロダクション、全ての劇団に情報がいく訳ではない。
最初から商業演劇を目指すのはなかなか困難だ。
じゃあ、どうすれば良いのかというと、そういう情報が入ってくるプロダクションや劇団に入るというのが第一目標になるかと思う。
他には今の時代、Youtube等で人気が出ていたり、露出を増やして、舞台関係者の目に留まるという方法もあるだろう。
プロダクションや劇団に所属するには、やはり書類審査やオーディションがあるので、かたっぱしから応募してみるのもひとつの手ではあるが、どこでも良いという訳ではなことには注意が必要だ。
ここまで読んできて、商業演劇出演はちょっと先の目標にして、今は出来ることをやっていくという人が多いだろう。
今は下積みというのであれば、レッスンやWS(ワークショップ)に参加したりしてスキルを磨いたり、動画配信してみたり(ここを見ている人は映像系を目指している人じゃないので、動画は不本意な人もいるかもしれない)しながら、プロダクションや劇団のオーディションを受けるというのが現時点での現実的な選択肢となるだろう。
もちろん養成所や小劇場で場数を踏むというのもありだが、これは人による。
全くの未経験者であれば、養成所はお勧めではある。ただあくまで養成所は養成所だということを忘れずに。
養成所に入っても仕事がもらえるわけではないので。それに養成所はそれなりにお金がかかる。
そして小劇場の場合、経験にはなるが座組によって友達同士でやっているような甘いところもあれば、厳しいところもある。プロ志向か楽しさ重視なのか、入ってみないと分からない。
小劇場系の場合、どんな作品をやる劇団なのか、一度作品を観劇してから決めることをお勧めする。
養成所も小劇場系も、『オーディション有』でも、よほどのことがない限り落ちることはないというのが現実。逆に落ちるようなら、何かしら直した方が良いところがあるのは確かだろう。
養成所にとって生徒はお客様だし、小劇場系の場合ほとんどがチケットノルマがあってそのお金で公演や稽古を行うので、ある意味主催からすれば、出演者はお金を払ってくれる存在であり、資金源なのは否めないからだ。
お金を支払わされるのが悪いという意味ではない。養成所も小劇場の劇団も経費はかかるのは事実だから。
問題は、その支払金額に見合うことを吸収できるかだろう。
中には養成所でも特待生で無料とか、小劇場系の劇団でもノルマなしとかもあるので、いろいろ探してみて自分にとって必要な体験ができるところを選ぶことが重要だ。
痛い経験になったとしても、それはそれで一つの有意義な経験になるし、動かないよりはよっぽどましだ。
◎歌舞伎
歌舞伎役者になるには、そういう家柄に生まれないと厳しいところがある。
歌舞伎とは無関係の家柄であれば、かなり難関ではあるが、専門の養成所で2年間修業という方法もある。
あとは、歌舞伎役者に弟子入りもなくはないようだが、いずれにしても相当な努力が必須でそれをしてもなれる可能性は低いというのが現状だろう。
歌舞伎とはいかないが、伝統的なお芝居がしたいのであれば、大衆演劇という方法もある。
詳しくは、その他→大衆演劇を見て下さい。
◎宝塚、東宝や劇団四季等のミュージカル
・宝塚に出演したいなら、選択肢はひとつ。宝塚音楽学校に入学するしかない。
・東宝のミュージカルは、東宝のホームページで一般公募しているのでチェックしてみると良いでしょう。
但し、かなりの競争率ですからそれなりのスキルは必須です。
・劇団四季の場合も、オーディションが一般公募であるのでチェックしてみて下さい。
この3つは、いくらでもネットで探せば情報は出てくると思うので、詳細は割愛します。
▼小劇場系
小劇場系といってもいろいろある。商業演劇を小劇場でやっている場合もあるが、それは規模の違いなのでここでは省いてお話を進める。
小劇場系は「劇団の公演」と「プロデュース公演」の2つにだいたい分かれる。
では細かく説明していこう。
◎劇団の公演
大きな劇団であれば商業演劇として収益がとれるところもあるが、中小の劇団の場合は小劇場での公演が多い。
そして、その中小の劇団の数は数えきれない。旗揚げする劇団があれば、消えていく劇団もある。
劇団の場合は、劇団員から会費を徴収するところも多いし、それとは別にチケットノルマがあったりもする。
劇団の最大の魅力は、演出家が自分の成長を見てくれて、成長に応じて役柄が変わってくるところだろう。
裏方もやるしいろんな経験を踏むこともできる。
