写真
霧雨50号
テーマ「SNS」
作者:忍
分類:自由作品
こうして親戚一同で集まるのはいつぶりだろうか。
礼装に包まれた人たちが一人ずつ順に焼香をあげていく。その横顔と後ろ姿に見覚えがある人もいれば、そうでない人もいる。何故だか深い付き合いのある人は特にいない。単に関わるきっかけがなかっただけだろうか。世間一般的にはどうなのだろうか。よく分からない。今思うと、親族というのも実は不思議な繋がりなのかもしれない。
おばさんの訃報の知らせを聞いたとき、両親は「あんなに厳格で強い人でも、簡単に亡くなってしまうのね」と話していた。その時、自分がパッと思い出したのはたった一つのエピソードだけだった。
昔、何かの用事でおばさんの家にお邪魔したことがある。広いお家だった。何かの自分の態度が気に入らなかったのか「礼儀作法は小学校で教わらなかったの?」とおばさんは不機嫌そうに言った。当時の自分はかなり生意気なほうで、「教えてもらったのは、気候変動が深刻だとか、地球規模の話だけですね」と答えた。そんなやり取りとは無関係に、テーブルに置かれていたお菓子がやけに美味しかったのを覚えている。たしか、ムカついて全部食べようとしたと思う。
自分の番になり椅子から立ち上がる。参列者の前を通り過ぎ、焼香台の前まで静かに歩いていく。焼香台の奥には、たくさんの花で添えられた祭壇がある。その中央には、立派な額縁に収められた写真が置かれている。
今、おばさんは静かに微笑んでいる。初めて見る表情だった。
手を合わせ、深くお辞儀をする。小さく深呼吸すると、辺りはお香の匂いで満ちていた。