見出し画像

よくわからないが面白いんだと伝えたいだけ。

ゲーム用のモニターを少し下に動かす。iPadで画面を直接撮影するので、iPadをビデオモードにして角度やサイズを調整する。モニター側もカメラ側も自由に移動できるので、軸を定めるのがちょっとだけ難しい。今日はゲームの実況動画を撮影する。相手にはLINEで送る都合上、5分以内に収めなくてはならない。

これまでもいくつかのゲームを実況していたが、5分という制約では1試合とか1体のボスといった明確に区切りのある状態で撮影をしていた。しかし今回は5分間でどこまでゲームの魅力を伝えられるかをテーマにBloodborneというゲームを最初から撮影する。BloodborneはアクションRPGなので、始まってから5分後に何をしているのかわからない。5分間で自分のプレイを見せて語りを入れる。それから画面に表示される映像を詰め込んで「これは、よくわからないが面白そうだ」と感じてもらわなければならない。

調整を終えて、撮影開始ボタンを押す。画面にはタイトル、私は自己紹介と今日のコンセプトを話す。といっても「5分間でどれくらいできるかやっていこうと思います」と端的に述べて始まった。画面はいきなりムービーから始まる。この瞬間、ゲームは私のコントロールを外れた。5分間、台本なしの戦いが始まる。

キャラクター作りだけで1分20秒が経過してしまい、ロード画面も微妙に長い。しかし、それも含めてこのゲームの魅力なのだ。ロード画面に表示されるアイテムの説明にも、ゲームの味が出ている。端的で簡潔だからこそちょっと不気味な説明が表示され全てを読み終える前にロードが進む。

さて、結果としては15分かかった。5分のつもりが、想定の3倍も時間を要してしまった。最初の5分では、本当に序盤のチュートリアルだけしか終わらずもう10分ほどかけてゲームをどのように進めていくかを説明させてもらった。もちろん、5分で終わることを目指していたので5分間で切りの良い場面になるよう、プレイ時間を調整してきっちり死ぬことができた。Bloodborneは死にゲーであり「あ、死んだ」というところに到達するまでがまぁ早い。しかし、なんとなく動画をつけて「死にました。おしまい」ではいくらなんでも「よくわからないが、面白そうだ」とはならないので、死ぬところからどのようにゲームが進むのかを収録して送らせてもらった。

最初の5分で死に、次の10分で死んでからプレイヤーを待ち受けるいくつかの関門について述べる。しかし、撮影を始めてから加えた全く想定されていなかったパートはダラダラ長くやってしまいそうだったので「もう5分ほしいが、どんなに長くてもこの先10分以上は撮らない」と決めて撮影に臨んだ。

このゲームは、パッと見てよくわからないが、面白そうだという感覚でありインパクトを画面を通して伝えたい。それが分かったのは撮影をして、送ったあとだった。しかし、それは私自身がBloodborneについて感じたことであり、クリアした理由でもあるし続けた理由でもある。そもそも、Bloodborneは「よくわからなくてつまらない」になるか「よくわからないけど面白い」になるかの分岐が発生すると思っている。私はその両方を経験した。つまらなくてやめたこともあるし、面白さを教えてもらって再出発した。

このゲームには常に「よくわからない」と思えることがつきまとう。

まず主人公は記憶喪失だ。自分が誰かわからない。そして、ゲームについての具体的な目的も示唆される程度で明確にミッションとして掲げられるわけではない。とにかく抽象的で、操作方法さえ、説明書を見忘れたらゲーム内ではうまく見つけられないかもしれない。だから、とにかく「よくわからない」と思う場面はタイトルからムービー、キャラクター、そこかしこに仕込まれている。私の仕事はこの「よくわからない」を全面的に出しているゲームで、どこに「面白そう」が潜んでいるのかを表現することである。

敵が強くてプレイヤーはすぐ死ぬ。敵が多いのてプレイヤーはなおのことすぐ死ぬ。雰囲気が怖くて仰々しい。何をすれば良いのかもさっぱりわからない。しかし、そこを手探りで進んでいく中でわずかに見える光がある。

