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火炎と共に前線を上げる
ポケットモンスター、縮めてポケモン。その不思議な生き物は現代の動物とは全く違った生態をしている。特にタイプと呼ばれる区分は、ポケモンの特徴とポケモン同士が戦うバトルにおいて重要な役割を果たす。火は草に強いが水に弱い。草は水に強いが火に弱い。かくとうタイプは岩を砕く、鋼も氷も砕くのでいわタイプ、はがねタイプ、こおりタイプに強い。
そして、ここは戦いの舞台「エオス島」ここで行われるユナイトバトルは、先に述べたタイプを、一切無視して行われる。大体、火は水を蒸発させるし、水は草にやりすぎれば根腐れを起こすし、生木はそう簡単には燃えない。なので、先程の話は忘れて欲しい。ほのおタイプが水に弱いのは過去の話だ。火をつければ皆燃える。水も、草も、氷も、鋼も、いざ「攻撃する」となれば話は別だ。
それが、ポケモンユナイトというゲームである。このゲームでは、フィールドに居る野生のポケモンを倒してポイントを獲得しそのポイントをバスケットボールの如く相手のゴールにシュートする。とにかく「めちゃくちゃ沢山ボールがあるバスケットボール」だと思って欲しい。もう、フィールドがひっちゃかめっちゃかである。しかも、このバスケットボール、ファウルがない。むしろ先に述べた、火、水、草、氷、さらに電気、ポケモンの技であれば攻撃に何を用いても構わない。
そうして、時に十万ボルトに達する電気を相手にぶつけるピカチュウやら、摂氏二千度の火炎を体内に貯めているリザードンやらが妨害の名のもとに技をぶつけ合う。相手がポケモンでなければ確実に命を落とすだろう。
それを、5対5でスポーツとしてやろうというのだからエオス島は「一匹いるだけでもヤバいモンスターを十匹集めて、何でもありのバスケットボールを企画し実行するヤベェ奴」が間違いなくおり、しかも、それを興行として成立させる地盤を兼ね備えた革新的な都市だと言える。
また、今のところポケモンは暴走することなく楽しそうな様子で競技に参加している。むしろこれまでのシリーズのほうが、よほど世界の危機だった。私が初めてプレイしたポケモンでは世界が陸地だけになるか海だけになるかの運命が主人公の少年あるいは少女に託された。時間と空間が宇宙ごと吹き飛びそうになったこともある。それがポケモンのメインストーリーだったがエオス島においては、みんなきちんと競技としてのユナイトバトルのルールを守って戦っている。
それはあらゆる意味でこれまでのポケモンとは全く違うものだった。例えばこれまでポケモンといえばトレーナーがポケモンを持ち寄り、互いに戦う。言わば、一対一の戦いであった。負けたら自分の責任である。勝利も敗北も、自分の中で消化することができる。しかし、今回はチーム戦だ。しかも、一人が強ければどうにかなるというものでもない。
それは何に例えればいいか。例えば将棋の駒の一つとして、将棋に参加するようなものでもある。プレイヤーであれば、全体を俯瞰してその中から一つ選んで手を進める。しかし、私自身がその駒の一つともなれば、見える情報は断片的だ。敵がどこにいるかは、チームの誰かが接敵しないと分からない。
これまでずっと「目と目が合ったらポケモンバトル!」だったし、戦う相手がトレーナーだと「勝負の最中に相手に背中を見せられない!」と表示されて「やるか、やられるか」の緊張感の中でバトルをすることになる。
だがユナイトは違う。形勢不利と見たら即撤退もアリなのだ。目と目が合う、レベルを見る、不利だとわかる、一回逃げる。しかも、タイプ相性による有利不利もないので、これまでの経験から「ほのおタイプならくさタイプは楽勝」などと思っていると、自分の体躯の倍はあるであろう蔓のムチがビュッとしなりながら飛んできて叩き潰される。
それ故に「あぁ、これは、ポケモンの姿をしているけれど見知った知識はむしろ邪魔になるゲームなんだ」と気がついた。そして、チーム戦であるがゆえに弱い私は味方に迷惑をかけるだけに終わってしまう。何より、自分がどうしてその行動を取ったのかをうまく説明できず、悩んだ結果、やめてしまった。
