職員室デジタライゼーション〜関 数男の悲劇⑤〜
目も眩むような職員会議の嵐を潜り抜け、職員室に戻ってきた数男は、コーヒーを一口啜った。今年度は、4月1日が月曜日ということもあり、新年度の始まりである始業式までわずかではあるが余裕がある。あくまでも「わずか」ではあるが。
今年度、担任するのは6年生。実は、これは、少し難しい状況である。学校行事など様々な場面で全校のリーダーシップを発揮することが期待される6年生。その担任が一年間の見通しをもてない状態というのは、正直不安がある。
確かに、行事などの一年間の見通しをもてない状況ではあるが、幸いにも数男が前任校で最後に担任していたのは6年生だった。なので、授業の進度や教材については、おおよその見当がつく。学年行事など学校独自の文化について、わからないものは仕方ない。同じ学年を組む主任の明子に頼ることにしようと腹をくくることにした。
数男は、コーヒーを飲み干して、学級の準備を進めることにした。1年間使うことになるであろう名簿、出席簿、指導要録など事務的に行えるものを先に片付けてしまえば、後々楽になると踏んでいた。スリープ状態になっていたPCを起動させ、まずは、名簿を探し始める。ところが、
探しても、探しても、探しても…。名簿は見つからない。
サーバーの中身は、学校独自の分類なのか、数男には解読不能な法則に従って作成されたフォルダが乱立している。「平成28年度6年生」というフォルダがあったかと思うと、「6年生」というフォルダもある。さらには、「★6年生」なんて刺激的な名称のフォルダも存在する。それらの「乱立する6年生」の中から、名簿を見つけ出さなければならない。
ぞっとした数男は、試しに「運動会」の実施計画についてもサーバーをあさってみることにした。予想通り、見つからない。そう。表計算小学校のサーバーには、「他者と共有する」「次年度に資料を残す」という視点が欠如していたのだ。
「データは、とりあえず放り込んでおけばいいだろう」が蔓延し。「自分が使いやすいから、記号をファイル名にしてしまう」ということが黙認されていた。これが、ハイスペックなPCであれば、検索だけでなんとか対応できるかもしれないが、起動にすら数分要するPCでは検索機能などあてにできない。
深い絶望が数男を襲った。しかし、本当の悪夢は、それだけではなかった。