レバーを引くと落ちてくるハシゴ、なぜか灯っているランタン、そして、私自身がかつて何度も死んで一度やる気を失った階段と、そこに散らばる敵の話をする。このBloodborneというゲームで私が何を知ったのかを語っているうちに、画面はどんどん流れていくのでとても全ては語りきれない。だから、場面に合わせて、面白いポイントを優先してどんどん言葉をつないでいく。自分の言いたいことを話している途中でも、画面はどんどん移り変わり敵がどんどんやってくる。その全てはきっと「よくわからない」という気持ちを沸々と生み出してくれるはずだ。だから私はそれをかみ砕き「ここが面白い」というところだけに絞って伝えていく。私とゲームで役割を分担して、画面は混沌を演じ、私はそれを解していく。5分話した頃にはコツを掴み始め、10分もするともう少し話したくなり、残り5分はいかに画面の移り変わりに合わせて、今画面に映っている何が面白いのかを表現することの面白さに酔っていた。

このゲームは「よくわからないが、面白そう」なのだ。私はとにかくかみ砕いていくだけで良い。なぜなら、ゲーム画面がずっと「よくわからない」状態を生み出してくれている。抽象的な表現、何をしてくるかわからない敵、敵の後ろにまた敵、燃えさかる炎、横から突然噛みついてくる犬、一つ一つは意味がわからない。だが、それがこのゲームのあるべき姿なのだ。

私は

「主人公は記憶喪失状態なので、もう何にもわからないんですよね」

「最初に敵は1人、次が2人に増えて、ここで4人です」

「うわぁぁぁぁぁ!」

「ここはキャンプファイアーと呼ばれている関門ですね」

などと言っているだけで良い。ゲーム実況と言うよりはゲーム解説である。実況はするまでもなく、画面がやってくれる。

「この世界では、自分は最強ではない。無双できるゲームではないっていうことをまず思い知らせてくるんですね」

気分はジョン・カビラである。段々と、自分の役割がわかってくる。

「このゲームにおいて犬とは、殺るか殺られるかの関係です」

手がキャラクターを動かして武器を振るい、私は声でそれを表現する。武器を振るっていることは見ればわかる。なので私は、どうして武器を振るっているのかを喋れば良い。そうして、私は動画を送り終えたあと、こうして文章を書き、自分は結局何が伝えたかったのかと振り返る。

撮影開始ボタンを押した瞬間にはまだ言葉にならなかったが、収録を終えたあと自分のしたことは何度も繰り返している「このゲームは、よくわからないけど面白い」と、何をほかにおいてもただそれだけ伝わってほしいと思った。もしどこかでBloodborneという名前を聞いたときに「前見たことがある、よくわからなかったけど、面白そうだった」と表現してもらえたらうれしい。なぜなら私も、Bloodborneはよくわからないけど面白いゲームだと思っている。何度やっても、わからない部分がある。それでも、面白い。

私はそれがわかるまでに1年かかったけれど、もし5分でそれができたら。実際には15分かかったがそれでも、少しでもそこに貢献できたら、動画を撮った甲斐があるというものだ。

そうして5分の動画を3本セット、友人は見てくれた。動画を見ながらコメントをくれた。動画内でいくつか、ここぞ、という見所もあったがそこも伝わっていたようで安心した。何より私自身、もう一度Bloodborneをやりたくなった。

撮影しながらゲームをするのにも慣れてきたが、ゲームと役割分担をしている感覚になったのは初めてである。今目の前に広がっている光景から、私が何を伝えるべきなのかがグッと明確になって、声になって動画に収められていく。良かったらまた見せてほしいと、友人は言ってくれた。

私もまた動画を撮影して、混沌とした面白い世界をまた見てもらいたい。でも、まだ特にこの先は何も決まっていない。

ゲーム用のモニターをいつもの高さに戻す。今度は画面がもうちょっと綺麗に映るように工夫したいなと思った。影として私が映り込んでいるのは、動きがかすかに見えるところもあるが、逆にアバターのようなものを用意しても良いかもしれない。バーチャルな体でも、用意してみようかと思いながらひとまず今はこうして文章に今日の出来事をまとめている。

いいなと思ったら応援しよう!

キッチンタイマー
ここまで読んでいただいてありがとうございました。 感想なども、お待ちしています。SNSでシェアしていただけると、大変嬉しいです。