それから約一年、ポケモンユナイトは一周年のアニバーサリーフェスを開催していた。このゲームはカセットでやるゲームではなく、アプリのように配信される形式のゲームなのだ。
スマホではGoogle PlayやApp Storeから無数のゲームが配信され、無数のゲームがサービスが終了へと向かっていった。その中で一年続くというのは本当にめでたいことだそうだ。
だそうだ。と、他人事なのも私はスマホゲームをあまりやらない他、ゲームと言えばカセットで、一度買ったら思いついたときにプレイできるのが当たり前である。何より、幼い頃から買ったゲームは次の誕生日やクリスマスまでは遊び倒し、さらには昨年の誕生日やクリスマスのゲームもまだまだ遊ぶことはザラにあった。なので、数ヶ月単位でお祝いしていたり、今も別のゲームがハーフアニバーサリーということで「半年続いたお祝い」をしている。血みどろのレッドオーシャンを何ヶ月泳ぎきれるか、それはもうさながらデスゲームだ。好きなゲーム好きなコンテンツがいつ終わるか分からない恐怖と共に過ごし公式からの「大切なお知らせ」に慄く日々とは少し遠目な場所にいる私からは、まだ、まだそこまで実感のない世界なのだ。
むしろ「あ、なんか前にダウンロードしたゲームがめっちゃサービスしてるじゃん。ラッキー」と、完全なフリーライダーとなっている。これまでゲームを支えてきた方々の気苦労。眠れぬ夜。トラブル、不具合。そうした困難を一切知らないまま「ラッキー」と思っているわけである。
しかし、もちろんその代償はある。もう、ほんっっっとうに、弱いのだ。理由は明白。プレイ時間の差である。言うなれば努力してきた時間、積み上げてきた時間の差だ。気苦労、眠れぬ夜、トラブル、不具合に飲まれながらもこのゲームと向き合ってきた人々が「ラッキー」とノコノコやってきた奴に簡単に負けるわけがない。そんなことは私もわかっている。そして、ゲームをつくる人ももちろん想定しているようだ。
私のような気まぐれユーザーであっても、一瞬戻ってきて「ツマンネ」と言って去られては困る。そこで、大量のアイテムがどっさり配られるのである。しかも「おかえり!」という言葉と共に「新しいポケモンを使ってみませんか?」とお誘いがあるのだ。本当にうまくできている。好きなポケモンを一匹プレゼントしてもらった私は、好奇心からゲームに参加する。完全に「ノリで帰ってきた輩向けの導線」にしっかりと乗せられ、再び十万ボルトの電流や摂氏二千度の火炎が渦巻くステージへと向かう。
そして、勝ったり負けたりする。私は一年前にボッコボコにやられた経験があるので、できるだけ戦いは避けつつ誰かが戦っているところに加勢する形でちょっとだけ混ぜてもらった。コマンドとしては「いのちだいじに」であり方針は「迷ったら逃げる」である。
せっかく「おかえり!」と歓迎されたのだ。何より、対戦ゲームにおいて勝ちを目指すことは一つのマナーとして捉えている私としては、もう少し頑張ってみたくなった。しかし、このゲームはポケモンだがポケモンではない。タイプ相性も無いし、世界も危機に陥らない。ただ、進め方の定石はある用に思えた。
このゲームは「ポケモンだ」と思ってはいけない。何か別のゲームだ。しかし、未知のゲームではない。全体を見て、有利な局面を生み出すという部分は将棋に思えるし、ゴールにシュートするのはバスケットボールだ。断片的な知識の中から、手がかりになりそうなものを探す。そんな中でふと思い出したのは、友人の言葉だった。
「この前、ポケモンユナイトの解説動画見てたら『このゲームは大体ガチアサリと一緒です』って言って、その後全部ガチアサリの解説で笑った」
