きたかた院長

地域医療に従事する肩専門の整形外科開業医。 大学関連病院勤務医、大学院(医学博士)、米…

きたかた院長

地域医療に従事する肩専門の整形外科開業医。 大学関連病院勤務医、大学院(医学博士)、米国研究留学、カナダ臨床留学、欧州短期留学、大学医局教官、フリーランス勤務医を経て開業医に。現役世代に医療の現状を知ってもらう為、様々なキャリア経験を元に、莫大な高齢者医療費の背景を言語化します。

最近の記事

【相容れない介護と医療②】〜介護保険主治医意見書の闇〜

前回の記事では「相容れない介護と医療」について、まだ比較的、表から分かりやすい制度設計上の問題を中心に語らせて頂きました。 引き続き今回は、もう少し深掘りして、整形外科医の立場だからこそ分かる、表には出てこないであろう部分の闇に触れます。 ・介護サービスでリハしていると医療でリハできない矛盾(介護が医療を妨げる)整形外科診療の中で、もどかしい思いをする最たる例 膝が痛い80代女性。 肥満で、運動習慣がないことは明らか。レントゲンで膝関節の変形がひどくない割には関節の動き

    • 【相容れない介護と医療①】〜共通点は税金の無限ムダ遣い〜

      あらかじめハッキリ断っておきますが、 整形外科医にとって「介護」は完全に専門外です。 学ぶ機会もなければ、経験する機会もありません。 さらに言ってしまえば、 整形外科という専門領域うんぬんにかかわらず、 そもそも「介護」と「医療」は近いものでさえあれ、基本的に「相容れないもの」なはずなのです。理由はあとで述べます。 でもなぜか、 整形外科診療をしていると、否応なく介護サービスに関わらされます。 そんな中で感じる「強い違和感」や「大きな矛盾」を、ここらで言語化してみようと

      • 【狂犬ツアー】の意味を振り返る

        2024年6月初旬に、木下斉さん率いる狂犬ツアー@京丹後に初めて参加しました。 (直後に書きかけたものの下書き状態で放置、すでに3ヵ月も経過してしまいお蔵入りも考えましたが、自分の備忘録代わりにも残すことにしました。) もともと不動産投資関連でVoicyリスナーになり、ワーママはるさん→ちきりんさん経由で木下斉さんを知って、その後プレミアムリスナーになって狂犬ツアーに辿り着いた、という流れでした。LDLや都市経営プロフェッショナルスクール経由ではないので、木下さんの活動につ

        • スポーツ医療にとてもモヤる

          野球では大谷選手はじめメジャーリーグで、サッカーでは欧州リーグで、多数の日本人選手が活躍していて本当に素晴らしいと思います。 国内に目を向けても、野球、サッカーに限らず、ラグビー、バレー、バスケ、テニス、水泳、陸上、卓球、バドミントン、格闘技、ウィンタースポーツ、X-Games系ほか、挙げればキリがないほど、以前は(野球サッカーと比べれば)マイナーとみなされていた競技の多くが、今ではかなりメジャーになっています。そのスポーツ種目が有名になればもちろんファンだけでなくプレイヤ

        【相容れない介護と医療②】〜介護保険主治医意見書の闇〜

          トンデモ『過保護』医療⑤〜物理療法とトリガーポイント注射〜

          常套句、 「リハビリしましょう」 「注射打ちましょう」首や腰が痛くて整形外科にかかったところ、「リハビリしましょう」と牽引やら電気治療やらマッサージやらウォーターベッドやらホットパックやらなどの処置(いわゆる「物理療法」)を受けたり、「注射しましょう」と痛いところに注射(いわゆる「トリガーポイント注射」)を打ってもらっている患者さん、世の中にかなりたくさんいると思います。 これらの治療は、日本の整形外科ではほぼスタンダードとみなされています。というか、患者側も医療者側も、そ

