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解せぬぞ男子のファンタジー

「別れた彼女のことを思い出す→彼女もきっと俺を思っている→復縁もやぶさかではないぉ。」

という、男子のファンタジーってほんとファンタジー。
幡野広志さんがそんな相談者に対して言った
「あなたの夢に彼女が出てきても、彼女の夢にはあなたは出ていません。」というのが笑った。じわじわと3回くらい思い出して笑って、メモした。


4年付き合った人に「飽きたので。」と振られたことがある。セオリー通りであり、随分直裁である。家に帰って2時間くらい泣いたあと、自分でもとても驚いたのだが「うぉぉぉ自由だ!」とう気持ちが立ち上がった。思えば10代の半ばからずっといつも男子の誰かのことを考えていたから、本当に久しぶりに「誰のことも考えなくていい」時間を得た、その喜びが噴出したのだ。それまでの失恋とは違った。そしてなぜかそのとき「この自由は長くは続かない。近々結婚することになるだろうから自由を満喫しよう」と思った。しばらくは、自分のことだけを考えよう。
その年の暮れ、振られた彼から連絡が来た。帰国したから(彼は上海で起業していた)日本食が食いたい、と。魚真でお刺身を食べながら、突然私はあることに気がついてひやっとした。

この人、苗字、なんだったっけ。

下の名前でDちゃんと呼んでいたのだが(だいちゃん以外に何があるのだろう、またつまらぬイニシャルトークをしてしまった)。彼のフルネームが、どうしても出てこない。さらにお酒を頼もうとして「あれ、日本酒って飲めるひと?」と聞いてしまった。「俺、タバコやめたんだ、気づいてた?」と聞かれたときに「え、吸ってた?」と聞いてしまった。
本当にわざとではないのだ。忘れちゃったのだ(ヨリ目)。

「おまえに…。謝らないと。いけないことがある」とだいちゃんは言った。
よく変なところで話を溜めてキメ顔をする人だったな、と思い出しながら聞いた。
サザンのライブ…友達と行ったときあったじゃん?おまえ、疑ってたよな。あれ実は…女の子とだったんだ。俺のことが好きだって言ってて。すげえいい席。チケット取ってくれてて。
驚いた。その件も、思い出せなかったのだ。頭の中の引き出しを片っ端から開けながら「あ、そうなんだ?ええー。ひどーい」みたいなことを言ったらなにかが伝わってしまい気まずい空気が流れた。私だいちゃんと別れたあと宇宙にさらわれて記憶がマーブルなの、という冗談を熱燗で飲み込んだ。

締めのお寿司を食べ終わり、だいちゃんは言った。
「おまえはさ、俺よりもいいやつを探したほうがいいよ。熊みたいな感じのやつと結婚しろよ」

突然のアドバイス。このときも私は気がついていないのだがこの日彼はずっと「おまえが復縁したいならしてもいい」という打診をしてきていたのだ。
私はばかで、熊がいかに凶暴かをテレビの知識を持ち出してしゃべった。帰りがけ、ぱん! と私の太ももを叩いて(痛ぇ)だいちゃんは電車を降りていった。

男子ってバカよね〜 ってこれを書き出したのだが、私もぜんぜん負けてないですね。その後、いくつかメールのやりとりをして、その打診に気がつきました。振られなかったら、私から別れることはなかったと思う。そう考えると、本当に起こることはすべてベストだラヴィータエベッラ! と思うのである。

※振られたときに感じた自由は本当に長くは続かず、わずか10日後に忘年会にて私は「あーこの人と結婚するのか、うーん無理かも、そういう目で見たことないや。でもまあ一応話してみるか」という人の存在に気づき、翌年の年末に結婚することになります。不思議ですね。


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