4ウェイの接続をXLR化する
■何かと複雑なマルチアンプの接続だが……
2種類が稼働しているわが家のリファレンス・スピーカーだが、プリアンプのアキュフェーズC-2300からXLRプリアウトをパワーアンプの同社P-4100に接続し、SPEAKER Aへバックロードホーン(BH)をつないで鳴らしているのが第1系統となる。
一方、マルチアンプ4ウェイはRCAプリアウトからチャンネルデバイダーへ接続し、そのまま各帯域のアウトもRCAで4台のパワーアンプへ導いてきた。
ちなみに、4ウェイのウーファー部はBHと同じP-4100へつなぎ、RCAとXLRの切り替えで入力側はフルレンジと4ウェイのウーファーへの信号を選択し、SPEAKER Bへウーファーをつなぐことにより、出力側はスピーカー切り替えで両者を使い分けるということをしている。アンプを1台でも少なくするための工夫である。
■"限界"由来ゆえのRCA接続
なぜBHをXLR、4ウェイをRCAで接続していたかというと、これも何度か話題に上っている、わが4ウェイが"限界マルチアンプ"出身だからということと無関係ではない。
"限界"はフォステクスの2ウェイ・チャンデバEN15を2台シリーズ接続して上の3ウェイ分を切り、何度か話した通りミッドバスの低域は逆ホーン型キャビネットでアコースティックに落とし、ウーファーの高域は当初ベリンガーの廉価チャンデバCX2310で落としていた。つまり、EN15とCX2310で2系統のプリアウトが必要だったわけだ。
限界マルチを始めた頃のプリアンプは、アキュフェーズC-2120だったろうか。現用のC-2300でも変わりないが、プリアウトはXLRが1系統、RCAなら2系統がサイマルで動いている。しかも、EN15はもちろん入出力がRCAだ。そこで、XLRしかないCX2310にはRCA→XLR変換ケーブルを宛がってやり、RCAの2系統をフルに使って4ウェイの運用を始めた。
■RCA接続? あぁ何ともったいない
そんな次第で、これまでずっとBHはXLR、4ウェイはRCAで運用してきたのだが、ある時アキュフェーズの重鎮と話していてその話題になり、「あれ炭山さん、RCAでつないでるの。もったいない、うちの製品はXLRの方が持ち味が出ますよ」と示唆をもらった。そういえばそうだった、と私も認識を改めた次第だ。
改めて申し上げると、わが家で使わせてもらっているアキュフェーズのパワーアンプはすべてシングルエンド構成で、BTL使用しているものは1台もない。XLR接続=バランス駆動だから、理想をいえばパワーアンプまでバランス増幅の製品を用いるのが筋というものだが、たとえシングルエンド増幅のアンプでも、アキュフェーズ製品はXLRとの適性が強く意識された製品開発がなされているのだ。
■XLR接続にこだわった贅沢な回路構成
具体的には、同社の「インスツルメンテーション・アンプ」がその代表に当たる。シングルエンド出力のパワーアンプでも、出力段へ至る一歩前まで、すべてバランス伝送/増幅で回路が成り立っているのだ。音楽の"力"や"魂"を失わないバランス増幅の忠実性と、XLRの外来ノイズに対する強さを備えた、コストはかかるが非常に優れた回路構成である。
幸い、プリアウトを2系統使わねばならない事態からはもうとっくに脱却できている。これはもうBHをRCAへスイッチし、XLRからDF-65へ信号を導くしかないではないか。
■XLRケーブルをどうする?