大きな劇団だと、裏方をやってから、やっと出演できてもまずはガヤ(エキストラ)から。1つのセリフをもらうまでに3年なんていうのも。そこからやっと役名のある役がもらえてという感じ。
でも小さな劇団であれば、役名のある役への道のりは近いかもしれないが、それも劇団による。
本当に劇団により、プロ意識の高い劇団もあれば、友達感覚で楽しいばかりを優先するところもあるので、自分に合うところに入るのが一番だが、それは入ってみないと分からない。
いずれにしても、その劇団の公演を見て、脚本が好きか、演出が好みか、良い役者さんがいるかなどを見てから先に進むことをお勧めする。
大手の劇団であれば、他からオファーが来たりもするが、中小だとオファーがあってもギャラなしだったりもする。
本当にその劇団が好きでそこに骨を埋めても後悔しない、この演出家としかやりたくないという場合は、ずっとそこにいるのも悪くはないが、ある程度の経験を踏んだら、もしくは踏みながら他のところにも出演する方が良い。
劇団によってやり方はいろいろだし、演出家もいろいろなので、一つに染まり過ぎて他に行った時に融通が利かなくて困るのは自分だし、他を見てやっぱり自分の劇団が一番だと思うかもしれないし。
他を知らないというのは視野が狭くなるだけなのは明らかだ。
同じ劇団に長くいるのが悪いわけではない。それだけ魅力的な劇団だということだろうし、私自身は劇団に入ったことがある人の方が、どこにも属さずずっとフリーでやっている人より、信用できるイメージはある。
ずっとフリーっていうのは、役者の基本中の基本(実技以外の部分)を誰からも教わっていなくて、分かっていない場合もあるので。
話がそれ気味だが、劇団員になる方法は、その劇団に問い合わせてみるしかない。
オーディションをやっているところもあるし、オーディションがないところもあるだろうし、劇団員を募集していないところもあるだろう。
公演により客演(劇団員以外の出演者)を募集というのも小劇場系では多いので、客演で一度出演してみてから正式にその劇団に入るという方法もある。
客演の募集は、インターネット上でいくらでも見つけることが出来るし、気になる劇団があるならそこの劇団のホームページとかSNSをチェックしてみると良い。
ちなみに少し大きめの劇団になると養成所を持っているところもある。
養成所からそこの劇団員になるという方法もあるので、劇団によってさまざまだ。
但し、やはり劇団だろうと養成所は養成所であるということは忘れてはならない。
養成所の全員がその劇団に入れるかどうかはまた別の話だし、劇団の養成所は劇団の経費稼ぎの一部であるのも確かなので、オーディションがあっても誰でも入れることが多い。
スキルを磨きにいく、師事したい演出家が講師でいるとかで、自分にとって支払う費用に見合うものが得られるかどうかだと思う。
◎プロデュース公演
劇団の場合は劇団員を抱えていているのに対し、プロデュース公演は公演毎にキャストを集めるという方式だ。
主催(演出家とかプロヂューサー等が多い)が企画し制作していく。スタッフもキャストも、その都度決めていくという方式。
プロデュース公演の場合、演出家等が声がけしてキャストを集める場合もあるし、全キャストを一般募集なんていうのもある。
全キャスト募集の場合は、主役になれる可能性があるということだ。
役の大きさはあまり問題ではないけれど、主役というポジションはやりたくてできるものでもないので、経験出来るなら経験してみるのが良いだろう。
プロデュース公演に出演したいなら、一般公募情報はインターネットでいくらでも得ることが出来るので、オーディションサイト等をチェックしてみると良い。
プロデュース公演の場合の出演条件は、それぞれ違うのでちゃんと出演条件を確認し、条件に合っていれば応募が出来る。
基本的には書類審査で、通過者のみオーディションという感じだろう。
一般公募でオーディションがない場合はちょっとヤバいと思った方が良い。スキルもチェックしないでOKなんていうのは、スキルの低い人も合格している可能性が高く、作品としてのクオリティは期待できないし、稽古も大変だろう。
プロデュース公演の稽古期間もまちまちだし、ギャラが出る場合もあるので、自分にあうところを探してみるのが一番良い。
チケットノルマがあるところも多いが、それもピンキリで、50枚ノルマだったり、1枚の金額が高かったりするので、自分が呼べるお客さんが払える金額か、自分が呼べる人数かなども考えながら選ぶべきだ。