ガチアサリ。それならばよく知っている。スプラトゥーン2における、対戦ルールの一つだ。しかし、ここまでずっとポケモンの話をしてきて突然別のゲームについて事細かに語ると読んでいて疲れるだろう。そこで簡潔にまとめるなら「めちゃくちゃ沢山ボールがあるバスケットボール」である。ボールの代わりに人間の体ほどのデカさがあるアサリをぶん投げる。ただ、このゲームは言われるまでそのルールの類似点に気が付かなかったくらいには、操作性もビジュアルもルールも全く違う。しかし「チーム戦で、相手のゴールを目指すためにすべき基本」が偶然にも、ポケモンユナイトに応用可能だったのである。
具体的には前線を上げることを目標にするのだ。逆に、これまで私がとにかく負けまくっていたのは、目標を勘違いしていたからだった。ポケモンのルールが頭に残っていて「相手を倒すこと」を目標にしたり得点をたくさん入れれば良いと思って「ゴールすること」を目標にしたりしていた。しかし、その目標は間違っていた。間違っていたのだが、何を目標にすれば良いのかも分からなかった。だから、なんとなく勘で動く行動が多かった。しかし、その勘は過去の全く別のポケモンから引き出されたズレている動きだったので明確な勝ちにつながらなかった。そこで、基礎解説動画を流しながらポケモンユナイトをすることにした。ゲームをしつつループ再生すれば一試合中におよそ二回流れる。特に冒頭の部分で「前線を上げる」と述べてくれるので、ゲームとしては序盤と終盤でそのあたりが再生される。そのたびに前のめりすぎたり、臆している私は「そうだったそうだった」基礎を思い出している。
ところで、知識の応用というのはどの程度できるものなのだろうか。私は当初、ポケモンユナイトをこれまでのポケットモンスターシリーズの知識を用いてしまったために大失敗した。もちろん、ポケモンユナイトについて解説した動画を見たりして勉強はしたがさっぱりわからなかった。彼らはもう既にポケモンユナイトという一つのゲームを捉えきっており、私のように誤解したまま呆然と立ち尽くしてはいないようだった。調べても調べても分からない。やってみても手応えがない。その結果、一年近くポケモンユナイトに触れることはなかった。
しかし、そこにガチアサリという全く別のゲームで使っていた原理が応用できるとなった時に話は大きく変わった。行動の全てを「前線を上げる」という目的に注いだ結果「前線を上げるために死なないようにする」「前線を上げるために敵を倒す」「前線を上げるために今は引く」と序盤から中盤、終盤まで行動に明確な理由ができた。そして、今のところその理屈を用いて戦い、反省することで勝率を稼いでいる。短期的にではあるが結果が出ているのでやっていることは大きく間違っていないのだろう。少なくとも、かつて感じた全くわからない手応えのなさは消えた。
ゴールを沢山決めたほうが勝ちなのに、ゴールに拘ってはいけない。敵を倒したほうが有利になるが、倒すことに拘りすぎてはいけない。そこから何を手がかりにすればいいのか、言葉として理解できるようになる頃には一年が経過していた。荒波に揉まれ、一年間をなんとか乗り切ったお祝いに「なんか面白そうだから」と顔を出したら盛大に歓迎されてしまった。今では、昨年の苦戦が嘘のように楽しめている。反省の手がかりとして「前線を上げる」という言葉が光のように差している。
自分の行動は、前線を上げることに貢献できていたか。チームとして役割を担うにあたり、この視点は今の私にとって欠かせないものになっている。
ポケモンユナイトは、まだまだ謎が多い。ガチアサリとも基礎が似ているだけでコントローラーの操作方法や、ポケモンに持たせるアイテムのカスタマイズなど向こうにはない要素もある。しかし、基本は大事だ。繰り返し繰り返し、忘れては思い出しながら馴染ませてここまでゲームを覚えてきた。
そうして今日も私はSwitchを起動して、お祭り真っ只中のエオス島で、相棒のリザードンと共に摂氏二千度の炎を口から吐き出して相手に浴びせるスポーツを楽しんでいるのだ。
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参考動画
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