          トンデモ『過保護』医療⑤〜物理療法とトリガーポイント注射〜

          トンデモ『過保護』医療④〜ヒアルロン酸〜その2

          前回につづき、みんな大好きヒアルロン酸の関節注射について、イチ整形外科医がさらに突っ込んで語ります。 ヒアルロン酸を膝に注射するといくらかかる?薬価は先発品で700円台後半、関節腔内注射の手技料が800円の合計1,500円強。 両膝打ったらさらに倍、3,000円強。 患者さんからすると、 3割負担でも900円、後期高齢者で1割負担の方はなんと300円! コーヒー飲むより安いんです。※ 他の診療行為もあることが多いので、敢えて初診・再診料は除外して注射に関わる部分のみを示

          トンデモ『過保護』医療④〜ヒアルロン酸〜その2

          トンデモ『過保護』医療④〜ヒアルロン酸〜その1

          みんな大好きヒアルロン酸の関節注射について、イチ整形外科医がバカ正直に語ります。 ヒアルロン酸関節注射は日本の文化膝の痛みで整形外科医院を受診し、医師から「しばらくヒアルロン酸注射を打ちましょう」と言われて、際限なく膝に注射を打ち続けている患者さん、 世の中にかなりたくさんいると思います。 場合によっては、五十肩に対して治るまでヒアルロン酸注射を肩に打ち続けている方も。 これらは、ほぼ日本独自の文化です。 以前にも書きましたが、米国で医学基礎研究をしたり自分や家族が手

          トンデモ『過保護』医療④〜ヒアルロン酸〜その1

          トンデモ『過保護』医療③〜シップ〜

          シップについて、イチ整形外科医がバカ正直に語ります。 シップは年間どれくらい処方される? 整形外科医として20年以上働いていますが、処方したシップは数え切れません。勤め先によっては、毎月の診察で自動的に70枚(今は月に63枚が上限)の湿布が処方されている患者さんが何十人もいることもありました。 1日100枚処方したとして、月に2千枚、年間2.4万枚、20年強で50万枚。 これは控えに見積もってですが、かなりの枚数です。 で、製品により異なりますが、薬価を30円/枚とする

          トンデモ『過保護』医療③〜シップ〜

          トンデモ『過保護』医療②〜整形外科受診と手術までの待機期間〜

          日本の医療とカナダの医療のギャップに驚く。もう10年近く前にはなりますが、カナダのトロントとカルガリーで合計3年間、肩と膝と股関節の手術修行をしていた頃の実体験を元にした話です。 前回の記事で「日本の医療における常識は、欧米諸国からすればこの上なく非常識。」という事実に気づかされる一例を挙げました。 それは、術後の入院期間。 いわゆる「社会的入院」とも言えるような、医学的には不要な状況でもただ単に家で暮らすのが大変だから術後に長期間入院し続けられてしまう、ということ。 こ

          トンデモ『過保護』医療②〜整形外科受診と手術までの待機期間〜

          トンデモ『過保護』医療①〜肩の手術後の入院期間〜

          日本の医療における常識は、欧米の非常識!日本で医師としてある程度経験を積んだのちに、海外の医療現場を経験すると驚くことがたくさんあります。 日本以外で私が医療に関わった国は、カナダ、米国、欧州諸国ですが、中でもカナダでは実際に医師として外来診療や手術を行ったり、自分自身が患者として受診して手術を受けたりしました。(憶測でなくて実体験からの一次情報です。) そんな中で、日本との違いに驚かされる場面が幾度となくあったわけですが、その驚きを現地の同僚や指導医や患者さんや友人に伝

          トンデモ『過保護』医療①〜肩の手術後の入院期間〜

          開業表明した医師は格好のカモ。みんなが寄って来るんです。

          医師が開業をすると言うと、お祝いや賛辞のお言葉をあちこちで頂きますが、心からそんなことを思っている人はそんなにいないし、そういう次元では語れない問題が背景にある、というハナシです。 開業を匂わせると、人がいっぱい寄って来ます。開業する前は、みんなだいたい勤務医です。 開業を考え始めると、いきなり開業宣言などせずにコソコソと動き出すわけですが、まずはやはり仕事で繋がりのある身近なところから相談を始めます。同じ職場の勤務医に相談しても仕方ない(反対されるに決まってる)ので、すで

