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文化を育てた喫茶店⁉画廊喫茶ブランカが育みたかったもの

大曲駅から徒歩5分、花火通り商店街を抜けたその先に、地域住民やアート愛好家に親しまれてきた場所があります。「画廊喫茶ブランカ」。

ブランカは、絵を描くための画材の販売、美術作品の展示を行うギャラリー、喫茶店を兼ね備えたお店として2002年にオープンしました。絵画教室や「ばんげパーティ」を開催するなど、文化に親しみ交友を広げる場所としても親しまれていましたが、2021年12月21日、常連客に見守られながら最後の営業を終えました。

店主の三浦尚子さんからお話を伺いました。

たくさんの物語が生まれた場所、ブランカ

―20年間の営業、本当にお疲れさまでした。この20年間をふりかえって、どんなことが印象に残っていますか。

毎週日曜日にいらして、コーヒーを飲み、画材などを選んでいかれる方がいたんです。ぶっきらぼうで、気難しい顔をされていて…でも、毎週来てくれる方でした。私、こういう性格だから、話しかけるでしょう。そうしたらね、その人は照れ笑いしながら、裁判官だと言うんです。

―裁判官ですか。

そうなの。富田さんという方でした。裁判官の仕事ってね、やっぱり神経を使うでしょう。それに、職場から急な呼び出しがあるらしくて、外に出て歩けないらしいんですよ。それでね、おうちで絵を描いていると話してくれるようになったんです。そんな話をしていたら、次第にニコニコしてくれるようになってね。

ブランカを訪れた富田さん(写真右)と三浦さん

そうしているうちに、絵画教室で生徒さんが絵を描いている姿をふらりと見たりしてね。富田さんも、コーヒーを飲みながらスケッチするようになったんです。

―富田さんは、どんな絵を描かれていたんですか。

ブランカに来るお客さんのことを。それで、「ブランカに集う人」という個展を2回やったんですよ。

―へー!それは素敵ですね。

そうなのよ。富田さんがお客さんを描いて、そのお客さんが富田さんを描いたりしてさ。

でもね、定年退官して1年で亡くなってしまったの。「退官したよ」って、痩せたフラフラの姿で来てね。「勲章をもらう」なんて話していたんだけれど。…あれは、お別れに来てくれたんだと思っているの。富田さんが亡くなって、遺作展も開いて。そのときのことは、地元紙にも取り上げられたりしてね。

―富田さんにとっても、ブランカは大切な場所だったのかもしれませんね。

そうだと良いなと思います。

富田さんが描いた三浦さん

まだまだ印象に残っている方がいらっしゃいます。
その中の1人に、小学生のときからブランカの絵画教室に通ってきてくれた方がいてね。当時は支援学校に通っているお子さんだった。絵を描くのにもすごく時間をかけて、午前中から午後までずーっといて描いているの。それでも続けてきてくれて。秋田県の県展で、奨励賞をもらうまでになったんですよ。その方にとっては、とても大きな出来事だったと思うの。

―たくさんのエピソードがここから生まれていったんですね。

それはもう!
大学受験される娘さんの英語の点数が上がらなくて悩んでいるお客様に、語学力堪能なお客様を紹介したりして、娘さんが大学に合格されたということもあったしね。

―ええっ、お客様に他のお客様をご紹介ですか!三浦さんは人と人とをつなぐ方でもあったんですね。

世話好きなのよね。そのお客様が何を欲しているのか、会話の中で知っていったから。お見合いをさせたこともあるのよ!こればっかりは好みや相性もあるから、だめだったけどね(笑)

―お見合いまで(笑)
ブランカは絵画に触れられる場所であり、人と人とがつながるアットホームな場所だったんですね。すごい…。

お客様がね、ここに来ておしゃべりして、絵や音楽に接して、笑顔になっていくんですよ。元気になって帰っていく姿が見えることが、とても嬉しかったです。

これからも、文化に親しみ、語り合える場になってほしい

―そんなブランカが2021年12月に閉店となったわけですが、閉じるという選択をされたとき、三浦さんはどんなお気持ちだったのですか。

それはもう、苦渋の決断でした。
でもね、実は閉店の1年前に夫から「辞めることも考えたほうが良いのでは」と言われていたんです。コロナになって展示会やイベントもできないし、売上も減っていましたし、スタッフも体を壊して退職してしまって。いろいろなことが重なっていたのね。私も年齢を重ねてきていたので、疲れてきてしまったんです。

お客様から、閉店を惜しみ、感謝する声が寄せられた

―つらい選択だったんですね。

でもね、引き継いでくれる人がいたので、気持ちが晴れたんですよ。辞めるということは残念ではあるし、やり残したなと思うこともあるけれど、今後の展開にも期待しているんです。
文化やアートというと、なんとなく「高尚なものなのかな」と構えてしまいがちだけれど、そうではなくて、ここに来ることで「わたしは絵が好きだな、音楽が好きだな」と文化に親しみを持ってくれたらいいなと思いますし、文化を語り合える場として続いていってほしいなと思っています。

閉店にあたって、これまでブランカをご愛顧くださいました皆さまには、本当に御礼を申し上げたいと思っています。実はね、辞めるときも常連さんが店舗の片付けを手伝ったりしてくれて、本当に助けられてばかりでした。夫とも「お客さまが手伝ってくださったのは、涙が出るくらいにありがたいことだね」と話したんですよ。

―ブランカは愛されるお店だったんですね。

画材販売、ギャラリー、喫茶、絵画教室やイベントにとどまらず、人と人とがつながって次の物語が生まれる場、ブランカ。次回は、そんなブランカを開店した店主、三浦さんの物語をお伝えしたいと思います。

常連客を招いて開催した閉店セレモニー


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