てくてく北へ #7 「東北への旅」(森山智仁)
【この連載について】
フリーライター・森山智仁さんが、2023年4月から半年間、鹿児島から北海道まで各地の山に登りながら、ほぼ徒歩で日本縦断する旅「#日本縦走」。このチャレンジを「食」の観点から綴るフォトエッセイです。新潟と長野、群馬の県境を辿りながら北へ向かう行程は難所も多く、動画も見ごたえ抜群(記事の最後にリンクがあるので、是非チェックを!)。一方この連載では、下界や温泉で食を楽しむ時間や、登山のご褒美ともいえる絶景をシェアしてくれています。森山さんの旅の様子は、Twitterやyoutubeから、リアルタイムで発信中です。
(前回の記事はこちら)
妙高山の麓から苗場山の麓にかけては、下界と呼ぶには起伏があるけど登山というほどでもない、凸凹した高原。アスファルトの登り坂は大抵の登山道よりツラく、「登頂!」のやり甲斐はありませんが、時には高原のリゾートらしいご褒美が待っています。7月7日は「ペンションカルアミルク」に宿泊。
食器は外側から使うんですよね? 今年39歳、会社勤めをした経験がなく、知らないことがたくさんあります。名刺交換も覚束ない。わかるのは山のことだけ……
お……おいしい! スープはとってもまろやか。右はお蕎麦の、なんていうんでしょう(訊けばよかった)、誤解を恐れずに言えば高級なスパサラです。すごく風味がいい。そしてメインは……
このまるさが伝わるでしょうか。ぬいぐるみにしたいまるさ。玉ねぎの甘みに頼らない、肉そのものをがふがふ味わえるハンバーグです。付け合わせの野菜もおいしくて、全体的に引き算の美学といいますか、素材への信頼が伝わってくるコースでした。
コーヒーとバニラアイスでフィニッシュ。鉄板のお二人です。花占いのように、あま〜い、にが〜い、あま〜い、にが〜い……
せっかく「ペンションカルアミルク」なので、お部屋でカルアミルクを飲み、気分よく就寝。翌朝も美しい食事をいただいて出発しました。
食パンふかふか。実際おいしいんですけど、盛り付けがまた良いんですよね。召し上がれ〜という囁きが聴こえてきます。料理は芸術。
7月11日は秋山郷の民宿「丸山荘」に宿泊。前回の記事で「蕎麦って普通に好きだけど格別おいしいと思ったこともなかった」という話を書きましたが、実は「山菜」もそういう立ち位置でした。なんとなく健康そうだから食べるけど味は好きでも嫌いでも……
はい手のひら返し。何が違うのかしら、鮮度? 土? 調理? 心? 全部かもしれません。
山菜って今まで蕎麦やうどんの具として食べることがほとんどだった気がしますが、一品一品、おつまみやおかずとして自立しているおいしさです。
さて、秋山郷から苗場山に登り、車では行けない究極の秘湯・赤湯温泉に泊まって、平標山〜谷川岳を縦走。雨でテントが浸水しかけたり、スマホがフリーズしたりと、多少のトラブルはありましたが、7月15日、土合駅へ無事下山しました。休養のため前橋駅まで移動し、駅前温泉「ゆ〜ゆ」に入浴。
赤城鶏の焼きとり丼です。群馬と言えばネギ! 甘! 縦走で疲れた体がみるみる回復し、ブラックアウトしていたスマホも強制再起動で復活。休養日を使って洗濯や散髪も済ませ、次は尾瀬に突入です。
この旅では、谷川岳と尾瀬の燧ヶ岳の二座だけが過去に登ったことのある山で、あとは全部初見。上越線の車窓からの眺めや尾瀬の木道には実家のような安心感がありました。家には半年間一度も帰らないわけですが、ある意味これで帰ったようなものです。
尾瀬の見晴キャンプ場では、小屋で働いていたTwitterのフォロワーさんから、谷川岳では日程を合わせて激励に来てくれた山の師匠から、ビールを奢ってもらいました。うまい! 労いのビールは自腹の何倍もうまいです。
フォロワーさんなりYouTubeの視聴者さんなり、道で声をかけてくれた人なり、応援してくれる方々の「期待に応えねば」と考えるとプレッシャーになってしまうものですよね。けれど、程よいプレッシャーは必要。僕の意志力は決して修験者レベルではなく、応援という名の監視が果たす役割は小さくありません。
7月20日、会津駒ヶ岳を下山。滝沢登山口の周辺には民宿やキャンプ場、日帰り温泉などがあります。泉キャンプ場にテントを設営し、食事と買い出しのため道の駅へ。食堂で何気なく注文したのが……
