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武骨な外観に骨太のサウンド

 フォステクスから、久しぶりに完成品スピーカーシステムが発売になった。といっても業務用のモニター・スピーカーで、16cm2ウェイという現在の標準からするとかなり大ぶりのブックシェルフ型である。

フォステクス◎スピーカーシステム
NF06 オープン価格

■ハイテク振動板を採用したユニット

 このNF06、ウーファーは、ベースとなる層に木材パルプと非木材パルプを最適な比率で組み合わせた素材を用い、その上にカーボンファイバーやPBO(ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール)繊維、木材パルプの内部に多孔質の岩石に近い結晶を生成させたハイテク繊維のセルガイヤパルプなど、高機能材をハイブリッドした素材を採用、それを同社独創となるねじれた星形のHR(HYPERBOLIC PARABOLOIDAL ROTATION)構造に抄き上げたものである。エッジも同社が長く使い続けるUDRタンジェンシャル構造で、初動感度が高く、大きなストロークをリニアにこなす。

 トゥイーターはチタン振動板のドーム型で、口径は2.5cmとごく一般的だ。同社のNHKモニターRS-N2の純マグネシウム・ドーム型トゥイーターにも用いられているフェイズプラグが、本機にも取り付けられているのが目を惹く。


NF06の周波数特性とインピーダンス特性。
低域は50Hzくらいできれいな肩特性を作り、高域は50kHzまで伸びる。
結構ギザギザに見えるが、これはフォステクスがあまり特性を丸めず、
かなり正直に出しているせいだ。
15kHz近辺の軽いピークが、チタン振動板的な音に聴こえたのかと推測する。

 クロスオーバー周波数は1.6kHzでスロープ特性は-12dB/octと、この辺を詳細に書いてくれるのはフォステクスらしい。再生周波数帯域は40Hz~35kHzとワイドで、出力音圧レベルは84.5dB/W/mと少々低めだが、これもご時世か。

普通のエンジニアではちょっと考えつかない、
奇策ともいうべきバスレフダクトの配置。
リアダクト並みにキャビネット内部の音の放射を抑えつつ、
フロントダクトに準ずるくらい放射効率も高めることを狙ったものか。

■リニアフェイズとバスレフダクトの結婚!?

 再生ユニットの時間軸をそろえるためのリニアフェイズ配置を実現するためであろう、本機はトゥイーターが薄いすり鉢状になっており、一方ウーファーは一歩前へ出るようバッフルが段付きになっている。面白いのは、それで出っ張ったウーファー部の下側へ、スリットタイプのバスレフダクトが仕込まれていることだ。ウーファーへあまり近くダクトを配した設計は、下手を打つと空振りが増えて低域の放射効率が下がることになりかねないのだが、そこは天下のフォステクスだ。一聴して低域はとても効率良く放射されていることが分かる。

■アンプの出力はある程度必要

 試聴は自宅リスニングルームで行った。まずはサブリファレンスのPWMアンプへつなぎ、肩慣らしにレンジの広いフュージョンのソフトをかけていた時は別段何ということもなく鳴らせていたが、いざ本番とクラシックをかけたら、途端に音が頭打ちになってしまう。これは明らかにアンプの出力不足だ。それで、メインリファレンスのアキュフェーズP-4100へつなぎ直し、改めて音を出したら、よかった、ちゃんとした音が流れてくる。

■モニターライクだが音楽を楽しませる地力も

 気を取り直ししじっくり試聴にかかったが、クラシックは普通の、というか民生用のスピーカーに比べて強弱の差がよりクッキリ表現されるようになった印象がある。いろいろなソロ楽器の定位、具体的には左右だけでなく奥行き方向の立ち位置などを克明に表現するのは、さすがモニターSPだなと納得する。

 その一方で、RS-N2で聴かれるメートル原器を思わせるような厳格さ、音楽を楽しませることを一切考えず、ソースに入った音のみを細大漏らさず吐き出し、提示してみせるという、言葉本来の意味でモニター的な表現に比べると、本機はまだ音楽の艶やかさ、彩り、楽しさを味わうことができる。聴感上のレンジ感も十分以上に広く、このスピーカーで表現できない音楽は、一部の意地悪な現代音楽や、大オルガンなどに限られるのではないか。

 ジャズはピアノがスムーズでよく通り、ウッドベースは僅かに膨らむが、それが楽器の巨大さを上手く表現している感もある。ドラムスはセットの配置がよく分かるところがモニターライクだ。シンバルが若干キツめに響くのはチタン振動板ゆえかと思うが、これは鳴らしているうちにどんどん軽減していくことだろう。

 ポップスはボーカルにかけられたエフェクトが分かってしまいそうなアキュラシーが素晴らしい。クロスオーバー1.6kHzというと耳が敏感な帯域の真ん中で、こういう場合、僅かでも設計を手抜きしたスピーカーは、特に敏感な井筒香奈江など、声へ歪みを乗せてしまうものだが、本機は全くそんなことがない。リニアフェイズ配置はクロスがつながりやすいことに加え、そこは技術集団のフォステクスだ。ネットワーク素子や回路にも手抜かりのあろうはずがない。

■貴重なMade in Japanを大切にしよう

 総じてこのNF06、黒ずくめのキャビネットと曖昧な黄色のウーファーという外観さえあなたにとってマイナスポイントにならないようなら、結構な解像度と音楽再現能力を持つだけに、また1本30万円クラスでMade in Japanというのは、今時貴重になってしまったことでもあり、購入候補へ入れられてもよいのではないかと思う。

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