見出し画像

カメラのシャッターの種類からブレが起きる原因とシャッタースピードとの関係、そしてブレを抑える方法について。

 さて、カメラのシャッターにはいくつかのタイプがあって、最近ではフォーカルプレーンシャッターとレンズシャッターがおもに使われている。という話を書いたので、もう少し、それに関連することも書いておこう。

 フォーカルプレーンシャッターにしても、レンズシャッターにしても、物理的な実体を持った機構=メカニズムとしてのシャッターであって、カタログなどには「メカシャッター」というふうに書かれているのだけれども、こちらと違う意味の「メカシャッター」もある。

 デジタルカメラに使われる撮像センサーには、「電子シャッター」という機能がある。ようは、電気的なスイッチのオンオフによって、露光の開始と終了を行なえる機能で、物理的な機構がいらないために、うんと低価格なコンパクトカメラや、スマートフォンなどのカメラ部によく採用される。

 電子シャッターは、撮像センサーの画素を1列ずつ読み出していって、その信号をつなぎ合わせて写真にする仕組みで、1列ずつ読み出すのに時間がかかる関係で、動くものが変形して写るという、少々やっかいな特性を持っている。飛行機のプロペラが宙に浮かんだブーメランみたく写ったり、走る自動車がスピード感を強調したフォルムに変身したりするのがそれだ。

画像2

↑電子シャッターによるローリング歪み。ディズニーアニメ並のスピード感が楽しめる。

 この現象は、「ローリング歪み」「動体歪み」などと呼ばれていて、電子シャッターでは避けるのは難しいらしい。信号の読み出し方を1列ずつの順次ではなく、全部の画素を同じタイミングで読み出せる「グローバルシャッター」機能が使える撮像センサーであれば、このローリング歪みは解消されるのだが、なかなか実用化は遠いようだ。

 うんちくはさておき、この電子シャッターとは違うものだよ、というのをアピールするのに使われるのが、メカシャッターだ。コンパクトカメラのカタログなどに「メカシャッター併用」などと書かれているのがこちらで、電子シャッターのローリング歪みを解消できるなどのメリットがある。

 一眼レフでも、ニコンのD70(2004年3月発売)とその後継モデルのD70S(2005年4月発売)に「CCD電子シャッターと機械式シャッターの併用」という形で搭載されている。この機械式(メカ)シャッターは、撮像センサーに強い光が当たりつづけることによる悪影響を避けるための、ぶっちゃけ、ただの覆いである、というお話を、ニコンの方からうかがっている。

 一方、それとは違うメカシャッターは、フィルムカメラに搭載されている。フィルムカメラの中でも、AFや自動巻き上げ機能を持たない、わりと古典的なカメラ(電池がなくても動くタイプ)のシャッターのことだ。こちらは、ガバナーと呼ばれるメカを使ってシャッタースピードの制御を行なうもので、「機械制御式シャッター」とか「メカシャッター」と呼ばれている。

 手もとにその手のカメラがある方は、シャッタースピードを1秒にセットしてシャッターを切ってみると、かすかにだけれど、ぜんまい動力的な「ちちちちちち」という音が聞こえるはずだ。これがガバナーが作動する音で、電池がないと動かないカメラでは、原則としてこの音は発生しない。

 これに対するのは「電子制御式」で、シャッタースピードの制御を電子的にやる方式をいう。メカニカルなガバナーの代わりに、クオーツ振動子などを使ってシャッタースピードを決める仕組みで、機械式に比べて正確で狂いが生じにくいのが特徴だ。今の一眼レフやミラーレスカメラのたぶん全部が採用している。つまり、デジタルの一眼レフやミラーレスカメラには、機械制御式のメカシャッターを搭載したカメラはない、ということだ。

 ようするに、今の世の中には、デジタルカメラの「メカシャッター」と、フィルムカメラの「メカシャッター」のふたつがあるけれども、機構も動作も機能の面でもまるっきり別物なので、混同しないようにしてくださいね、という話である。フィルムカメラには電子シャッター機能はないし、デジタルカメラには機械制御式シャッターがないので、混乱する心配はない。とはいっても、今でも機械制御式シャッターのフィルムカメラを愛用している方も少なからずいらっしゃるので、ややこしい状況なのは間違いない。


 もうひとつ、これもデジタルカメラにだけ使われる「電子先幕シャッター」というものがある。

 フォーカルプレーンシャッターの先幕を電子シャッターに置きかえたもので、後幕はフォーカルプレーンシャッターのものを使用する。

 通常、一眼レフのライブビュー撮影時や、ミラーレスカメラで被写体を見ているとき、シャッターは開いたままになっていて、シャッターボタンを押すと、まずシャッターを閉じて、それから露光のために開きなおすという動作が必要となる。