もちろん「自腹でも良いんだ」、「経験を買うんだ」という気持ちであれば話は別だが、チケットノルマと言うのは、裁けなければ自腹は当たり前だが、「自腹で払えば文句ないだろう」っていう考えの人は、いろんな意味でヤバい。なぜだかは、自分で考えてみてくれ。いくつも理由を見つけられる人は、プロになれる見込みがある。機会があればいつか答えを書くことにしよう。それよりも書きたいことがたくさんあるので、今は割愛。
▼その他
◎劇団公演
小劇場系で中小劇団については触れたが、大手の劇団は別物なので分けてみた。どこに入れるか迷って、その他に入れることにした。大手の劇団なので、商業演劇に入れても良いと思う。
劇団によりカラーがはっきり違うのが一番面白いところだ。
「大手ってどこから?」という疑問はあるかもしれない。今、大手で新人募集しているところは、稀なのでここに書くかも迷ったのだが、一応時代がどう変わるか分からないのでここに書いておく。
劇団として演出家や役者がいるのは、中小劇団と同じだが、その人数や公演の規模が全く違う。
人気のある看板役者がいたり、チケットも役者が手売りしなくても売れる。
大手の劇団員になりたいのであれば、劇団のホームページを見て劇団員を募集しているかを確認し、応募するしかない。
中には養成所を設けているところもある。
詳しくは、小劇場系のところに書いたのでここでは割愛させていただく。
大手の劇団に入れば、収入はある程度もらえるし、他から仕事のオファーもくるようになるし、商業演劇のオーディション情報など入ってくる。
間近で先輩役者と一緒に芝居ができるというのは、かなりのメリットだ。
舞台役者を目指すなら、プロダクションに入るか大手劇団に入るかが一番良いだろう。
あとは、どっちが好きかだ。劇団には劇団の良さがあり、それについては小劇場系のところを見ていただくとして、プロダクションにはプロダクションの良さがある。
映像系もやりたいならプロダクション、とにかく舞台が好きだというのであれば劇団というところだろうか。
劇団に所属しながら、映像系はプロダクションに所属という役者さんもいるし。
いずれにしても、やはり新人ですぐに大手劇団に入るというのはなかなか狭き門ではあると思うが、可能性はゼロではないので挑戦してみるのも有りではある。
◎大衆演劇
「旅役者」と言われていますね。日本中を旅しながら公演をしている一座です。
毎日のように芝居ができる楽しみはあるでしょうし、ギャラももらえる。
時代物が多いので、そういうお芝居が好きな人ならとっても良い仕事です。
大衆演劇に出演したい場合、そういう劇団に入るしかありません。
劇団によって募集しているかなど状況が違うので、劇団に問い合わせてみて下さい。
「大衆演劇」でググれば、そういう劇団が見つかりますので、自分で調べてみて下さい。
私はあの世界はあの世界でとても好きです。元々時代劇が好きだというのもありますが。
◎学校公演
これも日本全国を廻ってお芝居をするのですが、その演目はさまざまです。
時代劇もあれば、現代劇やミュージカルをやったりするところも。
ギャラについてもピンキリです。
「子供が好き」「子供に夢を与えたい」「自分が子供時代に学校公演を見て役者を目指した」等の人には良い選択しかもしれません。
学校公演は、大衆演劇よりも大変な部分がいくつかあります。
一番の違いは、大衆演劇がお客様個人からチケット料金を頂くのに対し、学校公演は学校から支払われるのが主なので、予算に限りがあり、予算の中で作品を上演するということでしょうか。
それに、公演場所が学校というスペースですから(学校側が会場を別で借りる場合もあり)、学校により舞台として使えるスペースも違うし、体育館の場合は客席がひな壇になっていない状態で一番後ろの生徒さんにも見えるようにとか、照明や音響なんかも劇場とは違うのでいろいろと苦労があります。
でも、そういうみんなで作り上げるというのが好きで、お芝居を身近に感じてもらいたいという方には合うお仕事だと思います。
学校公演に出演する役者になりたい場合は、「学校公演 劇団」で検索すれば、いくつかそういう劇団を見つけることが出来るので、あとは直接問い合わせてみてください。
『役者になるには(舞台役者編)』はとりあえずここまで。
まだまだ、『役者になるには』シリーズは続きます。
次は技術編になると思いますが、その前に役者以外のことをかくかもしれませんこと、ご了承ください。
気分次第です・・・
最後までお読みいただき、ありがとうございました。