昭和の恋 [着の身着のままゲーム機]
メルカリで5百円 送料は無料 男は怪しいと思ったが、妙に懐かしさにつられて注文した まるで昭和のブラウン管テレビのようなそれは「着の身着のままゲーム機」という装置だった
フンフン、着の身着のままか、今のおれのままでいいってことだな
男はつぶやきながら、いそいそとレトロな筐体を書斎の机に置き、スイッチを入れた
おおお、テレビに吸い込まれる 逆貞子だあ!
いったい、どうしたんだ、ここはどこだ あ、あの海辺だ
季節は初夏のようだった 波打ち際をポメラニアンを連れた白いワンピースの女の子が歩いてくる 男は懐かしさで胸が一杯になった
お久しぶりね 知子よ、分かる?
ああ、分かるさ するとお前がおれを呼んだのか
ええ、3回忌だし もうそろそろいいんじゃないかと思って
そうだな、もう一人暮らしも飽きたところだし
もちろん、覚えてるでしょ
もちろんさ その犬の名はアトムだろ
相変わらず照れ屋さんね さあ、言って、50年前の今日、この海辺だったでしょ
着の身着のままでいい、おれの下宿に来いよ、だったっけ、そして君は
はい、よろしくおねがいします、だったわね
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