 それに対して、電子先幕シャッターでは、シャッターを開いたまま露光を開始できる。いったん閉じてまた開くという動作を省略できるので、その分時間を節約できるし、シャッターの作動によって発生する微細なブレを排除できるメリットがある。

 ただし、シャッタースピードが速いときに、電子先幕の動きと物理的な後幕の動きにわずかなズレが生じたりすると、露出にムラが出ることがある。画面の一部分だけ明るくなったり暗くなったりすることが、たまにだけれど起きてしまう。そのあたりが少しだけ辛気くさいのがマイナス点だ。

 最近では、画素数が増えたことも手伝って、シャッター先幕が動くときのほんのちょっとした振動までもが、画質を落とす原因としてクローズアップされはじめている。ミラーが動くときの振動に比べれば、ごくごく小さなものでしかないが、これによって起きる「機構ブレ」を軽減するのに、電子先幕シャッターがとても効果的なのだ(電子シャッターも役に立つが、電子先幕シャッターにはローリング歪みがないので、動くものを撮るときに有利となる)。おそらく、これからどんどん目に触れる機会が多くなるはずの言葉なので、おぼえておくといいと思う。


 次は、シャッタースピードを変えると、写真のなにが変わるのか、という話をしたい。

 あまり大きな声ではいえないが、シャッタースピードを変えるいちばん大きな理由は、帳尻合わせだといっていい。

 たいていの場合、撮る場所の明るさが決まっていて、絞りの値やISO感度(フィルムなどの光に対する敏感さを数字であらわしたもの)を先に決めて、それから、ほどよい明るさに仕上がるようにシャッタースピードを決める。

 明るい場所ではシャッタースピードを速くするし、絞り込みたければ遅くする。そんなふうに、ほかの要素の変化を吸収するために、つまりところ、帳尻を合わせるためにシャッタースピードを変えることのほうが多いのだ。

 というのは、シャッタースピードを変えても、絞りを変えたときのような写りの差が出ないからだ。

 絞りを変えれば、レンズの解像力がよくなったり悪くなったりするし、被写界深度が深くなったり浅くなったりもする。周辺光量だって違ってくる。

 それに対して、シャッタースピードの速い、遅いでは、そういう違いは生まれない。1/2000秒で撮るのと1/15秒で撮るのとで、写りが変わるわけではない。ということだ。

 が、これは、動かないものを、固定されたカメラで撮る場合にかぎっての話だ。つまり、動くものを撮るとき、あるいはカメラが固定されていないときには、シャッタースピードは写りに影響する場合がある、ということ。

 カメラが固定された状態で、動くものを撮るときを考えてみよう。たとえば、ぜんまい仕掛けのハシビロコウが画面を横切るのにちょうど1秒かかるとする。これを1/8秒で撮ると、シャッターが開いてから閉じるまでのあいだに、ハシビロコウは、画面の8分の1だけ移動することになるから、かなりぼやっとした写りになるはずだ。

 ピントがきちんと合っていたとしても、像は流れて輪郭は溶け、背景と入り交じってしまって、おおまかな形や色がわかるかどうかというレベルになってしまう。

 こんなふうに、露光中(シャッターが開いてから閉じるまでのあいだ)に、撮影対象が移動して、写りがへんてこになってしまう現象を「ブレ」という。この場合、撮影する対象(=被写体)が動くことによって起きたブレなので、「被写体ブレ」という。

画像3

↑1/4秒

画像4

↑1/8秒

画像5

↑1/15秒

画像6

↑1/30秒

画像7

↑1/60秒

↑とまあ、こんなふうに、シャッタースピードによってブレの量は変わってくる。つまり、シャッタースピードを変えることで、ブレの量をコントロールできるというわけだ。

 シャッタースピードが1/8秒のときのハシビロコウの移動量は画面の8分の1だが、1/60秒で撮れば移動量は画面の60分の1となる。画面上のハシビロコウの移動=ブレなので、移動量が小さいことは、ブレの量が小さいということ。つまり、シャッタースピードを速くすれば、ブレを小さくできるわけだ。

 シャッタースピードの1/60秒は、本来は1/64秒と書くべきところをおおざっぱに丸めた数字なので、ハシビロコウの移動量は1/8秒で撮ったときの8分の1。ブレの量も8分の1となる。仕上がりはさっきよりもずっとマシになって、ある程度輪郭もつかめるようになってくる。

