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こころのリハビリ

サザエさん

「大好きなお父さん おはようございます」
「大好きなお母さん おはようございます」
「今日一日よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
朝、障子を開け、東の山の方に向かい、真新しい朝を迎えることができ、ありがたいことだ。今日の入船はどんな荷だろうか。

主人は二年前、脳梗塞が再発。病気は本当に突然起こるものだ。

夜中に救急搬送、入院、左半身に軽い麻痺が残った。二週間の予定で帰宅のはずが、入院中に圧迫骨折をし、二か月余りに延びたため、主人はベッドで寝たっきりになり、「帰りたい 帰りたい」と懇願。逃走も考えたという。
やっぱり我が家がいいのだな。日ごろそれほど意識していなくても、我が家ほど良いものはないのだな。

退院を前に、病院においてカンファレンスが行われた。一人の患者に七人の医療従事者の方々が、自宅受け入れがスムーズに遂行できるよう、丁寧に話し合いされた。
「ありがたいことです」
安心して自宅で主人の介護ができると胸をなでおろした。

だが、息子が「車いすだったら家に帰るのは、無理じゃない」と呟く。私は何としてでも、自宅へ帰してやりたい。だが、息子の言うとおりだ。
退院の日が来た。我が家の玄関へ向かう主人が、自力で歩けるだろうか。祈る思いだった。

やった!無事段差に足が出せた。次は歩行器につかまった。プロに交じり、私も手伝い、やっとでベッドにたどり着いた。

1年9か月、毎週通ってくださるケアの方々のおかげさまで、歩行がスムーズにできるようになった。理学療法士さんは、週2回のリハビリである。「この家はいろいろな人が出入りされていて社会性がありますね」と言いながら、リハビリに入る。

立正佼成会の大聖堂ライブ配信を見ながらの時もあり、その時は、「あっ、今日は寺子屋のある日ですね」と言い、横耳にしながらリハビリが弾む。立正佼成会の会長先生は「家庭には愛と敬が大切」とおしゃっています。
リハビリが終わると、理学療法士さんは私の方を見て、
「昨夜は、我が家は愛も敬もなく、大喧嘩をしました。小学2年生の息子が大騒ぎをして、父がイライラし、やかましいと叫んだんです。私は仕事帰りで疲れているし、母はオロオロするし、私も爆発してしまい、父を蹴ってしまいました」と言われた。

私は、「いいじゃないですか。みんなが本音を吐き出して、ぶつかり合うことは、あることですよ。器が割れたら、大きな器になり、そのままで大調和しますよ」と言った。

すると理学療法士さんが、「この家のような家族になりたいです」と言った。

私は、「そうですか。ありがたいことです。きっとなれますよ。我が家もぶつかり合いしながら、あるがままを受け入れられる親子と夫婦と成らせて頂きました。言いたいことを言った後は、引きずらないことです。ああ言われたこう言われた、はなしですよ。今日の劇は今日でおしまい。明日の舞台が待っていますよ」

と言うと、横になっていた主人が、「あなた達は”こころのリハビリ”をしていますね」とほほえんだ。理学療法士さんは、「帰ったら、父に謝ります。奥さんに聞いてもらい心が晴れました。また来週来ますね」と元気よくお帰りになった。

我が家の合言葉は”家庭は港 嵐の中の良港づくり”である。さまざまな風を乗り越えて、今、穏やかな港には出船、入船で大賑わいだ。
よき師、よき教え、よき友に出逢い、今を頂いている。

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