とはいえ、そこには一つ関門がある。何のことはない、わが家にはまとまった数のXLRケーブルがなく、調達せねばならないということだ。アキュフェーズから1セット借りられたのでプリとチャンデバの間に使い、残るパワーアンプ向けの4セットを何とかせねばならない。
そういう時、まぁ安く上げようとするなら自作するのが一番、ということになりそうなものだが、作るより安いケーブルがある。しかも、ごく普通にスタジオやSRの現場でガンガン用いられているものだ。クラシックプロのCXXケーブルである。
クラシックプロの製品は輸入物だから価格はしばしば変動するが、この円安のご時世で、1mなら1本(モノーラル)500円、1.5mでも550円というから、何か間違っているのではないかという価格である。ノイトリックのXLRプラグは、世界が認めたハイクオリティの割に廉価なことで知られるが、それでも1本450円はする。両端にXLRプラグ(さすがにノイトリックではない)がついて、ケーブル部込みのお仕立て上がりでこの値段は、どこを切っても破格としかいいようがない。
それで1mと1.5mのものをステレオセット分で4本ずつ購入、これでたったの4,200円である。しかも、発売元のサウンドハウスからは翌日届いたから、サービスも素晴らしい。
サウンドハウス
https://www.soundhouse.co.jp/
望外に早く品が届いたので、さぁ実験だ。同社ケーブルはステレオ・セット物ではなく1本売りなので、LとRを間違えないようにするため、半分のケーブルには両端に赤のビニールテープを巻いてやる。こうなったら、接続自体に難しいところはない。4ウェイのそれぞれ、つなぐパワーアンプをしっかり確認しながら接続していく。
■マルチ接続のエージングは大変だ
まぁこの手の実験で、最初に出てきた音が良いということは考えられない。特にマルチは大量のケーブルを用いるから、未エージングのケーブルによる悪影響が、普通の装置より遥かに大きくのしかかってくるものである。もうそこはガマンと音を鳴らし続けるしかない。
それでも2時間くらい音楽を鳴らし続けていたら、すこし"アタリ"がつき始めてきた気配がある。ザラザラ、ガサガサしていた音楽を粗い紙やすりで擦り、少しバリを落としたような印象だ。
勢いづいて、どんどん音楽をかけ続ける。こういう時は特定のジャンルではなく、可能な限りいろいろな音楽をかけることにしている。例えばクラシックだけでエージングすると、当該ジャンルは問題なくなっても、いざジャズやポップスをかけたら「あれっ?」ということになるものだからだ。同じ理由で、ピンクノイズやホワイトノイズを使ったエージングも、無意味とはいわないが、それが終わった後にしっかり音楽をかけないと、意外にこなれていない部分が出てくるものである。
どんどん音楽を流していると、加速度的に再生音のクオリティが上がっていく。ほんの少し前までRCA接続で味わっていた猛烈な情報量と典雅な艶、芸術的な残響に満ち溢れた広大な音場とそこへすっくと定位する音像といった要素が、薄紙1枚剥ぐごとに目の前へ屹立していく感じである。
■RCA接続を飛び越えた!?
そしてある程度の時間がたった時、はたと気づく。あれ、RCA接続の時の音を通り越していないか?
実は、RCA接続時のケーブルは何ともトホホな寄せ集めで、セット1~2万円のものから数十万円のものまで、一応適材適所を意識しつつ接続してはいたものの、帯域間でバラつきがあることは否めなかった。
その点からすると、今回の接続は低位安定の誹りを免れぬものの、帯域間のクオリティやトーンは統一されている。こうなってみると、改めてRCA接続では帯域別に方向性が違っていたのだなと気づかざるを得ない。何事も間に合わせはいけないなと、反省しきりである。
とはいうものの、より高度なマルチアンプのマニアなら、帯域別ケーブルへより積極的に別銘柄をセレクトされるかもしれぬ。それぞれを担当するスピーカーユニットは全く別のもので、それらにより高度な統一性を持たせるための、遥かな道のりである。
しかし、幸いなことにわが4ウェイは、ユニット間の音質に強い整合性がある。オール・フォステクスで組んでいることがその理由として最も大きなところであろうが、すべてダイレクトラジエーションであること、そして分割振動域をできるだけ排除していること、これらがその要因と考えられる。
■また新たな橋頭堡を獲得した!
しかし、間に合わせのつもりで導入したクラシックプロのケーブルは、事前の想定を遥かに超えるレベルのクオリティを聴かせてくれている。世界中へ向け、天文学的な数を量産している同ブランドだからこそ生み出し得た、超絶コストパフォーマンスなのであろう。
もちろん、この音質が提示されたことには、前述のインスツルメンテーション・アンプ構成が大きな役割を果たしている、ということに異論の余地はない。わが家はそう外来ノイズの酷い環境ではないが、それでも適切なXLR接続はRCAを遥かに凌駕する。このことが実験で立証できただけでも、今回のXLR接続化は価値があった。
クラシックプロのケーブルには申し訳ないが、もちろんここは第一歩、マルチの遥かな道のりへ、また一つ橋頭堡を築いたに過ぎない。より上級の、しかもクオリティのそろったケーブルへの変更をはじめ、まだまだやりたいことはいろいろある。趣味としてのマルチアンプは、本当に一生付き合えるものだなと、深く認識するものだ。