金曜日のショートショート05

金曜日のショートショート
第5回お題【キャンセル】

タイトル「キャンセルのキャンセルはできません」


俺が昼寝をしていると、ベッドの上に置いてあったスマホが短く震えた。
【お前、今日の三時に空港集合って忘れてないよな?】
表示されたのは友人からのメッセージ。それを見た俺は寝ぼけた頭で考える。
今日出発の予定だったっけ。予約をしたのは一ヶ月も前のことだからすっかり忘れていた。
【悪い。キャンセル】
あくびをしながら短い返事を送ると、すぐにピコンと吹き出しが出た。
【チケットとるのに俺がどれだけ苦労したと思ってんだよ。お前そうやって、なんでもすぐにキャンセルするよな】
友人からのメッセージを見てうんざりする。
「説教かよ、めんどくさ」
まぁたしかに、めんどくさがりの俺は予定を当日にキャンセルすることが多い。
キャンセルしたくてしてるわけじゃないし、最初はちゃんと行くつもりだったんだ。
しかし気分が乗らないんだから仕方ない。そういう性格だとあきらめてほしい。
【そうやってキャンセルばっかしてたら、痛い目を見るぞ】
友人の説教はさらに続く。
「痛い目なんて見るはずないじゃん」
キャンセルされた方は迷惑だろうけど、こっちは痛くも痒くもない。キャンセル料を払えばすむことだ。
俺はそう呟きながら、友人の説教を鼻で笑いとばす。
そしてスマホ内のAIアシスタントを呼び出し、乗る予定だった便をキャンセルさせた。
「あーあ。せっかく気持ちよく昼寝してたのに、目が覚めたじゃねぇか」
愚痴をもらしながら体を起こしテレビをつける。そこには大勢の人で溢れた空港が映っていた。
「え、なにこれ」
異常な状況に、思わず俺は目をみはる。
『隕石の衝突まで二十四時間を切りました。空港は地球を脱出するため多くの人が押し寄せています。チケットのキャンセル待ちで長蛇の列ができており……』
レポーターの言葉を聞いて、寝ぼけていた頭が一気に覚める。
そうだ。一ヶ月前に地球に隕石が衝突すると発表され、地球を脱出するために友人のコネを使ってチケットを取ったんだ。その出発が今日だった。
「まじかよ!」
俺はあわててスマホを掴み、AIアシスタントに呼びかける。
「さっきのキャンセル、やっぱりなしで!」
けれどAIアシスタントは無機質な声で答えた。
『申し訳ありません、マスター。キャンセルのキャンセルはできません』


【企画概要】
『金曜日のショートショート』は、お題に沿って少し不思議な短編、いわゆるショートショートを書く企画です。
報告不要で誰でもご自由に参加いただける企画となっております。(もしよければタグをご活用ください)
また、金曜日に間に合わなくてもOKなゆるゆるの企画です。過去分の参加もご自由に。
*次回(7/3公開予定)の第6回のテーマは『きらいなもの』です。

【テーマ一覧】
01 金曜日(5/1公開)
02 レモン(5/8公開)
03 蟹(5/22公開)
04 はじめての(6/5公開)
05 キャンセル(6/19公開)
06 きらいなもの(7/3公開予定)


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