職場に広がるジェラードン
職場でジェラードンの話題になった。お笑い芸人のトリオである。私は聞いたことがある程度だったのだが、私の職場にいる四人中三人が知っていると答え、そのうち二人が「如月マロンちゃんはかわいい」と回答している。ただ、如月マロンちゃんというのはおっさんが女装した姿だ。
「かわいいですよね!」と、迫りくる圧を感じつつ「かわいくは、ないです」と答えるのにはやや勇気が要った。私だってオタクの端くれ、他人の推しを下げるほど腐ってはいない。
なにより、状況としては中身がおっさんのバーチャルユーチューバーを推している私と何が違うというのか。おっさんが女の子のガワを被っていると「かわいい、かわいい」と囃し立てるのは、私も一緒である。バーチャルのじゃロリ狐娘ユーチューバーおじさんが好きな私と、お笑い芸人が女装している姿が好きなのは同列とまでは行かなくてもシンパシーを感じる部分がある。
また、如月マロンちゃんはミュージックビデオを配信しており、今の所私は3つ見たのだが回を追うごとにクオリティが上がっている。やはりこうした些細な成長や変化を感じられるのも、追いかけていて楽しい部分だ。ただ、やはり私は如月マロンちゃんをかわいいと感じられる領域には達していない。
「まずは慣れるところからですね」という、学校のプールに入るときの心構えのようなアドバイスをもらった。慣れると可愛く見えてくるらしい。それはわかる。慣れ、というのは大変恐ろしいもので、それまで感じていた違和感が気にならなくなるのだ。
例えば画面に写っている画像は二次元でおっぱいのでっかい女の子なのに、中身はバリバリの漫画家のおじさんでボイスチェンジャーも使わずに普通におじさんの声で話している。しかし、もうそういうのにも慣れるのだ。
だから、如月マロンちゃんもいくつかのコントを見て慣れたあとは「おじさんである」という前提を完全に無視することができるのだろう。今や、女性の格好をして普通に男性の声で話すのを聞くことへの抵抗は随分と減った。
動画を見ている時の表情を表すなら「呆然」であったかもしれないが、逆に職場の皆様がバーチャルユーチューバーを見たら同様に「呆然」となるのではないだろうか。互いに「これは、何が面白いんだ?」という疑問を抱えたまま、やや重い空気になるに違いない。
人が推しを語るときには黙って聞くのが筋である。興味の有無は別として、話は聞いておくべきだ。私にはよくわからないけれど、という立ち位置を取りつつも「あなたはそれが好きなのね」とうなづくだけの余裕と時間は持っておきたい。
ちなみに私が今ハマっているのはイタバシハウスというトリオである。暇つぶし、と題してかなりレベルの高い掛け合いをしているのでぜひ一度見て欲しい。特に今の所女装をしている様子はない。
私もいずれ女装するトリオに慣れて、かわいいと思う日が来るのかも知れないが今は少し遠目の距離から「そういうのもあるんですねー」とうなづく日々である。