 が、画面を拡大して見ると、まだまだブレは小さくない。

 たとえば、2400万画素の一眼レフやミラーレスカメラであれば、画面の横(長いほうの辺)には6000ものピクセル(=画素)が並んでいる。その60分の1なら100ピクセル。つまり、100ピクセル分のブレということになる。現実問題としては、これだけのブレは見逃すことはできない。

 では、どの程度のブレなら許容できるか、というのを考えてみる。A4サイズの用紙にフチなしでプリントする場合、長いほうの辺は約30cm(厳密には297mm)で、そこに6000ピクセル並ぶことになるから、印刷したプリントの上では1ピクセルは0.05mm。100ピクセルのブレだと5mmになるので、「これはちょっとブレてるよねぇ」という話になる。

 シャッタースピードを1/1000秒まで上げられれば、ブレの量は6ピクセルにまで減らすことができる。パソコンの画面上で拡大して見る分にはしっかり判別できるレベルだが、A4フチなしプリントの上では0.3mm。1mmの3分の1ほどのブレにしかならない。

 これぐらいなら、まあ、ブレてない、ということにしてもかまわないんじゃないか。そういう感じになる。つまり、この条件では、1/1000秒かそれより速いシャッタースピードで撮れば、被写体ブレは解消できる、といってよさそうだ。

 もちろんこれは、この条件では、という条件付きでの話であって、たとえば、ハシビロコウがもっと速く動く場合はもっと速いシャッタースピードが必要だし、プリントするサイズがもっと小さいなら、もっと遅いシャッタースピードでもブレは気にならないだろう。

 というふうに、ブレの許容範囲は、いろいろな要素によって左右されるものなので、一概にこうすればOKという解決策はない。が、とりあえず、シャッタースピードを速くするほうが、ブレを抑えやすいことはおぼえておいて欲しい。


 次は被写体ブレとは別のブレについて。

 被写体ブレは露光中に被写体が動いたことによって起きるが、それに対して、露光中にカメラが動いたことによって起きるブレを「カメラブレ」という。おもにカメラを構えている人(撮影者)の手が揺れるなどが原因なので、「手ブレ」ともいう。一方、さっき書いた「機構ブレ」のような、撮影者に責任のないもの、カメラ自体がブレの原因になっているものを「カメラブレ」というふうに区別する場合もある。が、最近は、カメラブレという言葉自体をあまり使わないようになってきているように思う。

 被写体ブレが、動いている部分にだけ起きるのに対して、手ブレはカメラ自体が揺れるのが原因なので、画面のどこにもシャープなところがないことが多い。

 まれに、手ブレが起きているのに被写体がくっきり写ることがあって、それは、カメラの動く方向とスピードが、被写体の動きとぴったりシンクロしたときだ。

 このとき、手ブレによって流れて写る画面の中で、カメラの動きとシンクロした被写体だけは、きれいにとまって写ることになる。これを利用したのが「流し撮り」だ。

 流し撮りは、自動車などのレースの写真を撮るときの基本的なテクニックで、被写体の動きを追いかけるようにカメラを振りながら、わざと遅めのシャッタースピードにして、背景を流すというものだ。

 理屈としてはそれほど難しくはないが、猛烈なスピードで走る自動車やバイクを、大砲みたいな大きさの望遠レンズ(当たり前だが重いうえに高価だ)を振り回さなくてはならないのだから、難易度はそれなりに高い。

画像8

↑部屋の中で撮った流し撮りの例。ちょっとブレてるけど。


 流し撮りは、意図的に手ブレを起こし、しかもそれを画面効果として利用するテクニックなわけだが、普通は手ブレした写真は失敗と見なされる。

 では、この手ブレをどうやって防げばいいかといえば、やっぱりシャッタースピードを速くすること。これに尽きる。シャッタースピードを速くすると、被写体ブレの場合は、画面上での被写体の移動量が小さくなるのでブレも減らせる。手ブレの場合も、同じように、シャッタースピードを速くすることで、カメラの揺れる幅が小さくできるから、その分だけブレの量を小さくできる。

 問題は、どれぐらいのシャッタースピードにすれば手ブレを抑えられるのか、ということなのだけれど、これも実際のところはケースバイケースでしかない。

 2400万画素のカメラでA4フチなしプリントをするなら6ピクセルぐらいは許容できそうだし、もっと小さなL判プリントしかしないよという条件なら、もしかしたら100ピクセルのブレでも僻かもしれない。反対に、仕上げるサイズがもっと大きいなら、許容範囲はうんとせまくなる。畳ぐらいの巨大ポスターとかになれば、1ピクセルのブレだって許すわけにはいかなくなるだろう。というふうに、プリントするサイズ次第でブレの許容量が大きく変わってくるのだ。

