先生をやっております。

中学の時の私へ。

たぶん信じられないと思うんだけど、今ワシね、家庭教師してるんだ。科目? 英語。

今アルバイトしている先のカフェでアルバイトしていたところ、お客様からスカウトされた。働いているカフェというのは6~8畳程度の広さのカフェで、本当に畳と、ちゃぶ台しかない。そこをアルバイトがシフト制で回している。私の時はだいたい一人だ。アルバイトを始めてから時間が経ち、ようやくコーヒーを淹れるのにも慣れてきて、お客様に話しかけることが多くなった。小さいカフェなので、一人一人丁寧に話を聞ける。

しかしながら、それと兼務しての家庭教師である。私は英語が苦手だ。苦手というか、何度も書いている諸事情により中学以上の英語を習っていない。なので、英語を学び直す必要があった。「びーどうし」、とかいうものとか、「かんけいだいめいし」というものとか。そもそも、何年生でなにを習うか解ったものではないので、そこから一つ一つやり直した。

だが、その心配は杞憂に終わる。生徒のT君はばっちり英語が出来る。余裕で出来る。ちゃんと解ってるし、満点ではないけれど平常点は取れる。しかし、問題は何かというと、集中できないと言うことだった。なるほど。それならいけるかもしれない。

伊達に、人のやる気を科学する。なんていう題目を掲げた大学の授業を聞いていたわけではない。根拠のない自信が湧いてくる。まずは、T君の授業を時間で区切ってみた。「とりあえず10分間、その時間は自由に過ごして良いが、机の上から動かないこと。あと、勉強は英語だけやること、ほかの科目はやってはならんが、ゲームなどは好きにせよ」

ふはははは。

強制すること以上にやる気を失わせる物はないので、行動に制限をかけていく。最初は動ける範囲と時間を制限した。最初は当然ゲームなどをする。私もマンガを読む。そして10分経つ。すると、なぜか、2つくらい問題が終わっているのでハイタッチして丸を打つ。次は行動を分離する。「今から10分は机に向かう、ただし、英語のテキスト以外を開いてはいけない。やるかやらないかは自由。やらないときは寝てなさい」その後「そのあと、10分間は俺とゲームだ」ゲームは本当にDSとか、そういうゲームだ。カービィで戦う。めっちゃ強いので、ボコボコにされる。

すると、なぜかテキストがまた進んでいる。ハイタッチ。これの繰り返しだった。元々、能力は持っているので、選択できる行動と時間を制限して、やりたいことと、できることを区切れば良いだけだった。

そして、次の課題。彼は、知らない単語を調べるのが本当に楽しくないようだった。これは簡単だ。鉄道オタクだったので、ありとあらゆる駅名を直訳して英語にした。新宿駅を「new hotel」目白駅を「eye white 」などと当て字にして「さぁ! なに駅か解るかな!」としたら、すごく真剣に調べてくれた。最近は、駅の並びから英語をすっ飛ばして推理されたりしているので、私も工夫を強いられるが、調べるのめんどくさい問題は回復へ向かった。

しかし、新たな関門を迎える。T君の夢中になるゲームがT君の自室に置かれてしまった。これは、本当に困った。さて……さてさて……。ゲームのボスに立ち向かうT君。このままボスを倒して次のステージへ向かわれてしまうと、またしばらくテキストは進まない。

「頑張れ!! ボス!! お前の本気はそんなものか!! さぁ、早くT君を倒してテキストへ向かわせてくれ!!」

しかし、ボスは難なく突破されてしまう。さて、どうしたものか。私はしばらく見ていた。T君はゲームの話をずっとしている。……そうか、ゲームの話がしたいのか。試しに聞いてみた。

「……それ、ワシも出来る?」

「やってみる?」

「ええんか?」

ゲームを貸してくれた。操作方法を覚える。なるほどなるほど。これは、難しい。操作方法やゲームの裏話を教えてくれるT君。全然進歩しない私。何度も何度も、ゲームオーバーは続く。

「……もうちょっとだけやっていい?」

私も意地になってくる。流石に最初のステージもクリアできないのはちょっと、先生の名が廃る。負けていられない。

T君はちょっとうれしそうに、でも、やれやれという顔をしながら「仕方ないな、どうぞごゆっくり」と言って、テキストを持ってリビングへ行ってしまった。

さて、と、ゲームに向かったとき。

「えっ、今、テキスト持って行った!?」

そっと覗くと。リビングでテキストに向かっている。マジかよ。私がボスにぼっこぼこにされている間に、T君はテキストの半分を終わらせていた。しばらく時間が経ってから、そろそろ休憩にしようと、T君のいるリビングへ向かう。

「T君……ボス、倒せない」

結構本気で頑張ったのに、全然倒せない。

仕方ないなとT君はゲームに向かった。めちゃくちゃ強い。

ちらっと、テキストを見るとやっぱり終わってる。出来るじゃん。あっ、待って、倒すところ見てなかった。


中学の私へ。

8年後は、こんな先生をやっています。

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キッチンタイマー
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