これが3万円のアクティブSPか!
及ばずながら、音楽之友社ベストバイNEWの選考員を拝命している。といいつつ、担当ジャンル製品はあまりたくさんの数が聴けていないものだから、締め切り仕事が一段落して、泥縄の試聴をいくつかこなしている。そんな中から、ここではまとめて借り出したオーディオテクニカ製品から、いくつか取り上げていきたいと思う。
■高級アクティブSPの隆盛にあって
今年は、というかここ数年にわたってアクティブスピーカーは割合と豊作で、特に上級モデルの充実が目覚ましく、しっかりしたプリアンプと組み合わせて、かなりのハイグレード・システムの構築が可能な製品が多数を占めている。
そんな中にあって、セット3万円弱で買えるAT-SP3Xは、まぁオモチャみたいな存在感という外なかろう。全身黒の樹脂製キャビネット(そう見えて、実はMDFが強度部材なのだそうだが)に、7.6cmコンケーブ型ウーファーと2.7cmソフトドーム・トゥイーターがマウントされ、ユニットは至近距離でまじまじ眺めても、かなりしっかりしたものが採用されているようである。少なくとも、一昔前までの樹脂製アクティブSPに見受けられるやっつけ仕事ぶりは、この製品には見当たらない。
本機はBluetoothとアナログLINE接続で音が聴けるが、私はBluetoothを使っていないので、LINE接続で音を聴いた。仕事用のノートパソコンの両脇に据え、PCのアナログアウトではあんまりなので、古い製品だがDAC内蔵ミニヘッドホンアンプAT-HA40USBをつなぎ、背面のLINE OUT(ステレオミニ端子)から変換プラグを使い、AT-SP3XのRch背面へ装着されたRCA端子へ音楽信号を導く。
PCはガラステーブルに置いて仕事しており、AT-SP3Xはゴム脚もあらかじめ装着されているので、そのまま置いても共振に悩まされることはないが、高さがあんまりにも足りないものだから、前に1個だけ山本音響工芸のグレナディラ製スパイクを挟み、仰角をつけている。仰角の有無でも聴き比べたが、当然ながら圧倒的につけてやった方が音が整い、抜けも向上する。
片chにパワーアンプを仕込み、もう片側にSPケーブルで給電するというのはアクティブスピーカーあるあるだが、本機もその方式が採用され、左右接続用のケーブルも付属している。それがいかにも華奢で少々頼りないケーブルなものだから、もう少しいいものに交換してやりたかったが、残念ながら本機に装着されたスプリング型の端子でつながる太さで、高品位なケーブルが手持ちになく、純正のまま聴いている。そうだな、JFサウンドのMS205Cあたりなら、好適じゃないだろうか。
簡単にセッティングを終え、音を出してみる。音源はPC内のハイレゾ音源で、メディアプレーヤーはfoobar2000、ドライバはexclusiveモードを用い、USB出力にはパイオニアのドレッシングAPS-DR000Tを挿入してある。端子スルータイプでムックの付録になった個体である。USBケーブルは秋葉原・千石電商のワゴンで買った名も知れぬ50cm長のものを用い、AT-HA40USBの入力はUSBミニだが、レギュラーA→ミニ端子のケーブルを用いずレギュラーBへの変換プラグを使って接続している。こうしないと、なぜかまともな音がしないのだ。
■「それは仕様です」でも致し方なしか……
口径8cm弱のウーファーを2.5リットルくらいのバスレフへ収め、公称55Hzまでの低域を再現するというのだから、振動板はかなり重いものと推測されるし、カタログの文言に一切の記載がないということはバイアンプのようなコストのかかる方式ではなく、シングルアンプ+簡単なものでもクロスオーバー・ネットワーク素子が挿入されているものと推測される。ということはつまり、低域はある程度ロースピードでも致し方ないということだ。
まぁ文句言ったらバチの当たる価格帯だしな、とそう大きな期待を持たずにクラシックから聴き始めたのだが、最初のうちはまぁ想像通りで、まことにゆっくり、ゆったりとした低音と、割合としっかり鳴る中~高域のタイミングに少々違和感が残る。しかしどうだろう、鳴らしているうちに低域がみるみるほぐれ、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」1作聴き終える頃には、少なくともクラシックはほぼ違和感のないレベルに落ち着くではないか。ホールの音場をよく表現し、オケの編成も結構いいところまで描き出す、このクラスとしては少々驚くような表現である。