          開業表明した医師は格好のカモ。みんなが寄って来るんです。

          整形外科の診療を分解❸「お金の動き」

          以前の記事で、整形外科で一般的に行なわれている診療について、患者さんの認識と医師側の認識をそれぞれ紹介しました。 今回は、そんな整形外科診療の背景にある「お金の動き」をざっくり分解してみたいと思います。 そんなこと興味ない、と思われるかも知れませんが、昨今話題になりがちな超高齢化社会での医療費高騰問題を語る上で、このあたりの事情を知らない限りは議論にならない、というくらい重要なハナシだと思います。 院外処方の医院で患者さんに湿布が処方される場合のお金の動きについて(ここ

          整形外科の診療を分解❸「お金の動き」

          高額注射を提案する時にモヤる理由💉

          骨粗鬆症って知っていますよね。 最近は、以前と比べてかなり認知度が高まってきている印象を受けますが、実際に診療をしていると、定期的に骨密度検査をしている人はごく一部です。でも、検査を提案するとすんなり受け入れてくれる方が多いので、世の中に周知されてきている効果かと思っています。 ここで骨粗鬆症とその治療について語ってしまうと本題に辿り着く前に終わってしまうので、敢えて割愛させてもらいます。(もし詳しく知りたい方は、情報はいくらでも出てくるはずなので自分で検索して下さいね。

          高額注射を提案する時にモヤる理由💉

          診療報酬引下げが、なぜ愚策なのか②〜日本での医療に対する認識の異常さ〜

          「医療費がかかり過ぎているから診療報酬を引き下げよう!」 というのは何の解決にもならないどころか、ただでさえ正しく理解されていない医療の価値をさらに下げることになるんです。 というハナシの続きです。 日本以外の国での医療に関する常識を。 私は医師として、日本以外では欧米での局所的な経験しかないので、南米やアフリカやロシアや中国や、多くの発展途上国での医療事情は知りませんが、あくまでひとつのモデルとしてカナダについて。 カナダの医療システムは英国に倣っています。 他に、欧州

          診療報酬引下げが、なぜ愚策なのか②〜日本での医療に対する認識の異常さ〜

          診療報酬引下げが、なぜ愚策なのか①〜医療は有限で貴重なもの〜

          少子高齢化に伴って国民医療費が増え続けていることが大問題だっていう状況で、それを改善するために診療報酬を下げるっていうことが、いかにダメかというハナシです。 Limited Medical Resources 医療資源は、限られています。 医師をはじめ、いわゆるコメディカルと呼ばれる看護師、放射線技師、理学・作業療法士、薬剤師、保健師、医療事務ほか、すべての医療従事者(ヒト)、それから医療機器、薬剤、医療材料など(モノ)もそうですし、何よりその財源である保険料と税金(カネ

          診療報酬引下げが、なぜ愚策なのか①〜医療は有限で貴重なもの〜

          医院スタッフの賃上げが、なぜ困難か?

          世の中、明らかに物価は上がってきているのに、それに伴って賃金が上がらず景気低迷したままで、スタグフレーションの危機。 賃上げの機運があるのは、雇用主(クリニック院長)としてイヤでも耳に入ってきます。 雇用主の自分も、さまざまな機会で値上げを肌で感じている以上、雇用者(うちのスタッフ)たちも当然それを感じているだろうし、もちろん収入も知っているので、より苦しいことは容易に想像できます。 だからできるだけ世の流れに沿って賃金を上げてあげたい。 キレイゴトではなく、本当にそう思

          医院スタッフの賃上げが、なぜ困難か?