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エッセイ『早熟少年発案“氷の微笑ゲーム”と“女王様とお呼びごっこ”』
小学校二年の時、我々のクラスに転入して来たミナガワ君は稀に見る変わり者であった
ひょうきんなルックスと下品な天然パーマ、袖口にカピカピの米粒がついた見たこともないアニメのトレーナーを着こなし、二年生とは思えない程ボロボロのランドセルを背負っていた
ごく一般的な、平凡なクラスにこんなセンセーショナルな人物が転入してこられても、コミニュケーション能力に乏しい当時の僕らには彼と距離を取るより方法がなかった
そんな空気を察してか、ミナガワ君は我々の気を引こうと、前の学校で流行っていたゲームをいくつか紹介してくれた
まず紹介してくれたのが【氷の微笑ゲーム】
休み時間に体育館に数人の仲間を集め、ミナガワ君はおもむろにパンツを脱ぎ始めた
他のクラスの子や上級生が遊んでいる周囲の様子を気にもせず、非常にスピーディーに、かつ大胆にスルスルとパンツだけを脱ぎ始めた
そして脱いだパンツをランドセルに入れ、いわゆるノーパンの状態でホットパンツのような半ズボンを履き、体育館にあったパイプ椅子に腰掛けたのだ
突然のショッキングな出来事に唖然とする我々を他所に、彼は淡々と準備をし、パイプ椅子に腰掛けた後は艶かしく足を組んだ
「コレは『氷の微笑ゲーム』。今から僕が足を組みかえるからチンチンが見えたら僕の負け」
おそらく、映画「氷の微笑」からインスパイアを受けたゲームなのであろうが、当時の僕らには何のことやらサッパリ分からず、妖艶に短い足を組みかえる下品な天パの小学生をただただ見つめることしかできなかった
誰も見えなかったと伝えると、彼はガッツポーズをし、「まあ、みんなは初めてだから」と負けた僕らを慰め、次に誰が鬼をやるか決めようと言ってきた
僕らは丁重にお断りをしてミナガワ君にパンツを履くよう促した
ノーパンで足を組みかえる役を“鬼”と呼ぶのには子供ながら違和感を感じた
あまり手応えを感じなかったミナガワ君は不服そうに、
「じゃあ、女王様とお呼びごっこでもやる?」
と提案をしてきた
そう言うと、今度はおもむろにランドセルから縄跳びを取り出し「じゃんけんで負けたやつ女王様な?」と語りかけてきた
みんな正直さっきから意味が分からないから、とりあえず最初はミナガワ君が女王様をやるようお願いしたら、ため息を一つして、
「仕方がないわねぇ」
と準備万端のご様子で目隠しをして30秒数え始めた
僕らは若干の恐怖を感じ、ミナガワ君が転校してきたばかりで知らないであろう体育倉庫に全員で隠れ、女王様の動向を隙間から見守ることにした
30秒数え終わり、女王様と化したミナガワ君は、
「さて、私の奴隷たちはどこへ行ったんだい?」
と言うセリフと共に手に持っていた縄跳びをムチのようにビュンビュンとしならせ始めた
体育倉庫内の全員嫌な予感がしていたがそれが的中、ミナガワ君はまだ転校してきたばかりなので僕らの顔をあまり認識していないからなのか、それとも30秒で完全に女王様になってしまったからなのか、一緒に遊んでいた仲間とは関係のない、他の学年の子らを縄跳びで順にシバき始めたのだ
みんなで慌てて止めに入ったが女王様の勢いは収まらず、奴隷たちは泣くは怒るはの大騒動、しまいに先生方数人に取り押さえられ、そのまま女王様は学校を早退してしまった
そこから彼は学校を休みがちになり、2つの一切流行らなかったゲームだけを残し一年も経たないうちに他の学校へ転校してしまった
大人になった今なら、こんな面白いゲーム全乗っかりでフルテンションでやってあげるのに
後悔しても仕方がないが、少し早熟過ぎた彼の完成度の低いシャロンストーンのモノマネは20年以上経った今でも目を閉じるとハッキリと思い出す