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新居の鍵を恋人に。

使う鍵は全て、キーホルダーにまとめられている。妹がディズニーランドに行ったお土産に買ってきてくれたものだ。とても物持ちが良いので、高校生くらいのときに貰ったものだがまだ使い続けている。

昔から、ものを無くしやすいので大切なものほどまとめて一箇所に置いておく癖がある。鍵を預かるときも、このキーホルダーにまとめているし、帰ってから置く場所も決まっている。持っていくときも、必ずズボンの前ポケットに入れていて、滅多に手離すことはない。

このキーホルダーにまとまる鍵は、活動する場所が変わるごとに入れ替わる。昔は出版社兼カフェの鍵が収まっていたのだが、兵庫県に引っ越す際に社長へ返した。自転車の鍵も以前はメンバー入りしていたのだが、使わなくなったので外した。取っ替え引っ替えしているものの、平均して4種類の鍵がキーホルダーにぶら下がっている。

外す時は寂しいものだが、新しい鍵をつける時は事務的にさっさとつけてしまう。最初はさして、興味のない鍵なのだが、使うたびに愛着が湧いてくる。

鍵本体は、扉を開けるためだけのものなのだが、段々その扉の先が自分の居場所になってくると鍵を手放すことは、その場所に自由に入る手段を手放すことになる。まだ新しい部屋が自分の居場所でないうちは、鍵をキーホルダーにつけてもさして大きな感動はない。

新居の鍵をキーホルダーにつけたときも、そんな気持ちだった。恋人と電話している時、ピカピカの鍵がキーホルダーにぶら下がったことを話題にしても今ひとつピンと来ない。

でも、恋人は「良かったねぇ」と嬉しそうにしていた。私の感情の肩代わりを、時々恋人がしてくれる。

「ところで、〇〇君の家の鍵は何本あるんだい」

恋人が言った。

「二本ある」

入居する際、不動産屋さんから二本、鍵をもらっていた。一本はキーホルダーに入れていて、もう一本は棚に置いてある。

「それは、私のためにもう一つスペアキーを作ってくれたという惚れ直す展開かな?」

「いや、不動産屋から二本貰った」

「……うん、わかってたよ」

「……あげないよ」

「えー」

しかし、兵庫県に恋人が来た際、日中は別行動なので鍵は渡していたほうが効率がいい。結局、私の家の鍵を持って恋人は東京へ帰っていった。

その日の晩に電話をすると、恋人はとても機嫌が良かったので私は無視して将棋をし続けた。

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今日のテーマ「カギ」

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