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結婚式場のDX戦略 2023年〜2027年

長期の市場トレンド
・婚姻組数の減少(27年には-1.7万組)
・人手不足と賃金インフレ(27年には最低賃金が+10%)
・伝統的結婚式の衰退

結婚式場はある程度の施行数がないと利益がでない固定費ビジネスのため成約数を維持しながらもこれらの長期トレンドに適応していくべく、新規集客の効率化1組あたりの施行効率最終的な顧客満足度を上げて高付加価値化を図っていく必要があります。

伝統的結婚式の衰退と結婚式をしないナシ婚層の取り込みなど、新しいニーズに向けた商品開発も並行して求められてきます。フォトのみが増えることで披露宴の供給過剰から需給バランスが崩れることも予想されます。

これらの変化に適応していくためにテクノロジーを活用していくにはどういう方向性で考えるべきなのかDX戦略について土台になる情報を提供していこうと思います。


新規集客の効率化

  • ゼクシィなど各媒体の露出コントロール・CPA管理

  • 自社集客の強化(SNS・Webマーケティング・イベント・リード獲得)

  • 予約・来館・成約までの新規接客の効率化

  • 集客クリエイティブの改善

これらの業務を効率化していこうとすると、テクノロジーの観点では昭和企業ではあれば勘と経験と度胸(KKD)だったものをデータを組み合わせて解決していく視点を持つことが必要になります。

必要なデータの要件
・どういった顧客属性の方が既存のクリエイティブで来ているか?
・どういった人が成約して、失注しているか?
・自社の新規集客課題はどこにあるかボトルネックの把握

顧客属性は年齢・性別・クラスタ・温度感・ビジュアルの嗜好性・予算・細かい条件といったもので、成約数を最大化するために売れ筋と課題の把握が極めて重要です。にも関わらず取得できているデータは来館データと一部の成約理由しか現状は把握ができていないことがほとんどで、活用する工数もなかなか取ることができない状況があります。

具体的な新規集客の効率化

①顧客情報の取得と顧客管理システム
予約情報の一元管理とアンケートデータの蓄積によって基本となるデータベースを構築します。顧客管理システムを自前で構築すると大きな予算が必要になるので、基本的には既製品のカスタマイズかSaaSを検討する必要があります。

年間200施行だと売上7.8億でIT予算が売上の2%※ として月120万の中でやりくりするには10会場など規模の経済が働いてないと自前で構築するメリットを出せません。あまり宣伝っぽくやりたくないですが、開発しているラクーダウェディングがこの問題を解決しています。

※日本のIT予算は全業界平均が売上の1%と言われています。ちなみに北米は3.3%で3倍投資されています。

②成約・失注データの取得
次に新規集客に必要なPDCAを回すために成約と失注データを管理する必要があります。成約データは比較的取りやすいですが、失注データを人力で取るのを現場が遂行していくのは不可能に近い作業になります。

システムで自動的に来館者に対して成約理由、他決理由を聞いていくことがベターです。

③クリエイティブデータの取得
媒体に掲載しても写真個別や訴求軸といったクリエイティブそのものの評価を定量的に取ることができません。掲載面をA/Bテストしてもどういった顧客属性の人がどれだけ取れたかを可視化する方法を媒体は提供していません。

自社Web広告+LPアンケート型でフェア予約を取ると、クリエイティブごとに反応を計測でき、その顧客属性を確認することができます。広告宣伝費の一部を媒体から自社集客に振り分けられる場合は、Webマーケターを副業で採用してクリエイティブデータの蓄積をしていくのが良いかもしれません。

単にDXというとシステム投資になりがちですが、データの利活用によってより効率的にしていくことが目的なので、他の会場とこういったデータを相互にシェアしていくことで持ち出しなく結婚式場の競争力を高めていくことが可能です。

2027年の予想
おそらく2027年時点では結婚式場特化の顧客管理システムが新規集客〜施行〜ゲスト管理まで一貫したSaaSが普及している状態になり、システム統合やM&Aなどが進んでいくことになります。

その背景としては、エンジニアの人材不足から考えると自社システムを内製するのは非現実的で、自社で作るにはコストがかかりすぎるためウェディングの業界特化SaaS系を育てていくのが一番合理的な選択肢になります。

不動産、建築、自動車、ECなどでもSaaSが普及しているのは自社でやるのは大変だけど、同業他社とほとんど同じシステムの需要がある時にSaaS企業が作ってそれを従量課金で使えると全体のコストダウンに繋がるため普及していくからです。

結婚式の新規集客のあり方は激変するか?

