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システム更新後に音はどう変わった?

■「良くなって当たり前」の2024年

 2024年は、わがマルチアンプ4ウェイ「ホーム・タワー」にとって猛烈な飛躍の年だった。それはそうだろう。1万円チャンネルデバイダー2台とムック本の付録バス・チャンデバによってクロスオーバーを構成し、ミッドハイとトゥイーターをこちらも1万円台のミニPWMアンプで鳴らしていたところへ、突然アキュフェーズのデジタル・チャンデバとパワーアンプ2台が実装されたのだ。そんなもの、何百倍良くなっても別段驚くようなことではないし、私の手柄でもない。

 しかし、そんな劇的進化の中にあって、当初わが家へもたらされたDF-75を中心とした陣容と、それらが返却された後に改めて整ったDF-65を中心としたセットでは、音が違った。それはそうだろう。返却した3台と新たに借りられた3台は、どれも別の製品なのだから。

■チャンデバよりもアンプの音質差か

 それでは、DF-75と65の音が大きく違うのかといえば、今聴こえている音質の違いからすると、それほど大きなものではなかろうと考える。やはりパワーアンプの方が、大きな音の違いをもたらすのではないか。

 当初の組み合わせに用いられたパワーアンプは、ウーファーがP-4100、ミッドバスがP-4600、ミッドハイがA-48、トゥイーターがA-35だった。一方、改めて整った装置はウーファーとトゥイーターこそ同じアンプだが、ミッドバスはP-4500、ミッドハイはトゥイーターと同じA-35となっている。

■実は大幅モデルチェンジだったP-4600

 P-4500と4600は、型番といい顔つきといい単なるマイナーチェンジ・モデルとみられがちなのだが、実際のP-4600は完全な新規開発モデルである。シリーズで長く採用されていた4パラプッシュプル出力段を改め、6パラプッシュプルへと大規模化されているのだ。おかげで定格出力は4500の90W+90Wから、150W+150W(8Ω)に大出力化された。


同社カタログより抽出させてもらったP-4500の終段周辺。
一番大きなトランジスターが出力素子だが、
片chあたり8個ついていることが分かるだろう。

 実際に音を聴き比べてもその余裕の差は明らかで、P-4600の音楽が濃厚かつ有機的に展開することといったら、P-4500の比ではない。いや、4500も素晴らしいパワーアンプなのだが、聴き比べてしまうと器の大きさが圧倒的に耳へ入ってこざるを得ないのだ。

一方こちらがP-4600の出力段周辺。
出力素子が12個に増えていることが分かる。
単純に素子を増やせばいいというわけではなく、
それを存分にドライブするため全体を強化しなければならない。

■格は違うが音質傾向も違う2台

 一方のA-48とA-35だが、これは面白い比較を聴き取ることができた。A-48の頃は中高域へ圧倒的に濃密な艶と雰囲気感が乗り、それが再生音全体の品位を大いに高めているきらいがあった。A-35は比較してしまうとその典雅な艶がいささか薄くなり、確かにむせ返るような雰囲気感に関しては一歩後退といわざるを得ないが、その分だけスパッと切れ味良くハイスピードな再生音をもたらしてくれる。

こちらはA-48の出力段周辺。
P-4600と同じく出力素子が12個見えるが、
AB級のP-4600は150W+150W、
A級のA-48は45W+45W(ともに8Ω)となる。

 こういう比較を聴いてしまうと、ハイエンド・ユーザーの皆様にはA-48とその後継たるA-48Sが、より好みに合うとおっしゃる人が多いのであろうと推測するものだ。A-48Sの方が、旧作よりさらにその傾向は亢進しているような印象がある。


そしてこちらがA-35の出力段周辺。
出力素子は6つと少なく、出力も30W+30W(8Ω)だ。

 しかし、私のような"変態ソフト"愛好者にとって、全体の品位を下げることなくこの反応の良さをもたらしてくれるA-35は、とても好ましい音質の持ち主ということができる。小出力でそれだけシンプルな素子/回路構成と、限られた物量を有効に使った良さが、その音質に表れているものと推測する。ミッドハイとトゥイーターをともに本機でドライブできていることが、今の「ホーム・タワー」へどれほど大きく貢献しているか、日々強く実感しながら音楽を聴いている。

■これも膨大なパラメーターの一つに過ぎない

 思えば、これこそがマルチアンプの大いなる楽しみの一つなのである。それぞれの帯域にどんなユニットを配し、どんなアンプで駆動するか。それらが有機的に絡み合うことによって、マルチアンプ・システムのサウンドはいかようにも変わり得る。恐ろしくパラメーターの多い、それだけに一生かかっても終着点へたどり着くことのない、息の長い趣味といって間違いないだろう。

■DF-65のチューニングに関する短信

 これまで「ホーム・タワー」はリニアフェイズ配置としているため、デジタルチャンデバならではのタイムディレイ機能を全然使っていなかった。しかし、先日の「変態ソフト」取材で高崎さんが持参なさったソフトがあまりにも声の帯域、具体的にはサ行が不自然で、一方「ハシビロコウ」でかけると極めて自然にスッキリと抜ける。

 これはひょっとしてタイムアラインメントがおかしいのかと考え、よくよく確かめてみると、ミッドハイのドーム型ユニットFT48Dはかなり分厚いフレームからやや引っ込んでボイスコイルが配され、それに対してトゥイーターのFT7RPは、薄いフレームからさらに奥まって平面振動板が位置する。

 ほぼ同一平面上だと思って、安定を良くするためにあえて1枚のバッフルへ取り付けた2本のユニットだが、それが仇を為しているとするならば、タイムアラインメント機能で補正してやるしかない。しかし、この機能は5mmが最小単位なので、とりあえず5mmミッドハイを後ろへ下げてみたら、うむ、たったこれだけでもサ行が随分耳へつきにくくなったぞ。まだ「ハシビロコウ」にはかなわないが、どんどん煮詰めていけば、これからまだ向上していく目は大いにある。


ミッドバスを0.5cm奥へ引っ込めたのと同等の動作となった。

 本当にマルチアンプには洋々たる前途しかない。見方を変えれば終着点は遠いということだが、故・長岡鉄男氏も「過程を楽しむことを"趣味"という」とおっしゃっているではないか。残りの人生、大いに過程を楽しんでいきたいと考えている。

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