勉氏への書簡0

検索して調べると、もう21年前も話の話になってしまうようです。

21年前、京急本線の電車に揺られていました。
その頃は父が癌で入院していた頃なんで、京急のどこかの駅から下りの電車に乗って病院へ見舞いに行く途中だったのだと思います。午後の2時前ぐらいだったと記憶しているんですが、電車に乗って長いベンチ椅子の端に座ったんです。真ん前のベンチの端にずんぐりした若い男が座っていて、すぐ斜め前のドア前に女子高生2人組が立って吊革に掴まって談笑していました。雨が降っていたんで、皆傘を持っていました。

その若い男は野球帽をかぶっていて大股開きで前かがみになり、傘をシートに立てかけて座っているんですが、体から一両車内全体に異様な空気感を発散させているんです。匂いを鼻で感じるのではなく、皮膚でもなく、表現できない脳のどこかで感じるもの、北斗の拳でキャラの周りに湯気みたいな闘気が描かれたりしますが、丁度それの見えないバージョンを体から放っているのです。ものすごくピリピリとした緊迫感が空気を張りつめさせていました。

前に座っている私とは、なんか水と油みたいな相容れないものを持っているのがお互いに分かるんです。私も身の毛もよだつような殺気を感じているが彼も私の正義のフォースを感じていたたまれなくなっているんです。 で、彼と私の間の空間で凄まじいせめぎ合いが勃発していました。少年漫画とかだと私の背景には正義の白鳳、彼の背後には暗黒の鬼かなんかのスタンドが描かれていそうな感じです。ものすごい攻撃的なものを感じるんで、襲い掛かってきたら剣道、英検、ヨーヨー空手、珠算合わせて4段の技でもって傷害罪に発展し無さそうな急所を突いて、さらに同じら辺を思いっきり殴って対抗するしかないなと身構えていました。裕子女史等が掴んでいる情報の通り、私は見かけと反して悪逆に対して対抗した事が多々あり、戦う決意を固めていました。その緊迫の闘気を私だけが感じているのかと言えば、そうではなく車内の全員が感じているのが不思議と分かりました。

しばらくして車両の揺れで男の傘が倒れてしまったんです。女子高生たちの前に倒れた形になりましたが、男が自分で拾うのが当然と思える位置でもありました。 男は女子高生たちに「取れ」とだけ厳しい感じで言い、女子高生たちは、怯えた表情で傘を拾うと男に危険な猛獣に餌をやるような感じでおっかなびっくり手早く渡し、「なんなの~」とつぶやくと少し遠ざかって黙ってしまいました。それで私の感じているこの嫌な闘気を彼女たちも感じている事が分かったんです。

傘をシート脇のパイプに引っかけてふんぞり返ると再び前に座っている私へ向けて、物凄い気を放ち始めました。ガンダムでアムロの額の所にピリリンとひらめいた!というような星みたいなきらめきが起きて、そこだ!とエルメスから出るビットという小さいキノコをレーザーで打ち倒すシーンを見た事あるでしょうか? あんな感じのひらめきが起きてある事に気づいたんです。 2週前に、世田谷で一家全員を殺害した事件があったな、目の前に座っているこいつが犯人だなと頭に考えが浮かんだんです。 おそらく車内にいた乗客の何人かは同じ事を思い浮かべたのではないかと想像しています。

なおさら殺し合いの戦いに発展するであろうことを思い、逃げてすぐ席を移るのは、害基地相手に危険かもしれんし、次の駅でその駅で降りるつもりだった体を偽装して降りるかなと思案しました。

次の駅、黄金町駅に着いてドアが開くと男はスックと立ち上がり素早く降りてゆきました。 私は安堵仕切る事が出来ずに緊迫した気持ちを残して想いました。あんな凶悪な気配を持つ奴、見たことないよ。何人か人を殺しているはずだ。あいつが世田谷事件の犯人だろ。

H市の店を始めてから、なんかのきっかけで靖国神社へ8月15日の終戦記念日に2回連続で参拝しました。 まあ参拝ではなく、記念日はお祭り騒ぎなんで物見遊山の観光でしたね。 横浜からなんで、電車で行くんですが、お盆で人が少なく中央線に乗り換えると乗っている人は大体それっぽい格好の靖国参拝者なんです。 駅から歩く人もほぼ神社に向かう人ばかり、そのくらい人が集まってくるんです。 

私は、朝が苦手な男なんで横浜を出るのが午後一時前、靖国神社に就くのは2時半みたいな感じで、大体、主だったイベントは終わって、多くの人が帰り支度を始めているような時間に現場に到着していました。

一回目に行った時は若干早めに着いていました。 前述したネット上で組織された愛国集団が活動を開始し始めた頃の事で、全国からネット活動家たちが靖国神社に集結してきていたんです。 その前までを見ていないので何とも言えないんですが、天皇制に反対する団体が神社真横の靖国通りを通過するんで、(今は許可ださないのでは)愛国勢と衝突しないように長い鉄柵が構築されていたりして、不穏で異様な盛り上がりと熱気が充満していました。靖国通りから境内に入るには真ん中辺と大鳥居のある正面の通路からしか道が無いんで、歩道は数珠繋ぎの大渋滞。 熱いのとメガホンで各各勢力が何かを叫んでいるのがうるさくてか、めまいを起こした老人がストンと列から消えて前方で倒れたりしてるんです。

歩道に立ち止まっている一群がいて頭の間から覗きみると鳥〇実という、彼は芸人でいいのかな? ナックルズ系雑誌でよく見ていた似非右翼を演じる芸で有名な人が、街宣車風に塗装した軽自動車を鉄柵に横づけしていて、一演説、一芸披露した直後らしく、服装からしてネット愛国者とすぐわかる釣り堤防に見学にだけ来るおっさんみたいな恰好をした人達に囲まれているんです。「お前は天皇陛下を信奉しているから、俺たちの仲間だ」「もっとXXXXの奴らを攻撃しろよ」とか興奮気味に口々に実氏に話しかけているんです。 一人の40代半ばぐらいのぴちっと高くない系のスーツを着た小太りの小柄な男は哀切にに満ちた声で言うんです。 「あなたについてゆくよ」

長嶋茂雄氏が現役を引退する時の映像で、球場の観客席で「チョーさん、引退しないでおくれよ、辞めないでおくれよ」という感極まる涙声で叫ぶ少年の声を録音したのがあるんですが、聞いたことあるでしょうか?  なんとなくあったあったと私の世代は思い出すと思います。 あの調子の声色で表情を見ると大真面目なんです。

実氏の芸は正宗モノホン勢から危険な攻撃を受けかねない、紙一重の断崖絶壁の際の際で行われる新舞踏の一種みたいなものと一般には見られているでしょう。 私もそんな認識でいるので、実の演説芸を聞いても、創作落語を聞いて笑っているのと同じ感覚で見ると思います。 しかし、この一群の人達は実氏の演芸を演芸として見ずに、政治的なアジテーションとして真に受けている事を知りました。 演説している所を見たことないんですが、ナックルズ系雑誌とかで読んだ実氏の演説は完全にネタで笑わせようとしているものなんです。 実氏がこの日だけは終戦記念日の場に合わせて、真面目な演説風のネタをやったからという事も考えられますが、恰好からしてモノホン勢を揶揄して腐したようなもんなんです。 

ヒトラーが駆け出しのころに治安機関のスパイとして、ナチ党の原型組織に潜入し、どっかのビアホールで一演説ぶったら、あまりに様になっていて時代の求めるものを掴んでいたんで、あれよあれよという間に党の代表の座に収まり首相の座にまで駆け上がってゆく

 

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