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のらねこ雑記帳≪油絵≫
使っていない押入れの天袋の奥から、私が高校時代に描いた油絵が7枚出てきました。
これもうちの両親が取っておいて、そのまま忘れた去った昭和の遺物です。
うちの高校の芸術系科目は、音楽、美術、書道からの3択でした。
『音楽は最後に発表会がある』
『書道は段持ちでないと厳しい』
『美術の先生はだいぶぬるい』などの噂もあり、『ぬるい』ことに期待して美術を選択した生徒も多かったと記憶しています。
実際、美術の先生はかなりフリーダムな方で、生徒に油絵か、グラフィックデザインかを選ばせました。
2年間、選んだ方の課題だけをやるのです。
先生曰く
「グラフィックデザインはアイデア勝負なので時間をかけなくても、いい作品ができる。空いた時間は何をやっていてもOk!」
「油絵はただひたすら時間をかけて描くべし」
私は油絵を描いてみたかったので、こちらを選択しましたが、上記の先生の言葉もあり、油絵組は少数派でした。
出された課題は
人物画(他の生徒)→自画像→静物画(壺や花瓶)→風景画(校舎)→模写(好きな名画)→シュールリアリズム(シュルレアリスム)を2作品
すべてF10号キャンバス(53×45.5㎝)で、1作品に3~4ヶ月かかり、授業時間だけでは到底終わらず、油絵組は放課後、美術室のすみっこで美術部の皆さんに遠慮しながら、黙々と描いていました。
私が一番苦労したのは、模写でした。
単に好きだというだけの理由で、ルノワールの『イレーヌ嬢』を選んでしまったからです。
髪の毛や洋服のタッチが上手く出せず、他のクラスメイトがゴーギャンの
『黄色いキリスト』を描いているのを見て
『私も、ピカソとかにしておけばよかった…』と後悔しました。
シュールリアリズムでは、友人のKNが大暴走しました。
先生から「油絵は線で描くんじゃない、面で描くんだ!」と言われても、よくわからなかったので
「だったら、絵の具を全部キャンバスにのせてやる!」と、筆を使わずパレットナイフで絵の具をキャンバスにのせ始めました。
絵の具の厚みが増し、のせづらくなると、指でなすりつけていました。
その光景はまさに
『芸術は爆発だ!』でした。
こうして、KNは本当に絵の具1箱をすべてキャンバスにのせて作品を完成させました。
横から見ると絵の具の厚みが5㎜以上はありました。
完成した作品は先生が皆の前で批評してから、本人に返すのですが、KNの作品について先生は
「まぁ、かけた労力だけは認める」と言いました。
その日、KNは欠席していたので、代わりに私が作品を受け取りましたが、
その絵はずっしりと重く
『あぁ、これが絵の具1箱分の重さね』と実感しました。
美術の授業が終了し、その後しばらくは油絵の道具を取っておきましたが、結局私がもう一度油絵を描くことはなく、だいぶ前に処分しました。
今回、天袋から出てきた油絵も処分しようと、父に
「ばらして、捨てて」と頼みましたが、母が
「もったいない!部屋に飾る」と言い出し、散々もめた挙げ句、模写と静物画の2枚だけ、2階の両親の部屋に飾ってあります。