地元の岩魚の天ぷらが乗っている……だけでなく、ほぐし身も散らしてあるのがポイント。つゆに岩魚のエキスが染み出して極旨です。通販してほしい。
うどんに満足して温泉入ってビール飲んで寝たのですが、翌日はなかなかの苦行。道中にコンビニや飲食店が全然なく、補給も休憩もままなりません。しかも縦走の連続で栄養バランスが乱れている状態です。そんな背景もあって、須賀屋旅館の夕食は光り輝いて見えました。
うまい〜。全部おいしい〜。召される〜。中でも特に「!」って思ったのが……
会津名物、辛味噌を溶いた醤油で食べる馬刺しと、味しみしみの肉じゃがと、生姜の効いたいんげん。もし旅費を切り詰めて「素泊まり路線」でやっていたら、こういう味とは出会えなかったはず。「二食付き路線」で計画してきて本当によかったなあと思いました。
体感では梅雨入りの発表前からずーっと梅雨でしたが、梅雨明けはガチ。だらだらとした雨はピタリとやんで、昼はぐわっと暑くなり、夕方に夕立ちがざばっと来る、典型的な真夏日が続きます。
会津田島に着いたのは偶然にも祇園祭の日。勇壮な田島太鼓を聴き、会津若松を北上して喜多方へ。
本場の喜多方ラーメンをいただきます。すげぇスッキリしてる……! あっさりではなくスッキリ。薄いんじゃなくて雑味がない! 澄んだスープに中太麺がよく絡みます。色々複雑にできる家系も好きなんですけど、あれとは対照的に無駄が削ぎ落とされていて、具はチャーシューとメンマとネギだけ、卓上にはブラックペッパーだけ。必要なものだけが慎ましく添えられています。川口春奈のメイク動画みたいなものですね。余計なことしないのが正解。
7月27日から30日にかけて飯豊連峰を縦走、8月2日から5日にかけて朝日連峰を縦走しました。本稿ではサラッと流しますが、山をやっている方はご存知の通り、いずれもかなりの冒険です。
朝日を下りてきて泊まったのは「朝日山の家」。予約の電話を入れた時は「簡単なお食事しか出せませんが……」と、ずいぶん弱気なことをおっしゃっていたのですが……
全然簡単じゃありませんでした。特に感動したのが天ぷら。ここだけの話、旅館の天ぷらってあんまり揚げたてじゃないこともしばしばですよね……? ところが、こちらは本当に揚げたてでアツアツのサクサク。カレー塩にちょんと付けると、ほんの一口でごはんがめちゃくちゃ進みます。
月山は半分ほどリフトで登れることもあって、多くの登山客で賑わっていました。途中で父子(?)を追い越したのですが、おやじさんが少年に「去年とは別人じゃんか」と言っているのを聞いてしまい、巨大感情(古い)が爆発寸前に。少年が何も言わないのがまたエモい。命は繋がってゆく……と、自分自身はもう捨てた道を思いながら、山頂の神社にお参りして西へ下山。
山上ヶ岳の宿坊のような質素な場所かなと思って来てみたら、違いました。普通に観光ホテル。お風呂は二つあって、片方はシャンプーが使えるノーマルな内湯、もう片方は地下。戸をガラリと開けると、湯気に包まれた神棚と、赤茶色のお湯で満たされた湯船、それらがちょうど収まるだけの狭い空間。開放感がウリの露天風呂と好対照をなす、神秘的な入浴体験でした。温度ぬるめでゆっくり入れるのも好み。
贅沢ゥ〜。参籠所って一応「神仏に祈願する場所」のはずですが、こんないい思いをしてしまっていいのでしょうか。
特にヤバかったのは、あんの粘りが常軌を逸している胡麻豆腐と、ニジマスの田楽味噌焼き。旅館の川魚って塩焼きが相場と思っていたので、意表を突かれました。パリパリの皮に味噌の香りが乗って最高においしかったです。
体温を超える猛暑もやがて終わり、かすかに秋の気配。もうすぐ本州を脱出=北海道上陸です!
【北海道上陸まで残り14日・車道最短距離で259km】
文・写真:森山智仁
Twitter:https://twitter.com/bacoyama
blog:https://moriyamatomohito.hatenablog.com/
●森山智仁のyoutubeチャンネル「東京登山」
https://www.youtube.com/channel/UC0HDQAfdJHYJtPpHgJUds1Q
Twitter:https://twitter.com/yamako_yamalove
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