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日常からコンサドーレ #1「“白い恋人”が育てたサッカークラブ」(辻井凌)

 この連載は、サッカークラブ・北海道コンサドーレ札幌について様々な角度から語っていくものだ。

 とはいえキタノステラ読者の皆様は、北海道に縁や関心があっても、コンサドーレやサッカーに興味を持たれているとは限らない。

 だからといって読み飛ばさないでもらえるとうれしい。世界中で愛されているサッカーは、みなさんが普段生きている世界ともきっと繋がっている。

 直接関心がなくても、コンサドーレもサッカーもみなさんに日常にかすったり、延長線上にあるかもしれない。そんなことを感じていただける連載にできたらと思っている。よろしくお願いいたします。

 まず、お菓子の話からはじめようと思う。

 北海道を代表するお菓子のひとつが石屋製菓の「白い恋人」だ。おみやげの定番でもあり、その売上は全国のおみやげで見てもトップクラスである。

 近年は北海道を飛び出し本州に出店したり、海外への売り込みも熱心だ。コロナ禍を乗り切り、勢いのある北海道企業のひとつである。

 そんな「白い恋人」の会社の社長である石水創にはもう一つの顔がある。「株式会社コンサドーレ」の代表取締役社長の顔だ。

 株式会社コンサドーレは、北海道コンサドーレ札幌を運営している会社である。しかも報道によれば近々、石屋製菓はコンサドーレを子会社化するつもりだそうだ。

 そう、コンサドーレはまさに「白い恋人のサッカークラブ」なのである。

 不思議である。お菓子とサッカー、一見結びつかないこの2つが、北海道の地では社長が兼任し、ついには同じグループ会社になるほど堅いつながりで結ばれている。

 そういえば、地下鉄・福住駅を降りると、胸に「白い恋人」と大きく書かれた赤黒のユニフォームの看板を見かけないだろうか。1996年にコンサドーレが誕生してから石屋製菓は、ずっとスポンサーとして支えている。

福住駅とプレミストドーム(札幌ドーム)の間にあるコンサドーレユニフォームの看板

 宮の沢にある工場兼テーマパークの「白い恋人パーク」の隣には、宮の沢白い恋人サッカー場がある。コンサドーレの練習場であるこの場所を提供したのも、実は石屋製菓だ。

 この練習場、実は本州のサッカーファンからの評判が非常にいい。背景に白い恋人パークの建物や手稲山が見える練習場の風景が「まるでヨーロッパにいるみたいだ」と言われている。

宮の沢白い恋人サッカー場。後ろに見えるのが白い恋人パークの建物だ。

 コンサドーレは、神奈川県に拠点があった東芝サッカー部が北海道に移転して誕生したクラブだ。この誘致に大きく関わった一人が石水社長の父である石水勲だった。

 クラブ誕生後もメインスポンサーとしてコンサドーレを支え続けた。先に書いたように練習場を作るために土地を提供し、白い恋人のCMには選手や監督が出演していた時代もあった。

 そしてとうとう今年、子会社化により名実ともに「北海道のサッカークラブ」であり「白い恋人のサッカークラブ」になるのだ。

 現在、コンサドーレのユニフォームの胸に「白い恋人」の文字はない。代わりに「ISHIYA」と書かれている。

 世界中に石屋製菓、白い恋人を知ってもらうにはアルファベットの方がいいという考えから変更したとされている。サッカーは世界中で愛されている。コンサドーレが世界で活躍することがあれば、石屋の名前も、北海道も世界に広がる可能性がある。

 え、でもコンサドーレってそんな強くないんでしょ???そんな夢みたいな話をされてもな。ときどき小耳にはさむニュースからそう思う人も少なくないだろう。

 しかし例えばタイでは、コンサドーレの名前はかなり知れ渡っている。日本のサッカークラブでは最も有名かもしれない。

 コンサドーレは東南アジアとのつながりが深い。「ベトナムの英雄」レコンビンや「タイのメッシ」チャナティップのように、その国ではトップアイドルやアーティストばりの大スター選手がコンサドーレに在籍し、経済効果をもたらした。

 今もタイ代表の中心選手であるスパチョークが北海道で活躍している。毎年、彼の勇姿を見るためにタイから北海道にやってくるファンもいるくらいだ。

 そう考えるとサッカーによって白い恋人が海外に広がっていくという夢もあながち実現不可能な妄想とはいえないのである。

 お菓子もサッカーも全国、世界に飛び出すことで北海道の可能性をどんどん広げてくれる。それによって北海道に誇りや喜びがもたらされる……かもしれない。

 今月コンサドーレの社長への就任が発表されたとき、石水社長は次のようなコメントを発表した。

「北海道を愛するすべての人へ、おらが街にコンサドーレがあることの誇りと喜びをお届けします!」

 はたしてコンサドーレは「白い恋人」のような存在になることができるのか。来年にクラブ誕生30周年を迎える今、試行錯誤の挑戦は続いている。

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辻井凌(つじいりょう)
書評家・文筆家。20数年以上サッカーを愛する北海道コンサドーレ札幌サポーター。『宇都宮徹壱ウェブマガジン』に書評連載中。最近はtimelesz project(タイプロ)にハマっています。札幌在住。
X(Twitter):https://x.com/nega9_clecle
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