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vol.10 大人になって読む絵本

ばたこ

 今でも仲の良い大学の同級生が、当時私の誕生日に絵本をプレゼントとして贈ってくれた。彼女が贈ってくれたのは「おおきな木」という絵本。彼女のお気に入りの絵本だそうで、大切な友達に渡したかったと言ってプレゼントしてくれた。絵本に全く興味のなかった私だが、その思いがとっても嬉しかった。大学生になって誕生日プレゼントに絵本をチョイスしてくれるという彼女の感性がこれまた素敵で、ちょっぴり他人に自慢したくなる思い出として私の心に残っている。

 今回、絵本のある毎日にコラムを書かせていただくこととなり、真っ先にこのことが思い出された。今でもわが家では、この「おおきな木」の絵本をインテリアとして飾っている。普段は開かれない絵本だが、この機会に久しぶりに読んでみた。

 ちびっこがまだ少年の頃、木によじ登ってりんごを食べたり、かくれんぼしたりしてただ一緒に遊んでくれるだけで嬉しかったりんごの木。けれども、時は流れていき、その子も青年になり、男になり、おじいさんになり…。成長する過程の中で、要望が変わっていった。お金を稼ぐため、船を作るためなど、りんごの木は自分の身を削っても、彼の要望を叶えるために尽くした。最後は彼がおじいさんとなり、何もいらない、ただ休む場所がほしいという願いを、りんごの木は切り株になった状態で「さあ、お座り」と迎え入れた。何年経っても彼を思うりんごの木の深い、深い愛情が染みてきて、思わず涙ぐんだ。

 絵本をプレゼントしてくれた彼女は、絵本の魅力的な世界を昔から知っていた。私は、この歳(36歳)になってはじめて知った気がする。絵本を読むことで、純粋で、あたたかい心になることができて、とても癒された。忙しい大人こそ、絵本が必要かもしれない、と絵本初心者が思ったりした。

おおきな木
シェル・シルヴァスタイン作/村上春樹訳

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