もっとも、これには勘案すべき事案もある。何といってもスピーカーから50cmくらいのごくごくニアフィールドで聴くわけだから、音の鮮度が高く、ユニットから放出された情報がかなりの割合で直接音として耳へ届くのだ。部屋の響きを濃厚にまとった一般的なセッティングより、音の鮮度や解像度が高く感ずるのも、ある意味当然なのである。
■ニアフィールドに堪えるS/Nと歪感
しかしその半面、ニアフィールド・リスニングは残留ノイズや歪みもダイレクトに耳へ飛び込んでくるが、その点でこのスピーカーは合格点をつけられる。残留ノイズはほとんど聴こえず、歪みは30W+30Wの余裕あるパワーアンプのせいもあろう、ほとんど感ずることがない。大変真面目に作られたスピーカーシステムということができるだろう。
ジャズやポップスでは、さすがにオンマイクのバスドラムなどで振動板の重さを感じざるを得ないが、しかしそれだけ低域もしっかり伸びており、ドラムスも太くどっしりしているし、エレキベースのかなり低いところまでしっかり音として再現している。
ボーカルは余分な重みがなく、結構な抑揚を表現、クラスを考えたら大したものである。ポップス系で人工的に構築された音場も、かなりしっかり解きほぐしてスピーカーの外側まで展開させることができている。
■中高域の引っ込み思案も"仕様"かどうか……
中高域にほんの僅か、解像度が足りなくなるというか、引っ込みがちの帯域があるのだが、これは2ウェイの限界か、あるいはわざとその帯域を下げてあるのかを判別するのが難しい。解像度や表現力に自信のある高級スピーカーにその心配はないが、廉価なスピーカーユニットは数kHzの帯域が若干耳に障ることがあり、意図的にその辺を下げた周波数特性のスピーカーは決して珍しくないのである。
もっとも、これまで苦言を呈した低域のスピード感にせよ中高域の引っ込み思案にせよ、鳴らし込むうちに解決してしまう可能性も決して少なくない。試聴冒頭に記した通り、当初のかなり違和感のあるロースピードからは、かなり早い段階で脱却できているのだし、わが長年のリファレンス4ウェイ・マルチアンプ・スピーカー「ホーム・タワー」の20cmユニット×2ダブルバスレフのウーファー部は、今でこそミッドバス以上とほぼ違和感のない鳴りっぷりを聴かせているが、そうなるまで何年もかかったものだ。AT-SP3Xのウーファーも、伸びしろはまだまだあると考えるべきであろう。
■フルレンジ好きテスターの戯言という可能性も
それに、こういう評価を下している私自身が、絶対リファレンスに20cmフルレンジ・バックロードホーン・スピーカーなど使っている身だ。"普通の"ウーファーとクロスオーバー・ネットワークを用いたスピーカーが遅く感じられているのは、私自身の特殊事情なのかもしれないな、などとも考える次第だ。
せっかくPCにつないでいるのだから、本来の用途というか、日常的な使用としてYouTubeを流してみたが、YouTuberの語りやBGMなど鳴らすことに不満のあろうはずがない。改めて器の大きさを認識することができた。
■応用と発展へのヒントを
今回はここで試聴を終えることとするが、もし本機を自宅で愛用するとするならば、いろいろとやってみたいことがある。
まずは、しっかりとしたスタンドを作り、耳の高さへ近いところまで持ち上げてやりたい。もっとも、それをやるとPCよりずっと背が高くなるから、少々威圧感というか、圧迫感が出てしまうかもしれないが、音質的にはずっとクリアになるはずだ。
もう一つ考えつくのは、脚の変更だ。試聴機には付属のゴム脚が既に装着された状態だったが、それをオーディオ用のものにすると、かなり質感も変わるのではないかと思うのだ。そうだな、小ぶりのスパイクで3点支持にしてやると、このやや重めな低域がよく飛ぶようになるのではないだろうか。
あとは前述した通り、LchのSPをつなぐためのケーブルを、もっといいものにしてやりたい。また、ティグロンのチューニングベルトを採用すると、また劇的に音質向上することは保証しよう。
以上のような対策で生まれ変わったような表現を得るだろう。しかし、わが家ではこれ以上スピーカーを増やすのはためらわれるし、どなたか実験して下さらないだろうか。