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着実な進歩を聴かせるA級の雄
■信頼すべき"相棒"A-48に後継機種が!
アキュフェーズのステレオA級パワーアンプA-48は、音元出版の試聴室でずいぶんレファレンスとして使用させてもらったし、わが家にもマルチアンプのミッドハイ用としてしばらくの間、逗留してもらったことがある。45W+45W(8Ω)の小出力とは俄かに信じ難い確固たるスピーカー駆動能力と、音場に濃厚な艶が表現されつつも見晴らし良くスッキリ抜けるサウンド傾向の素晴らしいアンプという印象を持っている。
実際、わが家のミッドハイ駆動アンプがA-48からA-35に変わった時、遊びにきてくれた年若い友人が「ずいぶん変わりましたね」と、いささか不満気に申し立ててきた。私はA-35の美的でありながら超ハイスピードな展開も大いに好むところなのだが、彼はA-48の濃厚な艶やかさ、泰西名画的な芸術性を好んでいたのだな、と納得がいった。全体の僅か2オクターブを担当するに過ぎないミッドハイのパワーアンプにして、ここまで大きく変わるということは、私自身も実験して初めて痛感した項目だけに、友の気持ちもよく理解できる。
■地味ながら着実に進化を遂げた後継機
そのA-48が、A-48Sへとモデルチェンジを遂げた。数値的な最大の違いは定格出力で、電源部の容量を上げることなどにより、A-48と同じMOS-FET素子の6パラプッシュプル出力段から、50W+50W(8Ω)の出力を発揮する。もちろん前作同様に低インピーダンス下では出力がリニアに向上し、4Ωでは100W+100W、2Ωで200W+200W、何と1Ωでも400W+400W(音楽信号のみ)という出力が得られている。とてつもないリニアリティである。
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A-48S ¥880,000
●定格出力:50W+50W(8Ω)、100W+100W(4Ω)、200W+200W(2Ω)、
400W+400W(1Ω、音楽信号のみ)
●入力感度/インピーダンス:0.8V/20kΩ(アンバランス)、
1.59V/40kΩ(バランス)
●S/N比:118dB ●全高調波歪率:0.03% ●ダンピングファクター:1,000
●消費電力:435W ●外形寸法:465W×211H×464Dmm ●重量:34.8kg
こんな低インピーダンス時のデータが必要なのかと疑問にお思いの読者もおられようが、スピーカーのインピーダンスはかける音楽の状態によって結構変動するもので、公称8Ωの某高級スピーカーは実使用時に一部の帯域で2Ωを切る、というような実測データが示されたこともある。そういう厳しい駆動条件でも音を上げない、芯の強いアンプというものを成立させるには、こういう開発の方向が必須となってくるのだ。
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6パラプッシュプルのMOS-FETという構成は変わりないが、
前作比で定格出力が増大している。
もう一つ、データ的に違いを見せるのはダンピングファクターである。前作が800のところ、A-48Sは1,000の大台に乗った。ダンピングファクターというのは、スピーカーのインピーダンスをアンプ出力の抵抗値で割ったもので、昔は「10を超えたら上出来。あとはそれほど変わらない」などといわれたものだが、刻々と変動するダイナミックなスピーカーの特性(主にインピーダンス)へ悪影響を受けず、実力を存分に発揮させてやろうとするならば、アンプ出力の抵抗値は低ければ低いほどよい、といって差し支えない。アキュフェーズの文字通り「乾いたタオルを絞る」ようなダンピングファクター向上の努力は、まことに尊いものだと思うのだ。
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この几帳面な基板配置は、さすがアキュフェーズと思わせる。
ほか、シングルエンド増幅でも出力段の前段までバランス伝送/増幅回路を持つインスツルメンテーション・アンプ構成、ドライバー段に複数の回路を並列させることで余裕を増し、特性を平滑化させるMCS+回路、独自のカレント・フィードバック回路の元信号を出力至近のみならずGNDラインからも採取するバランスド・リモート・センシング機構、これらのフィーチャーは前作から引き継がれている。
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「カレントフィードバック」回路構成へ、さらに帰還信号の採取ポイントを工夫した、
バランスド・リモート・センシング機構。
■一聴して分かる音の違い
アキュフェーズ本社の新試聴室で音を聴いた。まず旧作A-48から改めて聴いたが、クラシックはさすがの立体感で、微小域の粒立ち、情報量が凡百の追随を許さない。音場は遥かな広大さを聴かせ、匂い立つような空気感のかぐわしさが堪らない。ジャズは音像の生々しさ、ライブ感が脳天を打つ。音楽が楽々とスピーカーから飛び出し、まるで映像を伴って眼前へ迫るかのような迫真ぶりを聴かせるのだ。
A-48Sにつなぎ替えてもらい、改めてじっくりと音楽を聴く。型番からしてマイナーチェンジ・モデルという印象が拭えないが、音は一聴して違いが分かる。クラシックは前作比さらに厚みが出たが、それに伴って重みが増さないのが素晴らしい。オケは豪華絢爛に音場やや後ろへガッチリと定位し、抜けが良く身を翻すように軽やかで瑞々しい質感の声が、耳へ何の抵抗もなく飛び込んでくるのが実に快い。非常によく通る声というイメージである。音場はさらに深く、濃厚な艶が再現されるも見晴らしの良さは全く損なわれない。
ジャズは音像の実体感が大幅に向上し、ボリューム位置は動かしていないのに、まるで音量が上がったかのようなパワーと音離れの良さを聴かせる。立ち上がり/立ち下がりが向上し、それがこの音離れにつながっているのであろう。推測だが、ダンピングファクターの向上が効いているのではないか。もう音楽が楽しくて仕方ない、そんな表現に、技術陣と広報担当者を置き去りにして、ずいぶん長く楽しんでしまった。
■このご時世に"小幅アップ"も嬉しい
A-48Sは前作比で価格アップも僅かだし、このご時世でかなりアキュフェーズとしても頑張った設定ではないかと思う。A級の旨味を濃厚に感じさせながら難物スピーカーも楽々と駆動する、傑作の誕生を喜びたい。幅広いオーディオマニア、音楽ファンに体験してほしい音の魅力を有するアンプである。