アンフェア
会社で、一応決まっているルールを破った少しアンフェアな業務の采配があった。皆が知らない間に決まっていてちょっと「あれ」と思ったけど、小さな会社で、仲が良い人たちがその仕事を一緒にやりたかったのだろう、別にその仕事が自分に来なくても痛くはないな、知らなかったのがちょっと気になっただけで。とすぐに自分のモヤッとした部分を整理した。
しかし、時間がたつにつれて、自分の顔からどんどん表情がなくなっていることに気がついた。脳内に、あるフラッシュバックが起きて、おさえようがない猛烈な怒りが湧いてきた。怒りのあまり、来週の月曜中に終わらせようと思っていたことが全部終わってしまった。瞬発力だ。後からぐっと疲れが来る。
前職の広告代理店において、TVCMの仕事は年に2本来るか来ないか、という感じだった。TVCMということだけで、超大型案件だ。私は当時、3人でチームを組み某大学のツール制作を担当していて、チラシから校内誌、学校案内など、少しずつ案件を広げていった。ある日私と営業Mは、クライアントの大学広報スタッフと撮影の合間に色々話し、TVCMコンペの仕事をとった。広報スタッフは「ぜひ、ウチのことをいちばん分かってる御社と一緒に作りたいが、金額が大きいので(2億くらい。CMとしては少ない)形としてコンペにします」と言った。やや、できレースニュアンス。信じられない!2億取れる!私たちは興奮した。すぐに上司に伝え、信頼できる制作会社をアサインした。
その制作会社にオリエンをする日、資料をつくり終えデスクで確認していた時、私とデザイナの先輩は上司に呼ばれてプロジェクトを外れるように言われた。決定事項とのことだった。
先輩は上司に理由を聞いたが答えてもらえず「分かりました。資料、どうぞ。まとめてあるんで」と表情のない声で言った。私は粘った。「理由を教えていただけませんか」と3回聞いた。理由は、社内のある50代の男性クリエイターが入るから、だった。その人は2年前、私へのパワハラが会社に認定されていた。先輩もその人との仕事を徹底的に避けていた。彼の名前を聞いて即、ならいいや、と私は思った。その人が「この仕事に入りたい」と言ったら、誰も逆らえない。その人が入るなら、私はどちらにしても抜けなくてはいけない(彼は私に話しかけることを会社から禁止されたと聞いた)。すぐに諦めた。営業Mは、その話を知らされていなかった。なぜオリエンに来なかったのかと聞かれたので、コーヒーを飲みに誘って話した。Mは怒った。営業の上司に直訴すると言った。いいよいいよ、でもコンペは絶対にとってね。と言った(あろうことか落としたが)。パワハラ氏が出てくると、私は瞬時に全てを諦める精神状態になっていた。
今いる会社は、もっと緩くて、入ってくる仕事のレベルもそれほど差がない。大型案件だから給与が変わるとかもないし、実力があるってことにもならない。だから自分の些細な「あれ?」が上記の出来事の蓋を開けたことにびっくりした。私は、めちゃくちゃ怒っていたのだ。アンフェアな采配を。パワハラがバレてもペナルティのない会社(社会?)を。声が大きい人ほど自由に振る舞える環境を。去らなければならなくなったのが、自分の方だったことを。