 使用するレンズの焦点距離もからんでくる。一応、フィルム時代からの目安として「焦点距離分の1」よりも速いシャッタースピードで撮りましょう、というのはある。

 焦点距離が100mmのレンズであれば、シャッタースピードは1/100秒かそれより速くしておけば、手ブレが起きる危険性はぐっと減らせますよ、ということだ。

 このときの焦点距離は、カメラに取り付けているレンズのそのままの数字ではなくて、35mmフルサイズのカメラの焦点距離に換算した数字を使う。ややこしくなるので細かいことは省くが、いわゆるAPS-Cサイズのカメラであれば、取り付けているレンズの焦点距離の1.5倍(キヤノンのカメラだけは1.6倍)、オリンパスやパナソニックのフォーサーズまたはマイクロフォーサーズのカメラなら焦点距離を2倍した数字を使えばいい。

 たとえば、キヤノンのAPS-Cサイズのカメラに焦点距離50mmのレンズを取り付けているなら「50×1.6=80」なので1/80秒、マイクロフォーサーズのカメラなら「50×2=100」なので1/100秒かそれより速いシャッタースピードで撮ればいいことになる。

 ただし、デジタルの場合は、フィルム時代の常識が通用しない部分もある。パソコンの画面上で大きく拡大してみることができるので、それこそ1ピクセルのブレでさえ判別できてしまう。そういう状況であることを考えると、「焦点距離分の1」では安心はできない。たぶんだけれど、あと2段か3段ほど速いシャッターを切ったほうが安心だろう。

 キヤノンのAPS-Cサイズのカメラに50mmレンズを取り付けている場合なら、1/80秒の2段上の1/320秒ないし3段上の1/640秒を目安にしたほうがいい。ということだ。

 もっとも、これもただの目安にすぎなくて、練習次第ではもっと遅いシャッタースピードでもブレを抑えられるし、最近は、手ブレ補正という強い味方もある。そのあたりも含めたうえで、自分がどれぐらいの手ブレ耐性を持っているのか、一度チェックしておくといいだろう。


 練習を積んで、さらに手ブレ補正付きのカメラやレンズを使うことで、遅いシャッタースピードでも手持ちで撮影できるかもしれない。が、あまりにも遅くなってしまう場合は、おとなしく三脚を使ったほうがいい。

 三脚は、かさばるうえに重たくて、持ち歩いているだけでいやになる呪いのアイテムだが、手ブレを完全に追放できるので、持っておくべきアイテムでもある。

 三脚があれば、夜の街を撮るときに、自動車のヘッドライトやテールライトをかっこよく流したり、川の流れや滝などをファンタスティックに表現することもできる。こういう撮り方をするにはシャッタースピードをうんと遅くする必要があるので、三脚が欠かせないのだ。

画像9

↑これはシャッタースピードをうんと速くした例。1/4000秒で流れる水を止めて撮っている。

画像10

↑シャッタースピードを1/1.2秒にして、流れを表現してみた。

画像11

↑ハイレゾショットという、8回シャッターを切ってそれを合成する機能を使って撮ったもの。シャッタースピードは2.5秒。

 もし、三脚を持っていないのであれば、固くて安定した場所にカメラを置いて撮るという方法がある。ブロック塀の上とか橋の欄干とかカフェのテーブルとかでもかまわない。とにかく、カメラが滑ったり転がったりせずに、ぐらぐら、ふにゃふにゃしない場所なら問題ない。

 カメラの向きは、レンズの下に小石やレンズキャップなんかをはさんで調整する。ある程度、条件的に恵まれる必要はあるが、三脚なしで遅いシャッタースピードを使いたいときには役に立つ知恵だ。

 注意したいのは、指でシャッターボタンを押さないこと。押した勢いでカメラが動いてしまうことがあるのと、ブレの原因になる場合があるからだ。こういうときは、2秒のセルフタイマーを使うか、最近のカメラならWi-Fi機能を使ってスマートフォンからシャッターを切るといい。これは三脚撮影時にも、指でシャッターボタンを押したときの揺れによるブレを防ぐのに効果があるので、ぜひ役立てていただきたい。

 その外、電柱などに寄りかかって撮ったり、かがんで自分のひざにひじを突いて支えるなど、少々涙ぐましい感じの小技もいろいろある。シャッターボタンを押すのだって、指先でぐいっとやるとブレやすいから、指の腹でそうっと圧をかけていくみたいな押し方のほうがブレにくくていい。なんていう先人の知恵も多く残っているので(「焦点距離分の1」みたいな、ちょっと今の時代では通用しなくなりつつあるものもあるが)、興味のある方は調べてみるとおもしろいだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?