  • 雑誌がなくなる

  • 相談カウンターがチャットになっていく

  • 花嫁DXが進む

大きなマーケティングファネルの変更とともに、前述のデータが蓄積・活用されていくことで二極化が進んでいくと思われます。常に昨対比で新規集客が良い状態になっている会場と、そうでない会場に分かれます。

そこまで劇的には変化せず淘汰が進むと考えています。対競合会場に対してのトークであったり、特定ニーズに対しての商品改善だったりがデータを元に最適化されていくため、じわじわと変化していくことがイメージできます。

大手結婚式場グループの場合はスケールメリットでマーケティング担当者を配置できるので、この傾向は年々強くなっていきます。


一組あたりの施工効率化

T&Gの21年3月期Q3の決算説明資料では1組あたり約20時間から約3.25時間の工数削減が出来ているとの報告がありました。資料のオンライン化で打ち合わせ時間を削減することができます。

https://pdf.irpocket.com/C4331/ng2K/jMr2/o7De.pdfより引用

席次表作成ツールであったり、引き出物ECであったり、対面接客しながら準備を進めると発生してしまう待ちや確認をデジタル化することでお客様自身に進めて行ってもらうことで工数削減が可能です。

1人あたり約3.25時間も時間が節約できると、1人で多くの人を担当できたり新規接客も手伝えたりリソースを再分配することができるので効果は絶大です。

業務プロセスを定期的に棚卸ししてテクノロジーを取り入れるということをやっていく、他の会場がやっている取り組みをヒアリングして積極的に取り込んでいくのが基本戦略で、その取組を推進するための責任者を置いて進めていく必要があります。

個別会場ではこのような責任者を置くのが極めて難しい状況に置かれていると思います。その場合はソリューションを提供しているベンダーを動かして情報収集とワークフローの設計を進めるのがおすすめです。他の会場でうまくいっている仕組みを元に、自社の業務フローをヒアリングしてもらって提案を受けることで自分たちで0から考える工数を削減しながら導入を進められます。

2027年の予測
ペーパーレスが実現されて、電子申込・電子契約・ECによる受発注が進んでいくはずです。来館ではなくオンラインとハイブリッドで新郎新婦も効率よく結婚式の準備をしていくことで工数削減が進む一方で、人材不足問題が深刻化するためウェディングプランナーはより多くの施行を抱えることになります。離職の問題が発生して、フリーランスの割合が増えたり施行品質が主な課題になりそうです。

その場合に考慮すべきはHR系のSaaSを活用して従業員のメンタルヘルスやモチベーションを計測していくといった検討が必要かもしれません。シンプルに人材の取り合いでHR施策を強化する必要性に迫られるかもしれません。


顧客満足度と高付加価値化

ゲストから新規顧客獲得ができると中長期で見た時に劇的に収益構造が改善します。通常は参列した結婚式場でゲストが結婚式をするのを避ける傾向がありましたが、ドミナント的な出店をしている会場の場合はこの限りではありません。ブランドはそのままに別の会場を提案できるからです。

顧客満足度とドミナント戦略の相性の良さ
ドミナント的な出店をしている会場が高い顧客満足度を実現して、1施行に対して1組集客するとどんどん新規集客のコスト効率が良くなり、結果的にさらに顧客満足度の高い結婚式ができるようになります。

ドミナント戦略を明確に出している「ブラス」はコロナ禍でも過去最高売上・過去最高益を達成しました。

2020年のブラスのインタビュー記事

施行をよくしていくことで短期的にアップセルをするのは当たり前として、長期的に新規集客ができたりを仕組みとして構築していくプレイヤーが出現してきています。

ホテル、レストラン、ゲストハウスそれぞれで色んな施策が実施されていますが、施行したカップルに新しいカップルを連れてきてもらうか、ゲストにもう一度来てもらうかの2択です。

