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根津美術館へ行って来ました@徽宗『桃鳩図』と『天上恋歌』


個人蔵国宝のレアすぎ展示

 2023年12月2日、青山の根津美術館まで国宝『桃鳩図ももはとず』を見てきました。
 『桃鳩図』は北宋の皇帝・徽宗きそうの真筆とされ、現在は個人蔵でめったに公開の機会がありません。
 今回も12月1~3日までの限定公開とのことで、都合を合わせて行ってきました。

 徽宗は実質北宋を滅ぼした暗君として有名ですが、同時に美術的センスにあふれていたことも知られています。
 美術ミリしらにも、ねずみ色と薄ピンクの混じり合った鳩の羽が繊細に表現され、囲むように伸びた枝が額縁のように鳩を活かしているのがよくわかりました。
 徽宗がデザインしたフォント『瘦金体そうきんたい』で書かれた詩も、読めないながら上品な味を感じました。

 根津美術館の創設者・根津嘉一郎は実業家であると同時に美術品の目利きとしても知られていて、美術館の庭も根津自身のセンスで築かれたものです。
 日没が早い時期だったので暗くなって見られませんでしたが、今度機会を作って見に行ければと思います。

北宋の落日、靖康の変

徽宗の無能ムーブ

 上でも少し書きましたが、徽宗は中国の歴史の中でも上位の暗君と呼ばれます。
 芸術家としての評価が非常に高いからこそ、政治のまずさがより強調されているのかもしれません。

 忠臣を退けてイエスマンばかりを登用し、北西の強国・りょう(現在のモンゴルあたり)を倒すために共闘したきん(現在の中国東北部)との約束を破り、怒った金軍に首都・開封へ攻め込まれたら皇位を息子の欽宗きんそうに譲って逃げ、逃げきれず結局ほぼ一族全員が金に拉致されてしまいました。
 この事件を後世では『靖康の変』と呼びます。

凄惨すぎる女性への仕打ち

 この時拉致されたのは男性ばかりではありませんでした。
 皇后、側室、皇女、皇族の女性、家臣の家族、庶民の家族まで、開封にいた1万人ほどの女性も、金の都・上京会寧府じょうけいかいねいふ(現在のハルビン市付近)へと連れ去られました。

 開封から金の領土へ至るまでも、上京会寧府に着いてからも、女性たちは筆舌に尽くしがたい目に遭いました。
 性暴力に対する耐性がなかったり、共感能力の高い方が読んだら3日くらい寝込むレベルの蛮行なので、どうか自己責任でお調べください……。

ギリギリ南宋成立

『ほぼ』一族全員拉致、と言いましたが、1人だけ逃れられた皇族がいました。
 ちょうど開封を留守にしていた徽宗の皇子の1人・趙構ちょうこうが金軍来襲を知って南の臨安(現在の浙江省杭州市)に逃れ、南宋を建国しました。
 金と物理的な距離ができたため、いったんは国を立て直せましたが、モンゴル帝国(げん)が勃興すると勢いのままに金とまとめて滅ぼされました。

青木朋『天上恋歌』

 この、日本ではマイナーな北宋時代を舞台にした、青木朋先生の『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』が、ミステリーボニータにて連載されています。

あらすじ

 建国されたばかりの金の皇女・アイラが賓客ひんきゃくとして北宋を訪問する途上、実験をしていた火薬師・凛之りんしに身分違いの恋をしてしまいます。
 折しも、都の開封ではアイラと趙構の縁談が持ち上がっていたところでした。
 幼い頃は一部族の姫として育っていたアイラは自由闊達かったつで、凛之のピンチに身体を張るなど、勇気に満ちた行動と取ります。
 徽宗の寵愛の薄い母から生まれた趙構は皇子の中でも影が薄く、一種のいけにえとして『蛮族』のアイラの許嫁になったのですが、凛之への恋を隠さないアイラにイラついているうちに少しずつ心が変化します。

今後の展開が……

 金の人々は、弁髪や毛皮の衣服などの風習を宋人から野蛮だと見なされていますが、アイラの視点から見れば素朴で嘘のない善人ばかりです。
 皇族同士も仲がよく、アイラが事件に巻き込まれたと聞いて金から開封へ飛んで来た二兄・オリブは作中で『シスコン』とからかわれています。
 皇太子(後の欽宗)と他の皇子が互いを蹴落とす陰謀まみれの宋の皇族と違ってたいへんに平和です。

 アイラの四兄・ウジュと、趙構の妹で幼くして未亡人になった円珠がなんとなくいい感じになっているのも微笑ましくなります。

 だからこそ、中国史ファンの多くは今後の凄惨な展開を今から怖がっています。
 青木先生は可愛らしい絵柄で重いお話も描かれるので(中華ファンタジー『天空の玉座』では、宦官にさせられた亡国の王子が己の美貌を使って復讐を画策します)、どれほど史実を反映するのか……と私も胸が痛いです。

まとめ

 東京に住んでいると、美術館や博物館に行く機会がたくさんあります。
 Xで情報が回ってくるたびにブクマして、物理でもメモを取って行けるように準備しています
(私事ですが6月は少し体調を崩して、山種美術館の犬派?猫派?展に行けませんでした……悔しい……)
 7月は静嘉堂文庫美術館の『超・日本刀入門revive』とサントリー美術館の『徳川美術館展』に行きたいと考えています(どちらも刀剣乱舞とのコラボがあるのです)。

 また、好きな作家さんが描いた時代を足がかりに、史実をより深く知りたくなります。
 例えば田中芳樹先生の『岳飛がくひ伝』なども気になります(岳飛は南宋で金から領土を取り戻そうとした猛将)。
 Fate/Grand Order(FGO)の燕青えんせい(北宋に反発していた梁山泊の一員)も歴史上の位置づけを考えていなかったので、その辺も勉強したくなります。

 今後も楽しく勉強したいです。


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