深々と頭を下げ、心を込めた本気の1曲を歌い上げる。 かつて、自分を社会人としての自覚が足りないと諭し、リスクが高い人物と評した上司からの別れの言葉に感慨深いものを感じた。 上役含む身の回りの全ての人間をしょうもないと評し、禁煙者のみの席で股をかっぴろげて煙草を吹かし、上役のマイクを奪って大声で熱唱したあの日の自分。 そして、上役が楽しそうに歌い、饒舌に酒を煽る姿を横目にマイクを譲り、煙草はポケットに入れたまま、自分なりの尊敬と敬愛を持って引き立てる今の自分。 私のこの数
朝、研修には行けなかった。道で声をかけてきた男が、かつての同期にあまりに似ていたから。 ノイズを消し去り、先へと進む。 そんなことを考えながら過ごす午後。建物と木陰の狭間、薄闇に控えめな赤陽が差していた。 またある日の午前。その日は夜に同期飲みがあった。 そうして君と時間を過ごす。 人を好きになることはない。誰かに心ときめくこともない。ただ、君を見ていると少し不思議な感覚になった。 午前、2人で立ち寄った海。波は高く、荒れていた。 そのままどこかで時間を潰し、西日も
床に就いた記憶の得ぬまま、ふと見た君の寝顔は美しかった。 すべてが上手くいかず、何をするにも邪魔が入ったあの日。 新宿某所一丁目。 喧騒を尻目に、交差点に停る200クラウンを引き留める。 渋滞を抜け、目的地へと足早に走る車内には無言が続く。いつもならすかさず口を開く自分も、いつしか歳を経たもの。古びた車のエキゾーストとロードノイズ、時折鳴るガタつきが寄り添う静寂の中、しばらくして目的地に降り立つ。 予約15分前の居酒屋には入れず、最悪。コンビニでアイスを買い路上で食うも
吹き抜けた風に気を取られた先に、君の姿はなかった。 そう静かに呟く君に、僕は上手く答えられなかった。その瞬間だけが、いつまでも僕の頭に残っては消えない。 あの時、僕はずっと気まずい思いを抱えていた。それが誰かに対するものではないこともよくわかっていた。終わりに向かって積み上げる日々の中、いつしか誰かに1人の人間としての自分を見せることを過剰なまでに恐れるようになってしまったのかもしれない。楽しいはずのあの時間、2人だけのあの世界の中で、僕はどうしてか、上手く笑えなかった。
肌を刺す寒さを纏った風が容赦なく外を吹き荒れる暗闇の中、私はただ次の目的地へそそくさと車を走らせていた。時期は二月、陽は地平線へと帰りを急ぐ足を早め、夕刻過ぎれば忽ち帷を下ろしたかの如く暗く冷たい、それでいて全てを包んでくれる闇が空を覆う。幹線道路はただ黙々と自らの仕事を全うする歯車のように、足早に過ぎる車を淡々と送り出す。 ふと、助手席の彼女に目をやると、底の見えぬ冬の冷たさが心を覆った結露のように、彼女の頬は濡れていた。どこまでも深く暗い冬の宵闇に心を痛めてしまったかの