朝日新聞「うたをよむ」
夢の中で、夜の小樽運河を歩いていた。
実際の運河よりも広々としていて、誰もいない。
月灯りがとても明るい。
遠くのほうから一艘の船がするすると近づいてくる。
巡視艇のような、シャープなかたちの船。黒と白のコントラストが美しい。船はすーっと滑るように着岸した。
デッキに黒いコートを着た男が何人かいて、わたしのほうを見ている。
表情は見えないけれど、わたしを迎えに来たのだとわかる。
船から石畳の地面へ、わたしの足元へ、
月灯りが液体のように広がってくる。
わたしは右手に空のどんぶ