そのためにまずは顧客満足度をデータとして取得していき、花嫁レポートといった顧客資産がSNS上で紹介されて自然に認知が広がる仕組みの構築で、施行から新規集客が1%でも発生するようにネットワーク効果を構築する必要があります。

そのための足がかりとして顧客満足度をしっかり聞いていく。成約・失注と同じくらい施行の品質についてもデータを蓄積していくことがまず第一歩になります。お客様にとって満足度が高い結婚式は紹介受注を生むはずです。

2027年の予測
ここの変化はほとんど表面上は起きないでドミナント戦略でゲストから集客している会場がちらほらと見られ表面化していると思われます。

また顧客満足度を計測してKPIにしている式場は顧客ニーズに現場が適応していき、そうでない式場はこれまでの経験をもとにした提供サービスになるため顧客ニーズの変化への対応が後手になるリスクが大きくなります。そういったリスクヘッジという意味でも今後重要な指標になってきます。


多様なニーズ(フォト)への対応

フォトウェディングがコロナ禍で大きく伸びました。詳しくは船井総研のを見てもらったほうが詳しそうですが、単純に披露宴ではなくフォトを選択する層が増えたことへの対応になります。

逆張りでフォトに参入せずに披露宴会場としてのオペレーションエクセレンスを目指すという戦略も当然あります・・・・が

競争力のある設備や撮影スポットがある場合は平日稼働でフォトの需要を捉えつつ、フォトから披露宴へのアップグレードしていくことで利益を確保していくことを検討する余地があります。

フォトに適応していくのに相当数の顧客数が流れてくるため、これまた顧客管理システムが必要になってきます。

テクノロジーの対処
・顧客管理システムをフェア予約とフォトで統合的に管理する
・フォトのレタッチ作業のAI化
・フォトの納品を自動化

フォトを外注・内製問わず提供サービスのデジタル化によって、人手不足を未然に防ぐことが可能です。必ず発生しうる人手不足の課題に対して、先手で業務プロセスの可視化を実施しておくことが戦略上極めて重要だと考えています。

深刻な人手不足をチャンスと捉えるには?

逆にどんな結婚式場が生き残るかでいうと、コスト構造が優れている式場が生き残り、人気会場はより大きく利益を出してアグレッシブに人材獲得してくると考えられます。

新規集客が効率化されているとコストそのままで成約数が増えるので、単純に施行数が増えてネットワーク効果も構築されているとさらに人気化していき、広告宣伝費も減って自己強化型の事業になっていくのでDXの威力は侮れません。

婚姻組数の減少と人手不足の両方を考慮すると、1日に複数回転させる前提の集客方法とオペレーションを減らしながら、少ない回転数でも固定費が回収できるような収益構造への変革が必要です。内製化も収益構造の変換の1つですが、人件費・広宣費の質的な変化が求められます。

具体的には人件費は付加価値の低い作業をシステムなどに代替し、付加価値の高い業務にリソースを配分するか、より多くの案件を持てるようになる必要があります。

広告宣伝費もデータ整備の恩恵で露出面から成約率に最適化することができると、100来館30成約(成約率30%)が80来館32成約(成約率40%)に改善して20来館分の接客工数を減らしながらも成約数を伸ばすことができます。施設リニューアルのような120来館48成約(成約率40%)にする施策も当然合わせて計画的に行われるので、データと組み合わされて質的に変化する威力は相当な競争力になってきます。

これらを実現するためには新規集客の効率化、施行の効率化、結婚式の高付加価値化を推し進める必要があり、その方法論としてテクノロジーの活用は喫緊の課題ですが進めるためのリソースも社内に存在しないケースが多い問題が発生しています。

これに対しての解決策はベンダーに業務フローの整理を無料で手伝ってもらうことをしながら、レバレッジが効きそうな部分から導入を検討していき、導入したベンダーを使って他の結婚式場のノウハウを適用していってもらうのが現実的な解決策になるかと思います。

あるいは資本力・投資予算を拡大するために、複数式場が資本提携やM&Aをして必要な投資ができる体制を作っていくというのも1つの戦略で、今後どんどん再編が増えてくるのかなと予測しています。

こういった構造的な変革をしていくために協力できそうなことがありましたらご連絡ください。

https://note.com/kitahappy/message

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