真夜中にパーマネント野ばら
真夜中に目をつぶっても、なかなか眠れなかったので、カラダに従って寝るという行為をあきらめた。
カラダのメラトニンにスイッチがあって、ONにすれば眠くなって、OFFにすれば目が覚めるように操作できれば、便利だなと思いながら起き上がる。
静まりかえった夜の底辺に、ストンとテレビの前に座り、こうなれば、映画かドラマを観ようとおもう。
そして、レコーダーの中を彷徨っていたら、なかなか決められなくて、それで、目をつむってみる。
リモコンの↓ボタンを押しながら、ひとりで安定のドラムロールを口にする。
「ドゥルルルルルルル。(結構リアル)」
「ジャンッ!」と言いながら、リモコンの決定ボタンを押すと、『パーマネント野ばら』だった。
「何度も観てるのに、また泣くやつやん。」とおもって、ティッシュをテーブルに置いた。
泣く準備はバッチリやけど、明日は目が腫れるなあ。
この映画は、西原理恵子さん原作の漫画で、簡単なあらすじは、高知県のある田舎の漁村で、その街で唯一の美容院「パーマネント野ばら」を舞台に綴られていく。
離婚して子どもと実家に戻った主人公のなおこ(菅野美穂)や、母(夏木マリ)や、友達のみっちゃん(小池栄子)、ともちゃん(池脇千鶴)などの、恋と秘密が描かれている。
いつもパーマネント野ばらは、その客のたまり場になっていて、街の女たちは、そこで男の愚痴や不満をぶちまける。
そんな中、なおこは、こっそりと高校教師のカシマ(江口洋介)との静かな恋を大切に育んでいた。
ちなみにわたしは、この映画が好きすぎて、高知県のロケ地に旅行したことがある。
映画に出てくる漁村そのままの雰囲気で、穏やかに時間が流れていた。
この映画を観ていて、前半部分で断念する方が多いとおもう。
それは、男たちへの愚痴やあけっぴろげな会話や、キャラの濃い登場人物たちに対して、嫌気が差す人が多いかもしれないけれど、実はこれが現実っぽくて。
女が集まれば何とやらで、あけっぴろげな会話をする。
それをいつも静観して見つめている、なおこだけが、まともに写ってみえる。
この映画は、なおこの視点から物事が動き出している。
なおこと母の関係性。
なおこと子どもの関係性。
友達のみっちゃんやともちゃんの恋模様に、寄り添うなおこ。
おばちゃんたちのあけっぴろげな会話を聴き流すなおこ。
そんなくだらない日常に、ひとつの花のようにうつくしく彩る、カシマとの恋。
傷つき泥塗れになりながらも、懸命に生きている彼女たちをやさしく見守っている、なおこだけれど、途中から、鑑賞者は、なおこに対して、「あれ?」と違和感を感じるようになる。
そして、ゆっくりと穏やかに進む物語は、途中から歯車が狂いだす。
後半からは、なおこの視点にプラスして、周囲の人たちの視点がやわらかく交差する。
この映画の行間からは、閉鎖的な街に生きる女たちの、やさしさが色濃く、じわっと滲み出てくる。
そして、ラストに衝撃の事実が明らかになる。
その約2分間の淡い映像はうつくしく、ピアノの一音が儚くゆっくりと消滅して、なおこの世界に共鳴しながら、進んでいく。
ただ、波は風に乗って押し寄せ、白い泡を作り、プチプチと弾けて砕けてそこに存在していた。
ラストの事実を前にしても、人は生きていくのだろう。
たくさんの傷を抱えて、ときどきそのケロイドとなった跡をやさしくなでながら。
寂寞と喪失と絶望と狂おしいほどの想いを抱えて、この街の女たちは、今日も寄り添いながら、懸命に生きていくのだ。